[赤いフードの男が傍らに立ったままなら、座るように促して。
手の中のビスケットの端を咥え、真ん中でパキリと折った。ん、と短く言って、ヤニクの口元にそれを当てがう。戸惑うようなら、構わずそれを押し込んだだろう。
そのまま押し黙って、落ちる日差しに溶ける中庭の景色を眺めながら。
口の中でほどけていくビスケットは、味覚なんてどこかに咲き忘れてしまった筈なのに。どこか、甘かった。]
────…なァ。オマエにさ。
[どれくらいそうしていただろう。
視線を前に向けたまま、青年の唇が動く。紅鳶色の瞳は、どこか遠くを見詰めて。時折、古い記憶を呼び起こすように細められる。]
ずっと、訊こうか迷ってたことが──あって。
忘れてたらそれでいいんだけど、さ。
[逡巡するような間。
無意識だろう、両手の指が、腕に咲いた花を押し潰す。]
…サーカスに。いただろ。いろんな都市を回って。
前座で、赤いフード、被って。
オマエのこと、見たことある。たぶん。
(22) 2014/09/10(Wed) 00時半頃