「えっ」
壱区の方を眺めていると向こう岸から歩いてきた女性>>34に声をかけられた。橋を行き来する町人は他になく、必然的にこちらも彼女に目が留まるだろう。
壱区から歩いてきたこととその振る舞い、美しい姿から遊女ではないかと推測しながらも遊女を実際に見たことはなく、そもそも遊女が遊郭の外へ赴くことがあるのかどうかも分からない。
このまま固まってしまうのも相手に失礼だろうと思い、拙い返しで会話を取り繕う。
「あ,相手って・・・別に興味とかそんなのじゃ・・・」
微笑みこちらを見つめるその眼差しはどこか落ち着き澄んでいて、一挙手一投足すら見逃されないように感じ、恥ずかしさからか視線を逸らしてしまった。
決して遊女遊びに興味があるわけではない。
ただ『そちらの世界』には興味がある。自身が知らないもの見えない人がそこにいる可能性がある。
今回の状況でなければ彼女の答えには否定したであろうが、不意を突かれた質問に思わず出た言葉ははぐらかしであった。
(42) 2015/01/25(Sun) 13時半頃