─ 閑話休題 ─
[吸血鬼仲間の死を目にしたことがあるかい?
この古城でもまるで死と見まごうような永き眠りとは異なり、その曖昧な生が尽きてしまった例はある。
たとえば、新人のフィリップくんが今使っている部屋。
以前あそこにいた吸血鬼はさぞ綺麗好きな性格で日がな一日棺桶やワイングラスを熱心に磨いていた。
彼は本当に毎日飽きることなく熱心に磨いていたのだが、ある日部屋に黒ずんだ銀を見つけた。どうしてそんなものが彼の部屋に舞い込んだのかは全くの謎であるが、彼は目ざとく見つけてしまったのだ。
黒ずんだもの、それがたとえ銀であったとしても、彼は磨かずにはいられない。そう、これはいわば未必の故意。
両腕が焼けただれた男はその年の冬に死んでしまったのだ。どうやら彼は銀にはめっぽう弱かったらしい。
棺桶やグラスなんか、彼の所持品は皆で形見分けをしたが
あの部屋には今も、彼が磨いてピカピカになった、血濡れの銀があるらしい。
それにしても、十字架の形をしていたんだからよせばいいのに。性分と言うのは恐ろしい。
願わくば、今、あの部屋を使っているフィリップくんが何かの拍子に銀の十字架に触れませんように。]
(246) 2016/12/07(Wed) 00時半頃