……違う、と思う。嬉しくないから。
[先程自分の胸元から芽吹いた花を毟ったことなど既に記憶にない。
ただ、眼下の花を見ていると自然と手のひらに力が加わり。
きっと、花があまり好きではないのだな。なんて自己完結しようと決めた男は、ふと彼女の左手の紫のスイトピーを見やり、]
……そういうあんたは、誰からか貰ったの?
[意趣返しのように問いかける。
さすれば彼女から、“先生”の左手から手折り差し出されて受け取った>>32のだと、伝えられたか。
もし、彼女の口から“先生”とのやりとりを聞くことが出来たのなら、その顔を思い浮かべてみようと視線を宙へ。
きっとその記憶の中に浮かぶ人の顔は、このサナトリウムへ訪れる際に、少し言葉を交えた一人の男性。
確か名はスティーブンといったようであったけれど、彼はこのように腕に花を咲かせていただろうか。
セシルが彼女の先生であることを知らない男は、暫し逡巡させたけれども、それはやがて意識の外へと掠れていき…だんまり。幾らかきっと交わした筈の言葉は、何も思い出せなかったから。]
(43) 2014/09/05(Fri) 23時半頃