22 共犯者
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─朝・井戸>>176─ そうですね……生き残れたら。 そんな村を作って下さい。
[ 桶から両手で水を掬って、溜まったそれを飲み干す。 幾度かそれを繰り返した後、井戸の縁に手をついて立ち上がった。 水、ありがとうございました、と頭を下げ、]
出来ればずっと、この村で暮らしたかったです。
[ と最後に一言残して、立ち去った。**]
(183) 2010/08/03(Tue) 01時頃
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[ なるべく生贄たちの前に姿を見せ、ノックスを襲う時間がないことを印象付ける。 そんなことをしつつ、彼がノックスが襲われた場所に辿り着いたのは、どれほど経ってからだろうか。明け方近くなってからだろうか。 屍の傍らに跪き、泉に口をつけるように傷口に溜まった血を啜る。 冷えて固まりつつあるそれは、まだ命のある獲物から熱い血潮を貪る時のような酩酊は生まなかったが、彼にひとつのことを伝えてくれた。 すなわち、]
これは血族か。
[ 同属の血統に連なる人間。人狼の末裔。 いずれかの同属が、かつてこの村の人間と交わったのだろう。その血がノックスの上にはっきりと現れていた。 しかし、今はただの屍骸に過ぎず、これはただの肉だ。]
(*20) 2010/08/03(Tue) 06時半頃
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[ 通常彼は時間が経って冷たくなった死肉は食べないが、彼のためにと残してくれた同胞のために少量を摂った。 屍の匂いが残らぬよう、気をつけて身仕舞をし、その場を後にした。
聖樹の下に残されたノックスの遺体はやがて虫達によって大地に還るだろう。 それを妨げる、無粋な人間たちが森に分け入って来ない限りは。*]
(*21) 2010/08/03(Tue) 06時半頃
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>>*17>>*18>>19 [ 音声に拠らない会話は、言葉よりも多くの情報を的確に素早く伝達してくれるが、相手が心を鎧い言語以外のイメージを送らなかった場合や、伝えたいイメージを絞らず雑多な感情をそのまま流した場合はその限りではない。
だから、彼に伝わったのは、同胞の焦りの感情だけであった。]
どうした? 何かあったか。
(*22) 2010/08/03(Tue) 08時半頃
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―自宅― [ 玄関に鍵を掛け、窓という窓を締め切り、完全な密室を作る。 それは、彼が『かれ』に戻るための一種の儀式。 閉め切られた室内、人であれば己の手でさえ見分けるのが難しい暗闇のなかで、彼は身に着けた衣服を一枚ずつ脱ぎ落とし、同時に「ヴェスパタインである彼」も振り落としていく。
全ての人間性を捨て去り、全裸になった『かれ』は、人である間の汚辱を洗い流すかのように水で身を清める。 『かれ』は野生動物がそうするように、二、三度身震いして水滴を弾き飛ばした。 乾いた布は、濡れて重くなった髪から水気を拭き取るためだけに使われ、薄く隆起した筋肉の上に水滴を残したまま、寝床に歩み寄る。 そうして、『かれ』は眠りにつく。 その夢は、誰も知らぬまま。**]
(218) 2010/08/03(Tue) 09時頃
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―夜の森>>183― [ 彼女が手に力を篭めたのが支えられている彼にも伝わってくる。]
独りは寂しい…… そうですね……
[ 反芻する呟き、目を伏せる。 と、急に顔を上げてピッパの顔を正面から覗き込み、]
ピッパさんは本当はとても優しいのに、どうしてそうでないふりをするんですか?
ピッパさんは独りで寂しくないんですか?
[ 真摯な瞳で問いかけた。**]
(230) 2010/08/03(Tue) 14時半頃
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―午後・自宅― [ 日が傾きかけた頃、彼は暗闇の中でひっそりと目を覚ます。 寝床を離れ、新しい衣服を身に纏う。 『かれ』は「ヴェスパタイン・エーレ」になる。
「ヴェスパタイン」は窓を開け放ち、弱まり始めた午後の光を室内に誘い込む。 窓辺で長い髪を梳る。宵の色した髪に櫛を通すごと、肩の上でさらさらと流れて零れる。
あと数時間で日が沈む。 また儀式の夕べが始まる。]
(232) 2010/08/03(Tue) 17時頃
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―自宅― [ 窓辺に座って髪を梳いていると、遠くから自分の名を呼ぶ声がした。 見下ろせば道の真ん中で手を振る人影、まだ歳若い、少年と言ってもよい年頃の男だ。]
ああ――
[ 窓から身を乗り出したヴェスパタインは、テッドに向かって手を振り替えした。]
(234) 2010/08/03(Tue) 17時頃
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―自宅― ええ。
[と、二階の寝室の窓から答えたところで、会話がし難いのに気付いたか、]
今降りて行きます。玄関に回って下さい。
[ と大声で伝えた。]
(236) 2010/08/03(Tue) 17時半頃
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[ 程無くして、鍵を外す音がして、内側から工房の入り口の扉が開けられる。]
どうぞ。入って下さい。
[ 彼はテッドを、先日のイアンと同じように工房に招き入れた。]
(237) 2010/08/03(Tue) 17時半頃
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―自宅の工房― [ こじんまりとした工房の中は整然と片付いていて、作業台の上や壁際には様々な工具や器具、資材などが並んでいる。 テッドに椅子を勧め、]
そうですね。そう言えばきちんとお話したことはありませんね。
[ 淡い微笑を浮かべた。]
(240) 2010/08/03(Tue) 17時半頃
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―自宅の工房>>242― [ 「長老から余所者じゃないと認められた」の辺りで、ヴェスパタインの表情が何とも言えない微妙なものに変わる。 眉尻が恨めしそうに下がった。 横に逸らした視線も、何処か床の辺りを彷徨っている。 言いたい事はあるけれど口に出せない、といった風情だ。]
(244) 2010/08/03(Tue) 18時頃
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―自宅の工房>>245― [ 物凄ーーく寒い沈黙が室内を支配する。 ヴェスパタインはあさっての方角に目を逸らしたままだ。 違います、と否定しないのが、まさしく正解だと証明していた。]
(246) 2010/08/03(Tue) 18時頃
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―自宅の工房>>247―
――もういいですよ。テッドさん。
[ 何が「もういい」のか分からないが、ともあれ彼はそう言って、少し自嘲気味の苦笑を浮かべた。]
参加したくはなかったけれど、こうなったらしょうがありませんから。 精々死なないように頑張りますよ。
[ はは、と立てた笑いが空しい。]
(248) 2010/08/03(Tue) 18時半頃
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今宵の生贄は俺が選んでもいいのか。 それともまたお前が選ぶか?
[ 短い問い掛けだけを投げる。]
(*23) 2010/08/03(Tue) 18時半頃
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―自宅の工房>>249― [ ありがとうございます、と丁寧に頭を下げる。]
テッドさんも。 用心して下さいね。 あなたはどうもこの企みには関係していないようだから……
[ 同じく真剣な瞳で、その身を案じるように若者を見詰める。 その言葉から察するに、彼はミツカイサマなる超常の存在を信じておらず、まるでこの村の人間が何らかの目的で人を殺しているのだと信じているような口ぶりだった。**]
(250) 2010/08/03(Tue) 18時半頃
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>>*24
……そうか。 ならばこちらも勝手に選ばせて貰おう。
(*25) 2010/08/03(Tue) 20時半頃
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─自宅の工房>>251─ [ ふっと憐れむように目を細める。]
──そうですね。 あなたはこの村の方ですから……そう信じてらっしゃるのも無理はありませんね。 でも、不思議には思わなかったのですか? もう何十年も正式な儀式なんて、行われなかったそうじゃありませんか。 それなのに、何故今頃になってソフィアが殺されたんですか?
開明的だった村長さんは、新聞記者さんを呼び寄せた直後に亡くなった。 今度は夫人も…… ……そう言えば、村長夫人は亡くなる前、新聞記者さんに儀式について色々教えていましたね。
おかしいとは思いませんか。 まるで誰かがこの村が変わるのを懼れて、昔通りの儀式をわざと起こしているような…… この村の伝統に従わない、不要な人間を始末して、他の村人を昔のように森の神を怖れる村に戻そうとするかのような……
[ 幾分かの不安と怒りを声に込めて、彼は疑惑という名の糸を紡ぎ、不信の網でテッドを絡めろうとしていた。]
(258) 2010/08/03(Tue) 21時頃
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>>*26 [ 少しの間の後に答えが返ってくる。]
知りたいのなら。 俺はオスカーの姉妹を狙うつもりだ。
守りたいものを喪った、あれがどう変わるか見たい。
(*28) 2010/08/03(Tue) 21時半頃
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>>*27
なるほど?
ならば、ラトルの娘の口を塞ぐか。 この先余計な力は使われたくない。
[ 淡々と声は宣告する。]
(*29) 2010/08/03(Tue) 21時半頃
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─日没後の広場─ [ 日が落ちる頃、ヴェスパタインも広場に姿を現す。 殆ど普段着のまま森に入らざるを得なかった昨夜に比べれば、一応の準備はしてきたようだ。
辺りを見回し、揃っている人間の顔ぶれを確認する。 まだ全員は集まっていないようだ。 それとも、もう森に入った者もいるのだろうか。]
(272) 2010/08/03(Tue) 22時頃
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─昼間・工房にて>>*30─ [ 既に身支度を整えた彼は、じっと同胞を見詰める。]
何を気弱なことを……
[ 一笑に付したが、眸はそれ程笑ってはいない。]
(*31) 2010/08/03(Tue) 22時頃
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─広場─ [ こちらを見るミッシェルたちに軽く会釈し、近寄っていった。]
こんばんは、ミッシェルさん。 ……ええと、ニールさん。
(278) 2010/08/03(Tue) 22時頃
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>>*34 [ 同胞の考え込んでいる様子を観察した後、]
──ならば一日猶予しよう。 お前の決心が付くように。
だが思い出せ。 儀式を完遂するには、あの娘も手に掛けねばならない、と言うことを。
[ それは事実であり、冷酷な宣言だ。]
(*35) 2010/08/03(Tue) 22時頃
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─広場─ 何の話をなさっているんですか?
[ 僅かに首を傾け、宵月色の瞳をミッシェルとニールの二人に眺めやる。]
やはり昨日のことですか?
(285) 2010/08/03(Tue) 22時頃
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>>284 [ ミッシェルの質問で彼は、目に見えて顔が暗くなった。 目の辺りが何処か虚ろだ。]
……ええ。まあ。 別に参加したくてしたのではないですけど。
[ 渋々といった口調で答えた。]
(292) 2010/08/03(Tue) 22時半頃
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>>289 [ ボリスの名を出されると、びくりと目の縁が引き攣った。 だが、それでも敢えてボリスの名に言及する真似はしなかった。]
いや、用があるとかないとかではないんです……。
[ ぼそぼそぼそ、と語尾は口の中に消えた。]
(296) 2010/08/03(Tue) 22時半頃
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>>*36 [ 同胞の瞳の奥の真剣な色を読み取り、 それを真正面から受け止める。]
──ああ。
[ 短い応(いら)え。 だが彼はどこまで同胞の言葉を守る気であったか。]
(*37) 2010/08/03(Tue) 22時半頃
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>>298>>300
ともかく。 行かなければならなくなったので行くんです。
[ 顔を伏せ、視線を地面の何処かに彷徨わせながら、二人に向けて、半ば自棄になったように説明にならない説明をした。]
(304) 2010/08/03(Tue) 22時半頃
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>>*38 [ 同胞を見詰める宵月の瞳は揺らがない。 だが。 無言で腕を開き、愛しいものを呼ぶように誘(いざな)った。]
(*39) 2010/08/03(Tue) 22時半頃
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