[写真撮影の許可が得られなければ、無理に撮ろうとはしない。答えを待つ間、試しにファインダー越しにセシルを覗こうとし、眉を寄せる。]
……、そっかぁ。そうですの。
[ピントの合わせ方がよく分からない。写真を撮ってもいいなら、その声だけを頼りにカメラを向けた。
少女がこの列車の中で、最後に映すであろう写真は不自然にピントが合っていないもの。
瞳を閉じて、セシルの歌を聞き入る。]
ぱちぱちですのー!とても素敵でしたの。良い声してますの!
[惜しみない拍手と満面の笑みをセシルに向けて、賛辞の言葉を送る。ポシェットの中から、アクアマリンの粒を取り出して、セシルに渡そうとする。]
あっ……!ご、ごめんなさいですの。落としちゃったですの。
[手を伸ばして、そこに手があると思って、だけど目測を誤り、アクアマリンは床に落ちてしまう。拾おうにもどこにあるのか分からなかった。]
こ、これ。新しいのですの。私、この駅でおりるんですの。
だから、だからね。バイバイですの。
[新しいアクアマリンの粒を差し出して、セシルに別れを告げる頃には、既に猫の姿は無かった。]
(110) 2014/05/23(Fri) 22時半頃