…あんたに、あたしの見る世界は 見えるかね?
[暫しの熟考の後、ぽつりと呟く。
それは決して、立派な瞳を持つ彼を妬んだものでも、責めるものでも、ないつもりだったけれど。
薄ぼんやりとした視界には、それを聞くだろう相手の表情も 容姿も 何もかも、映りはしないまま。]
あたしもあんたも、そこいらを歩き回ってる誰も彼も、鼠小僧とやらも。
…目に見えるもんは違うだろ。
見えないもんを、どうこう決めつけられやしない。
[言葉を選ぶのも、紡ぐのも、得意じゃない。
その上今日はいつにも増して――喉の調子が悪い。
酷く狭い価値感を、試行錯誤しながら紡ぎ捨てる。
好意的な言葉など、何一つ口をついて出やしないから。
結局、彼の求める言葉は掛けられないままやも知れないけれど。]
“実在したら” …の、話だけどね。
[最後に、やれやれと首を振って。持ち上げた笠は、再び ぐい と引き下ろした。]
(12) 2015/01/22(Thu) 02時半頃