……よう。繁盛してるな。
いつものカウンター、空いてるか
今日は──…お、仕入れてくれた?ありがとさん
ならそれと……
[じっとりと汗ばむ掌を腿で拭い、潜る扉の先。
普段見かける顔が少ないことに気づいても、そういう日もあるだろうと定位置に着く。
今宵のシュパーゲルは、Schwarzwälder Schinken。茹でたて熱々の乳白色の身に薄紅の肉を纏わせると、余熱で肉の脂が緩み、燻製独特の香りが立つ。肉と野菜の甘味と塩気が咥内で絡み合う瞬間だけは、今日まで生きてきたことを素直に喜べる。
──そうして今夜も、春を謳う野菜のような、瑞々しくて甘くて、ほんの少し苦い夜を過ごすのだろう。
あの人はこれを食べたことがあるだろうか。肉が好きでビールが好きなら、恐らくハズレとなることはないだろう。
季節が終わるまでに、口にする機会があればいい。]
(17) mumriken 2019/05/24(Fri) 20時半頃