……そうさ、おとぎの国のパーティだ。
甘いタルトにおいしいキノコ、怖い女王様は犬に食われちまうんだ。
[おとぎの国の話など、男は詳しく知らない。うろ覚えのまま語り続ける。]
狼に喰われる赤ずきん、あとはなんだ、ガラスの靴に合わせて足を切るんだっけ?
……あー。動いてやがんな。
[最後の言葉は自らの腕を這い回る入れ墨に向けたもの。手首の近くに入れたトカゲの入れ墨は、むろん動いているはずもないが、今のヘクターにとってはかわいらしいペット。]
こいつもおとぎの国の住人なのかね? こうやって楽しい時だけ動きやがるんだ。
[ヤニクを抱きすくめたまま、自慢するように入れ墨を見せつけた。]
騎士? そこまで大層なもんじゃないが……俺に勝てるやつなんていやしねえぜ。
……そうだな、なら俺は騎士かもしれねえ。そうだ、俺は騎士様だ!
[ヤニクの言葉で認識はたやすく書き換わる。自分は騎士、その思い込みはヘクターの心の奥に根付いた。]
(84) 2010/07/06(Tue) 22時半頃