[歌声が、聴こえる。
草原に足を投げ出して座るクリスが、心地良さそうに唄う傍らで、青年は海を眺めて立ち尽くしていた。
『外に出たい』、『海が見たい』。この数年、何度も願ったことではあったけれど。こうもあっさりと現実になったその風景に、呆然と、見惚れていた。]
こんな、簡単な事、だったんだな……
[言って、輝く水平線から視線を上げた。目を射抜くような夏の蒼穹。中庭の切り取られた空よりも、ずっと広い。]
『こうしてると、何だか色んな事、馬鹿らしくなっちゃうね。』
[彼女の声に振り向いた。>>67
隣にどさりと腰を下ろして、ん、と伸びをする。酷く晴れがましいような、どこか心許ないような。不思議な気持ちで、頷いた。]
そうだな……、なんか、ほんと。
馬鹿みてぇだ。
[小さく笑った表情は、歳相応のそれで。
鬱屈した翳を背負い込んだ色をしていた瞳は、今日の空のように晴れていた。]
(68) 2014/09/12(Fri) 22時頃