84 戀文村
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[手を後ろに回す店主と、とっておけばいいというミッシェルと。 二人に挟まって、女は困った顔をする。 再び縋るように見るのは、ヤニクで。 だから、ミッシェルが残した言葉に、 店主が呆けた顔は見れなかった。]
……もう。
[ミッシェルの背を送り、女は諦めたようにため息を吐く。 受け取られなかった代金を握り、ふっと思い立ったように ヤニクに差し出す。]
ヤニクさん、よかったらこれ。 少ないけれど、外に出たときの足しにして?
[何気なさを装って、けれどしっかりと相手の眼を見て言う。]
逃げれるなら、逃げた方がいいと思うの、貴方は。
(0) 2012/03/28(Wed) 00時頃
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[女の考えを読むように、店主も語尾を拾ってくれる。 そして、彼が席を外した後の僅かな間、 ヤニクの口から零れる言の葉。]
私が、一緒に?
[果たして、彼の言葉を女は、どれだけ理解していただろう。 共にという言葉に、瞬く瞼。暫くの沈黙。 相手の心理、理解していても、そうでなくても、 緩く女は、首を横に振った。]
私は、行けないわ。 待っていると、約束したもの。
[セレストを、そして……。 言葉には言わなかった理由もある。 自分が出て行けば、残った両親は、どうなる、と。 姉のようには、自分はなれないのだ。]
(16) 2012/03/28(Wed) 01時頃
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……だから、ヤニクさんのお手紙も、待ってるわ。
[そして、つい先日の約束を持ち出して、力なく笑んだ。 受け取って貰えなかった、金子を引いて、 代わりに差し出すのは、あの童話。]
私の代わりに、これを持って行ってというのは、迷惑かしら? いつか、この国が平和になったら、返しに来て。
[本は受け取って貰えただろうか……それとも。 どちらにしても、そう長い間をおかず、女は店を後にする。 店先に店主が居るのなら、礼を一つ残して*]
(17) 2012/03/28(Wed) 01時頃
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[楽譜らしい本を、返す為に行く(生く)のだというヤニク。 差し出した本は、もしその目的がなくなっても、 次の生きる約束になれば……という、勝手な願いだった。]
ありがとう……。
[その願いを受け入れてくれた彼の言葉に、自然と零れる言葉。 いつかの逆、差し出される小指。 あの時、彼が躊躇ったと同じく、女も躊躇うが、 叶うと信じて小指を絡めた。]
(65) 2012/03/28(Wed) 17時半頃
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……ありがとう。
[ヤニクに向けたと同じ言葉を、ベネットにも向けた。 夜道気を付けてと、差し出された明かりを受け取って、 随分遅くなってしまったけれど老女の元へと行く。
そこで、今日、幾人がそうしたように、裡を老女に クラリッサは零した。 彼女は、いつもそうであるように、唯受け止めてくれた。 その時が、会ったから、セレストの最後の時を邪魔せずに済めた。 けれど……。]
(66) 2012/03/28(Wed) 17時半頃
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[次の朝、自宅から急いで向かったのは、 セレストの迎えが来るだろう場所。 もしかすれば、見送られるのは厭なのかもしれないと思えども、 そうせずにはいられなかった。]
えっ……そん、な……
[しかし、紙一重で迎えは行ってしまったのだと、 その場にいた軍人から聞かされる。 頽れそうになりながら、向かう先はナタリアの元。
それは、ちょうどエリアスと入れ違ってしまうタイミング。]
(67) 2012/03/28(Wed) 17時半頃
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[見送れなかった幼馴染を、約束通り待つのだと。 僅かな希望に縋り立て直した精神。
嗚呼、ヨーランダは、結局どんな答えをだしたのだろう と、そこまで思い至れるようになってから、 静かにかかる老女の声。]
……っ!!
[知らされるのは、もう一人の幼馴染にも赤紙がきたということ。
『絶句』という言葉がふさわしい有様で、 再び女は挙動が固まってしまう。]
(68) 2012/03/28(Wed) 17時半頃
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うん、ナタリアさん、判ってる……判って、いるわ。
[勝手に溢れてくる涙が止められない。 あの無口な軍人に返そうと思ったハンカチが、また濡れてしまう。
「きっとあの子は、いつも通りを旅立つ時まで望むと思うわ」
そんなナタリアの言葉に頷きながら、だからこそ、 彼に会った時、いつも通り微笑む為、 今、涙を枯らしてしまおうとするように。 暫くは、ナタリアの家に*女の嗚咽が響く*]
(69) 2012/03/28(Wed) 17時半頃
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クラリッサは、エリアスと、話がしたいな……と、やっと顔を上げる。
2012/03/28(Wed) 21時半頃
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[どれほど泣いていただろうか。 泣きはらした、けれどもう涙は見えない顔を上げる。]
ナタリアさん、キッチン借りてもいい?
[尋ねれば、老女は察してくれたのだろう。 とっておき(菫の砂糖漬け)を出してくれる。
いつも(戦前)と同じように、午後のお菓子を作ろう。 出来上がったなら、昔と同じように幼馴染に差し入れよう。 もう、その片割れ(セレスト)は、此処には居ないけれど。
やがて、甘い香りが漂う。仮初の平和の香り。 ラッピングが出来上がった頃に、 ヤニクが来るのならば来たのだろう。 会話交わすことがあれば、良かったらお茶請けにどうぞ、と クッキーを勧めてから、ナタリアの家を後にする。]
(88) 2012/03/28(Wed) 21時半頃
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[女は思うより、外は時が進んでいた。 エリアスの姿を探して、女は駆ける。 行く先を尋ねる間に、ヨーランダの訃報を知っても、 今は泣かない、泣けない……。
やがて、広場で無口な軍人と傍にある幼馴染を 見つけることが叶う。 大きく息を吸って、顔(笑み)を作る。
特別な会話は、いらない。 唯、幼い日(平和な日)をなどって、離れよう。]
エリアスちゃん、こんなところで、何をしてるの? あのね、クッキー作ったから、お裾分け。
[幼い日の記憶にはない、人の姿はあれど、 それすらも記憶の一部に塗り替えるように、 ひょこりと顔を出して、差し出す包み。]
(90) 2012/03/28(Wed) 22時頃
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わぁ……、素敵な春の絵ね。
[エリアスの答えに、少し離れた場所にいたブローリンのスケッチブックの絵を覗いて感嘆の声を出す。 きっと文字が書かれた紙は、隠されていただろう。 見えていたとて、女は見ないふりをするけれど。]
うん、また、感想聞かせてね。 ブローリンさんには、なくてごめんなさい。 今度作ったときには、2人分包んでくるから。
[そして、『また』感想を聞かせてと。 そして、ブローリンを軍人さんとは呼ばず、 名で呼ぶことで、彼も村人の1人のようにして ……偽りの平和の日常を作る。 そうすることが、何よりの非日常であるけれど。 偽りこそが、真実であるようにと、願うように。]
(94) 2012/03/28(Wed) 22時頃
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お邪魔しちゃってごめんなさい。 じゃあ、またね。
[柔らかく微笑んで、ひらりとスカートの裾を翻す。 それが、クラリッサにできる精一杯の見送りの言葉だった。]
(95) 2012/03/28(Wed) 22時頃
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クラリッサは、パタパタとせわしなく*広場を後に*
2012/03/28(Wed) 22時頃
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[精一杯の強がり。エリアスに涙を見せずにすんだ。
ナタリアの家で出し尽くしたと思った涙。 なのに、一人になれば、あとからあとから……。
自分のものと間違えて、使ってしまった かの軍人のハンカチを目尻に宛がう。 泣き顔を誰にも見せてはいけないと、 村はずれの木下で、膝を抱えた。]
(134) 2012/03/28(Wed) 23時半頃
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クラリッサは、物音が聞こえたなら、ぴくりと肩を動かし、顔を上げるだろう。
2012/03/28(Wed) 23時半頃
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[幹を挟んで人の気配がする。 そっと抱えた膝と腕の間から、誰かを確かめる。]
やだなぁ……。 また、泣いてるところ見られちゃった。
[ぽつりと、自分自身に苦笑するように呟く。 それ以上は、今は言葉にできなくて。]
(150) 2012/03/29(Thu) 00時頃
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ブローリンさん 溜め息をつくと、幸せ逃げちゃうわ。
[無口な人の内心を読むことできず。 この人も、泣きたかったのだろうか……と。 思って零した言の葉は、いつかと同じ言葉。 違うのは、先ほどの延長のように、名を呼んだこと。]
……でも、泣きたかったら、泣いてもいいの。 貴方も、エリアスちゃんと仲良かったから。
[膝に耳をあてて顔を横にして、鼻に指をあてる様を見つめた。]
泣いても、いいよね。
[相手に泣いてもいいといいながら、 自分がそうすることの許しを請う。]
(157) 2012/03/29(Thu) 00時頃
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[過呼吸の人が、息を求めるような音は、哀しく響いて。 祈りのような仕草に、多分きっと自分が放った言葉は、 間違ってはいないのだろうと、クラリッサは思う。]
……っ
[そして、許しを伸ばされた手に感じた。 ゆっくりと伏せた瞼。震える睫毛から雫が零れていく。
抱きしめられたなら、声を殺さずに泣くだろう。 声の出せない彼の分も……とは、きっと傲慢だけれど。]
(170) 2012/03/29(Thu) 00時半頃
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