204 Rosey Snow-蟹薔薇村
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フィリップ……
[伝わる。
その、衝動に。
手を伸ばして、治めることができるかと]
[痛い 痛む きしりと
暖かな 陽射し 思わせる
あそこに帰りたい そう 一緒に旅を]
[だから 一番
衝動を 向けてはいけない人]
ラル…………ふ……
[その温度は ラルフのもの
一番衝動を 向けては いけない 存在]
――
フィリップ、……
[食いつかれても、怖さはない。
ただ、フィリップが落ち着くように、呼びかけ続ける]
俺ーーーーなんてこと を
[薄い硝子が砕けるような そんな音が響く
衝動を抑えた 望みが絶たれる 音]
[痛い、熱い。
食われる感覚に、ぞくり、とする。
それもまた、一種の衝動をあおって。
気づいたフィリップに笑みを向けた]
……いいよ。
俺が、傍にいたせい、だから。
違う ラルフのせいじゃない 違う
………………
[ほと ほとと
滴が目からこぼれる]
一緒にいられなくなる
[どうして こんな獣と 大事なラルフを
一緒に旅をさせてくれようか?]
ーーー一緒にいられない
[どうして 今後 ラルフに一切衝動を向けないなんて
己を信じられようか?]
……一緒にいられないのは、悲しい、よ。
[涙止まらぬ様子に、悲しげな色がかえる]
――フィリップ。
けどーーーーけど
一緒にいたら いつか 食べてしまう
いつか 終わってしまう
いやだ 俺 ラルフ 食べたくない……っ
でも 食べたいって 思ってる
――――フィリップ。
[食べられたら、フィリップの一部になる。
けれど、声は聞こえないし。
温かさも、感じられるか、どうかわからなくて]
……たべなくても、いっしょにいたいのに、ね。
…………一緒にいたい ラルフと
痛いよ いたいけど…………
一緒に…………そばに
――うん。
いっしょに……それだけでいいのに。
[衝動の、抑えることのできない強さ。
それは、どうしようもないもので。
フィリップを、ただ案じている。
それと同時に――
同じものを感じてしまったら。
きっと、抑えることなどできないと、思う]
……それだけが できない
[獣であることも悪くないと思った
それが すぐに転じられる
一緒にいられない ラルフを傷つけた
それでも 大丈夫と 言ってくれる
ラルフといられない
きっと いつか抑えが効かなくなる
同調した感覚 何に?]
――……悲しい。
[傷つけられてもいいと、思えた。
食われるのも、悪くないと、一瞬。
それは、危険で。
たったひとり、フィリップを残したくなくて。
けれど、傍にもいられない、それが]
かなしい、ね……
うん…………
[ラルフは
逃げなかった 怯えなかった 避けなかった
牙を 受け入れてくれた
それは危険で
ラルフには笑って欲しい
傷つけたくない 痛いと思わせたくない]
ーーーーーーうん
[どうしようもない 感情だけがつもる
同じように思ってくれる けれど悲しい]
[どうしようもない。
悲しさだけが、つのる。
あんなに、暖かかったのに]
…………衝動を、抑えるすべを覚えたら。
そしたら……
[覚えるまで、
それまで、衝動に負けずに。
そうしたら、きっと。
そんな、夢を思う]
ーーーー………………
[そんな未来があるのだろうか?
そんなすべを身につけられるのだろうか?
向けてはいけない 衝動を
向けて傷つけてしまうような 己に
深く 深く 光のない 海の底に
沈んでいく感覚
冷たさで手足の感覚は痺れ
ラルフの言葉 信じたい
けれど 自分が信じられない]
…………寒い…………
[温もりが欲しい]
――……フィリップ
[案じるけれど、遠い。
止めることも、できない。
いつか、フィリップと同じようになるのが、わかる。
きっと、それはきっと、遠くない先の話で。
だからこそ、フィリップを案じている]
ーーーーーー………………寒い
[深く 光の届かない海に 沈んだ
彼の意識は 名を呼ばれると
ぽつり と 地上に届く前に
水に溶けてしまう泡のような
小さな 意識を 零す]
……いま、ホレーショーに伝えたから。
だから……
フィリップ、……
[衝動を堪えるの、無理をさせるのと同じだから。
無理しないでとも言えず。
ただただ、案じる気持ちだけを向けて]
ーーーーー………………うん
[ぽつ と また 淡い意識が 一つ
水面 暖かい陽射しが あるのを知っている
けれど 手に 脚に 解けない 鎖
沈み切った 重い体 もう 浮上するために
足掻く力もなく ただ 届くもだけ
辛うじて 窒息死をまぬがれ]
――――
[かろうじて、届く。
その伝わる思いに、ただただ、案じている]
……すべて、終わったら。
きっと、……
[衝動をおさえることができたら。
できなくても――大事な人たちが残っているのなら。
きっと、やり直せる、はずで]
[終わったらーーー全て終わったら
最期はーーーーー嗚呼]
食べたく…………ない……
[全て終わったら…………きっと
食べないでいい きっと もう 誰も食べない
だれも 傷つけない ただ きっと寒いだけ]
寒いーーーーやだ 食べたくない
いやだ…………いやだ…………
[けれど 水面は遠くて もう遠くて
届かない ただ 嘆きだけが
ぽつり こぼれるままに]
[伝わる嘆きに、
胸が痛い]
……フィリップ。
[ただ、名前を呼んで。
衝動にのまれたのがひどくならないようにと、願う]
[口元 微か シメオンの 血の味]
いやだ…………助けて…………やだ
やだよ……やだ
[ただ それは 案じる 微かな それを
悲しませるに過ぎない けれど
抑えきれず 浮上出来ない意識は
耐えきれず ただ ただ ほつれる]
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