26 Fairy Tales Ep.4
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死んだ人にも。
風が運ぶ未来は来るのかな?
[嘲り哂う声は。
例え瀕死のサイモンの耳に入ったとしても、唸り声にしか聞こえなかっただろうが。]
―現在―
・・・ついに動き出したようね。
あたしも動かなくちゃ。
[フランシスカは赤い髪飾りにそっ、と触れるとニヤリと笑みを浮かべる。]
・・・ゴミは、ちゃんと片付けないといけないものね。
[零れる笑みからそっと覗く、鋭い牙。
幼き頃から人間に見せ物にされた、『愛玩』としての姿は既になりを潜めて。]
幸せな未来なんて、見せてやらない。
薄汚くて、狡い人間なんかには、幸せな未来なんて。
[フランシスカは闇に向かって嘲笑う。]
嫌ね、これ以上外にいたら、あたしまで殺したくなっちゃうじゃない。
[自然と零れでる嘲笑いをこらえるとフランシスカは鋭い牙を隠すように口を閉じる。]
指輪、預かってもらわないと。
…下手な場所に捨てると、拾われてたぁいへん。
ふふっ。
・・・どうやら、お疲れかしら。ポルクス様。
[抱え込んだ青年に囁きかける声。]
あたしも楽しませてもらうわよ?
人間が絶望に喘ぐ姿を、たっぷりとね。
[白き狼が悲願としている復讐への同調。
それはあの時から変わりは無く。]
……は……。
こんな身体で……情けない……。
[僅かに口元を笑ます。]
あなたには、助けられてばかりですね……。
もちろん……ですよ。
人間達に復讐を。
俺も、まだ、死ねない。
[熱病に魘されるように、瞳は赤く爛々と輝き。
『証』も、それに答えるよう仄か光を灯していた。]
[意識のないポルクスの首もとで証が灯る。
生きたいと願う欲望は。
希望を求め夢を繋ぐ。
それは幼き人狼が見た光景。
聞いた音と声。
悪夢の記憶。
10年前の惨劇のもう一つの物語。]
[最初の光景。
8歳くらいの活発そうな少年が隣りに座っている。
鋭くピンッと立った耳とふわふわ尻尾の人狼の子供。
群の大人が大きな獲物を獲って来た事、早く一緒に狩りに行きたい事を騙り、ポルクスも一緒に行こうと笑う。]
『そうだね、カストル。』
[答え、少年の名を呼ぶ声と共に光景は切り替わる。]
・・・・・
[森の中を駆ける。
隣りにはカストルの姿。]
・・・・・
[カストルと黒い大きな狼が戯れている。
年齢不詳の男がそれを微笑ましげに見詰める。]
・・・・・
[沢山の人狼達に囲まれている。
そこに笑顔は絶えない。]
・・・・・
[倒れ泣くカストル。
その足にはくくり罠の紐がきつく絡み付いている。
小さな手がそれを解こうと引っ張るが、ますますきつく小さな足を締め上げる。]
『………………!』
[かなり近くで人の声と気配。
びくりと震え、視線を廻らすと、カストルと目があった。
縋るような涙目。]
[がさり
一際、近くで響く音。
カストルの視線を振り払い、手近な藪の中へと飛び込む。
ぎゅっと瞑った目には暗闇しか見えず。]
『カワッタケモノダ』
『オオカミノヨウダシ コロシテシマオウ』
『ダケド コトバガワカルミタイダ ソウダンシタホウガイイ』
[理解できる筈の言葉は、まるで異質な言葉の様に聞こえ。
談笑する笑い声と、怯えて泣くカストル『声』ばかりが耳に残る。]
・・・・・
[領主の屋敷の庭。
檻の中、見世物の様に閉じ込められたカストル。
ぐったりとしながら、力無く泣く。
群の仲間達と一緒に遠吠えですぐに助けると呼びかける。
一人の男が持ち出し、カストルに向けるのは黒光りする――]
『やめっ……!!』
[響く銃声。]
・・・・・
[倒れている。
撃ち抜かれた左膝からだくだくと溢れ出す血が、白い足を赤く染める。
銃口がまた向けられる。
痛みと恐怖に震えながら、銃を構える男の顔をはっきり見た。
領主オルグイユ。]
・・・・・
[広がる赤。
覆いかぶさった大きな黒い獣。
庇って撃たれた彼は既に息絶え。
その奥に見えるのは銃に弾を補充しようとする――。]
ま、私の正体に勘付いた所で。
素直に殺せるとも思っていないのだけど、ね。
死にたくない……。
[呟きは、きっと誰にも届かない。]
この女……。
[殺したい。
殺意に満ちた欲望に『証』が熱を持つ。]
…しつっこい。
自らの手を汚すのは面倒なんだけど、ね。
最悪、瓶を振り下ろす瞬間に入れ替わる…?
それならぎりぎり出来るかしらね。
語り部自らが手を下すことになるなんてね。
…無様だわ、まったく。
[軽い舌打ち。]
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