[賑わう傾城町を慣れた足取りで。たん、たん。軽い音を奏でながら。
艶姿の女に金を持った莫迦に、そうでない莫迦を代わる代わるその目に焼き付けては三日月を。彼方此方に泡沫の。籠の中で営まれる其れは――嘘か真か。]
亀吉の奴、滅多なことを――、
[彼に言われた言葉>>137を思い出せば今でも面映い。奴は本気で言っているのだろうか、いや社交辞令に決まっている。
そう分かっている筈なのに、彼を幻滅させないようにまた花車に料理を習わねばならないなァと思案して。懸想した女じゃァあるまいし、と独りでに苦笑をひとつ。]
“ ――忍ぶ恋路は さて はかなさよ 今度逢うのが命がけ
汚す涙の白粉も その顔隠す 無理な酒 ”
[口遊むのは遠い昔に知った歌。ぽつり、ぽつり、呟くよう。こんな気持ちになったあの日は何時のことだっただろうか。あの時ばかりは金を投げ打ってもいいと思った、あの時ばかりは――……、]
あァ、いけない……、
こんなことを考えている暇などないさねェ、
[ぱん、と両頬を叩いて気持ちを切り替えれば壱区の門を潜る男に声を掛けては金を頂戴する。その度に重くなる懐が唯一の癒し。
――あァ、なんて有意義なこと。]
(1) 2015/01/19(Mon) 21時半頃