126 生贄と救済の果てに〜雨尽きぬ廃村・ノア〜
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[あの時の感覚は、『喰われる』という意識がもたらした、単なる錯覚だったのかもしれない。
それでも、ぎりぎりまで追い込まれた体がとった行動は、その記憶に委ねたもの。 魔法使いの力は、平時の者に対してさえも、何らかの作用をもたらすのではないかと。
そんなこと、できる訳がない。そんなことは分かっている。 けれど、これだけ接近してきた魔物に対し、今ヴェラが向けられる力は、一つしか残っていない。
ツェツィーリヤも、イアンも封じ込められた右手が、強く赤黒く明滅する。 多くの魂を帯びた右手が、目の前の魔物と対峙する。
供物を手放した狼の、最後に残された本当の牙>>66。 それは、多くの魂が宿った、魔法使いの原点、『右手』。
『死の淵に立つ者』に対してではなく……『生の途上にいる者』に対する、『生贄』]
(86) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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[それは、まったく徒労に終わる、無駄なあがきだったのかもしれない。 このまま鉤爪が振り下ろされれば、抵抗することは叶わない。
そうでなくても、このまま未来を歩むことすら、できるかどうか危うい体だ。 だから、多くは望まない。
獲物はあいつだ、と、自らの右手に告げた。 できるなら力を貸してくれ、と右手の魂に呼びかけた。
例え、その一欠片でもいい。表面を打ち割るだけでもかまわない。 厚い氷で閉ざされた内側。おそらくは、その深く深くに眠っている……
『何者かの魂』に、力の限り『喰らい付け』、と。
振り下ろされる鉤爪の、風斬る音は聞こえてくるか。 薄れてゆく意識の中、ヴェラは最後に力を振り絞り。
生者に対する『生贄』の力を、発動させた**]
(87) 2013/06/20(Thu) 20時半頃
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風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 20時半頃
風来坊 ヴェラは、メモを貼った。
2013/06/20(Thu) 22時半頃
イアン…。
[そうか、それ程大切か。
魔物と化しても酷く冷静な視線が霧と化したイアンと
ヴェラの右腕を片目で見つめる]
どうせ放っておいても死ヌ。
[トドメを刺さなかった事を何故か言い訳の様に口にして
蜥蜴は四足のまま駆けた]
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―右手と鉤爪の対峙―
[そこで行われたのは、ほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。 『生贄』を発動させたヴェラに対し、振り下ろされた氷の魔物の鉤爪>>88。
そして、割って入る誰かの姿>>89。
視界はかすみ、姿はおぼろげではあったけど。 それがコリーンであることは、聞き馴染んだ声で分かった。
馬鹿者。詫びて撫でろ。
鈍った神経伝達を受けて、心の中でそう呟いた。振り下ろされる鉤爪のイメージ。 切り裂かれる自分と群の仲間の姿……]
(94) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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[けれど、鉤爪の動きは裂かれる寸前でぴたりと止まった。 近くで霧のように散って行ったのは、なんだったのか。 視界がかすみ、それすらも判別できない。ただ、呼応するように右手が脈打ったように感じ……。
……お前か? 礼を言うぞ。
その脈拍が、かつてよく触れあっていた相手のように感じて。 ただの気のせいだったのかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。
先ほど何かが散った場所と共に、右手に撃ち落とされる、氷の鉤爪>>92。 もはや、痛みは特に、感じない。
ただ、宿らせていた『生贄』の力が、その場で消滅していった。 ぬかるみに打ち込まれた右腕は、もう動かない。魔物がどうなったのかも分からない。 ヴェラはただ、持ちあがる力さえないその右手を、ぼんやりと見つめることしかできなかった]
(95) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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[コリーンの声が聞こえてくる>>96。 話しかけられるということは、当面の危険は去ったと言うことなのだろうか。 あの魔物が、ホレーショーかもしれない。 その言葉はすんなりと受け入れ……続く言葉の意味までは、朦朧としているせいか、ヴェラにはうまく受け止めることができなかった。 ただ、『生贄』という言葉に、伝えなければならない事実を思いだす]
イ、ア
[イアンと、ツェツィーリヤがこの手にいる。 途切れ途切れに発した2人の名前と、無理矢理持ち上げようとした右手の腹で、彼女に意味が通じたかどうかは分からない。 それでも、伝えておかなければならない。 おそらくは……自分も群から離れる時が、近づいてきているのだから]
(97) 2013/06/20(Thu) 23時頃
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[謝るコリーンの声がする。微かに顔をあげて彼女を見やる>>98。 聞こえてくるのは詫びの言葉。 狼であれば、赤い雨の薄まる頬の筋を、舐め取っていたのかもしれないが。 詫びるは……むしろこちらの方だ]
……っ。
[イアンとツェツィーリヤのことが通じたかどうかは分からない。 右手を受け止められ、そのまま運んでくれようとしていることは分かった>>100。 体を動かす力は残っていない。 小柄でも、脱力した体は重かろうと、精一杯首を振ろうとする。 おそらくは、もう長くないことは、自分でもしっかりと理解している。 だから、精一杯の力を込めて、訴えた。「頼、む……」と]
(101) 2013/06/20(Thu) 23時半頃
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[泣き声が聞こえてくる>>103。ヴェラは困ったようにシュンとなる。 頼みたいこと。それは、『喰って』くれ、と。 私が受け継いできた数々の魂を、かわりに受け継いでやってくれ、と。 そう伝えたかったが、コリーンが泣いているからか、それとも単純に口を動かす筋力が残っていなかったからか。
言葉はこれ以上出てはこなかった。
体が冷えて行くのを感じる。訪れる時が、すぐか先かは分からないが。 こうして看取られるのも悪くはないな、と動かぬ体は彼女に委ねた。 女はいい。温まるし…………などと思いながら、やがては瞼をゆっくりと閉ざしていくことだろう]
(105) 2013/06/20(Thu) 23時半頃
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[悪くない。誰かに看取られて終えるのは悪くない……が。
ただ、叱られそうだな、とは思う。 群れの仲間に対してか、右手に込められた魂たちに対してか。
だから、ヴェラは心の中で、すまんと一言詫びを入れた。 それは、傍にいるコリーンや群の仲間に対してと、ツェツィーリヤや、イアン。 この右手で受け継いできたはずの魂たち。
あんまり先の事を考えず、大言を吐き続けてしまったものだから。 今更引っ込めるのは、相当心苦しいのだが。
これ以上、群を守ることも、魂を引き継ぎ続けることも叶わない私は]
(108) 2013/06/21(Fri) 00時頃
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私……は、弱かっ、た……。
[吐き出す息と、ほとんど聞き分けられないだろう声。 すまない。
最後に口惜しげにそう呟いて、そのまま意識は遠ざかって行った]**
(109) 2013/06/21(Fri) 00時頃
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ヴェラは、遅いではないか。そうは思ったものの、耳に聞こえた言葉>>107に、私もだ、と小さく首を……**
2013/06/21(Fri) 00時頃
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