84 戀文村
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[老婆はいつも、落胆したような、安堵したような、曖昧な表情でブローリンを迎える。 それに彼は、敬礼で答える。やめて欲しいと、何度言われても。 同僚以外で敬礼するのは、彼女に対してだけだった]
[懲りない人だと、柔らかな口調で言う彼女に、申し訳なさそうに頭を垂れる。 寒いから入るようにと言われ、もう一度頭を下げて、招き入れて貰う。 戸をそっと閉めて、自分よりもはるかに遅く歩く彼女に続く。 見た事のない"老いた"母に似ていると、心から思う。 きっと、このように優しく柔らかく、儚げに老いたのだろうと]
[話題は、彼女が振らないと始まらない。 だから、ほとんどは、ただ沈黙した時間が過ぎる。 それを気まずく感じないが、彼女もそうであって欲しいものだ。 …例えそうであっても言わぬだろうから、確証がもてないのだが…
この家で手伝う事などそうありはしない。 みな、あの働き者の彼女が済ませていっている。 自分の母を世話してくれているような喜びを覚えるのは、 きっと傲慢だろうとおもうのだが。それでも感謝の思いが強かった]
(191) 2012/03/26(Mon) 23時頃
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[村人がブローリンの事を悪く言っていたという。 小さく、数度頷いた。何かあったのかと問われ、 俯くが、ややあって、彼女を見据える。 ゆったりと首を振って、机を指す老婆。頭を下げて、ペンを借りた]
[結局自分は軍人に過ぎない、と書く。 老婆は、それでいいのか、と聞く。少し間を空けて、頷いた] なら後悔しないように、と彼女は言う。 手紙の顛末は聞いている。この年まで生きた彼女の言葉には、 エリアスとは比べ物にならない重さがある。
それでも彼と思いの色は同じだろう。 ここにいるといつもそうだ。何度も瞬きして、深呼吸する。
声が出るなら、伝えたかった。文字ではなく、音として。 それが叶わぬから手紙にした。それは彼女には渡せないまま。 彼女が受け取ってくれるかどうかが分からないからだ。 それは、他のたくさんのものとは少し違い、 "彼女宛"の一通なのだから。そして続いた彼女の言葉に、 心臓が跳ねる]
(195) 2012/03/26(Mon) 23時頃
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『あなたも、手紙を届けたい方がいるの?』
(197) 2012/03/26(Mon) 23時頃
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―それは
―それは、貴女だ
(-61) 2012/03/26(Mon) 23時頃
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―俺は貴女を、貴女を包むこの村を、守りたいと思ったのに ―どうして……なぜ
(-62) 2012/03/26(Mon) 23時頃
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[震える手で、文字を書く。]
"いる。 けれど、その人はきっと自分からと知れば受け取らない"
『なぜそう思うの?』
[俯いて吸い込む息が震える。時が来れば、その時に と書き、非礼を詫びて立ち上がり敬礼する。 茶くらい淹れるという願いを固持し、老婆の家を後にした。
歩いて歩いて、誰もいない路地裏ともいえぬあぜ道、地面に崩れ落ちる。 嗚咽すら出ない喉を呪って、荒々しい、鼻息を響かせる]
(202) 2012/03/26(Mon) 23時半頃
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ブローリンは、口を開け放って、空気の震えない慟哭、空に向かって吠えた。
2012/03/26(Mon) 23時半頃
ブローリンは、年甲斐もない、と思いながら、袖に顔を押し当て、兵舎に戻っていく。
2012/03/26(Mon) 23時半頃
ブローリンは、自責に苛まれながら報告書を書き終わり、村に出ようか、寝てしまおうか思い悩む。
2012/03/26(Mon) 23時半頃
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[同日他紙、Roy Marcus Brolinの報告書より抜粋]
"―以上を総合して、体力、精神共に不安が残る。 標的にたどり着く以前に倒れ、誤爆ならまだしも、 任務を達成できず鹵囚となる事も予想できる。 尋問にあえば会えなく情報を漏らす事疑いなく、 前線に出すのは非常に憚られる事を記しておく。 また、信頼性を考えるに―"
(-73) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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[子供じみた抵抗だ。今日だけで何人分書いたか知れない。 そもそも、上に届いているかどうか。 こんな事、所詮は自分自身の罪悪感を薄れさせようとしているだけだ]
―それでも。
[それでも、この追加の報告書の束が、万に一つ、億に一つ、功を奏するかもしれない。 この村の駐屯兵なら上下問わず、彼の意図はすぐに分かるだろう。 この報告書がなんとか上まで届けば、あるいは……]
―あるいは、村ごと潰せ等と言われるか?
[その時は、軍人である前に人間であらねばなるまい。 だからこそ、それ以外では軍人であらねばならない。 今ここで駐屯兵毎兵舎を吹き飛ばしても、村は守れず、 味方の遺族が増えるだけだ。]
(-74) 2012/03/27(Tue) 00時頃
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[酒場に行こうかとも思ったが、セレストはともかくヨーランダに合わせる顔がない。 それはただ、逃げているだけだ。分かっていつつも、合わせる顔がないのだ]
……
[無様な顔を洗って、閉まる前、雑貨屋に行こうと思いたった。 大きな画用紙…いや、この際大きさがあれば何でも良い。 従軍記者も広報担当も必要ないこの村には、カメラを持っている同僚はいない。 写真趣味でもあれば持ち歩くところだろうが。生憎持っていない。 少しためらったが、結局軍服のまま出ることにした。 人目を気にする事もあるまい。どうせ着替えても部外者であるし、 毎日の様に立っている自分の顔を知らぬものもそういまい。 膝の汚れを払い、村に戻る。]
(241) 2012/03/27(Tue) 01時頃
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[雑貨屋の老人は店を閉める所だった。 足を止めた彼を見て、丁寧な口調で話しかけてくる。 快く店に入れてくれた主人に会釈しつつ、 スケッチブックを買った。老人の世間話―内容は深刻だが―が耳に痛い]
[赤紙について、重々しく頷く。ため息を吐いた老人に、 もう一度礼をして、店を後にする。広場に腰掛けて、 いくつか決めていた、描きたい風景に思いを馳せる。 残せる内に残して置きたかった。いずれ去る、自分自身のために。
目を閉じて、真ん中を不自然にぽっかりと開けた絵を描き始めた]
(244) 2012/03/27(Tue) 01時頃
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ブローリンは、白黒の風景が、出来上がっていく**
2012/03/27(Tue) 01時頃
ブローリンは、絵に一段落ついた折、カフェに入る。
2012/03/27(Tue) 12時半頃
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[少し薄く思われる珈琲を啜りながら、ペンを走らせる。 宛名のない、郵便屋を介すつもりのない手紙。 書いて、渡せないまま、渡せなくなってしまったものの厚みに、 この一通も加わるだろうか。 渡す時など、来ない方が良いのだし、そもそも、 村のものでない自分に……]
……
[目頭を摘まんで天井を見上げる。 村が愛してくれた証はなくなっても、彼が村を愛した事は、残しておきたかった。 それは弁明ではなく、罪滅ぼしでもなく、感謝の気持ち]
(260) 2012/03/27(Tue) 14時頃
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/* よくよく考えなくても「村には長いが」設定が全く要らない件について
(-90) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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ブローリンは、手紙を書き終えた。封筒を取り出して、中身の束を出す。
2012/03/27(Tue) 22時頃
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[手紙の中で古い物は、前に一度この村を出る事になった時のものだ。 それに戦地での写真、敵兵の死体と肩を組んだりなど、生々しいものは除いてある。 まるで学校の集合写真のように写っている仲間達の内、自分を含め生存確認されているのは 片手の指にも満たない。その四人弱も、今はどうだろうか。 銃を肩に立てかけている自分の写真。煤と血で汚れているが、白黒の写真では、 銃がなければ農作業でもしているようにも見える。]
……
[老婆にこれを送ろうと思い立った。 思い立った日から月日が過ぎて、いまだに渡せずに居る。 書き足した手紙と、また部隊に戻った後の写真とが増えていく。 店員の女性に、タバコを吸う仕草をして首をかしげた。 マッチと灰皿を持ってきてくれた彼女に会釈をして、 古い手紙を束ねて捻り、火をつける]
(287) 2012/03/27(Tue) 22時頃
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[代わりになりたいと思うのは図々しい事なのだろう。 ことさらに軍服のまま彼女を尋ねる意味も、恐らくはあの老婆は理解しているのだろう。 喜ばしいと思われてはいまい。彼女は、自分に優しさで答えてくれているだけだ。 なりたいと思っても、なれるとは思っていない。 あの老婆の哀しい心の荒野を潤す、たった一滴になりたいと思う。 そして、自分の行為は、さらにあの老婆を苦しめているだけではないかと、ずっと危惧している。 そうして、あの老婆が自分を拒絶しないのを良い事に甘えているだけだ]
……
[煤が舞わない様、灰皿に入れきる。 すべて炭化し黒くなった手紙の束。それが入っていた、傷んだ封筒。 それに、数々の写真と、新しく書いた一通の手紙。 後悔ないように。彼女に渡すのは、次自分が往く日だ。 そう心に決めて、代金を置いて席を立った]
(289) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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[セレストとヨーランダの決心を知っているはずもない。 ただ、サイモンの事もあり、セレストの態度の事もあり、 漠然と、今日会わなければきっと会えないのだろうと、感じてはいた。 所詮、意識下の感情だが、それに駆られて彼は墓地へと歩く]
……
[墓地についた頃には、もう日は殆ど落ちていた。 宵の明るみ、あるいは暗がりの中まだ二人は居ただろうか?]
(292) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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/* 話し終わってからでいいッスよ
とメモで伝えられないもどかしさ
(-91) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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/* あ、でもそれを楽しんでるので悪しからず(←
ヨーラに銃構えて、しっかり話した後に拾ってくれたのはうれしかった
(-92) 2012/03/27(Tue) 22時半頃
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ブローリンは、セレストにもし会えれば、村を背に、敬礼してみせる**
2012/03/27(Tue) 23時頃
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/* や、まぁ、ソロール村じゃないのだからいい加減に人と絡まないとね。 文字通りナタリアに甘えちゃってるし。
(-96) 2012/03/27(Tue) 23時頃
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