103 善と悪の果実
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善と悪の果実も ………
[くしゃり。赤い布のたてる音は、少女の耳には湿って聞こえた]
…嫌ね
[くちゃり、ぴとり。 赤は嫌いだって何度言っても、よく似合うよと笑う父親を
嫌いにはなれなかった]
(*0) 2012/09/24(Mon) 02時頃
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………――っ、く くくく。
(*1) 2012/09/24(Mon) 03時頃
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[濡れた烏の色は、闇よりも深い。 罪と命を塗り重ねた色。 温度のない、ニタリとした笑みを湛え。 喉の奥を不規則に鳴らした。]
犬は、飼い主に従順なんかじゃない。 喉笛を噛み千切る機会を、今か今かと狙っているんですよ。
――大人しいふりをして、ね。
[濡烏、鉄錆、酸化した銀、煤にまぎれた―――赤。]
(*2) 2012/09/24(Mon) 03時頃
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[赤く彩られたその髪飾り。 熟れた果実のような色。 金を彩るその赤に、濡烏はつうと細まる。
まるで罪の証のようじゃないか。
金の林檎に滴る赤を髣髴させて、僕は笑った。 そう、―――わらったんだ。]
(*3) 2012/09/24(Mon) 03時頃
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嗚呼、あれが『善と悪の果実』。
[呟いた言葉はパーティの喧騒に紛れ。 その眼差しを知れるのは、そう。 同じような高さの視界を持つ者以外にありえない。
自慢げに披露する魔女の、露になった白い喉笛を見つめる眸。
今か今かと、時を待つ。 濡烏の眸を向けて――…**]
(*4) 2012/09/24(Mon) 03時半頃
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楽園に果実が落とされるというのならば。
―――――…私(わたくし)は、蛇になりましょう。**
(*5) 2012/09/24(Mon) 08時頃
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[垣間見えた少年の笑みに瞬いた、その瞳には 不快も不安もそこにはなく、ただ理由を思う不思議と、好奇心がのぞいていた]
…変な子、使用人かしら?
[おそらくは招待客――果実に惹かれた一人だろうとは思うものの、同列に扱われることへの抵抗は薄れずに、視線を逸らした]
(*6) 2012/09/24(Mon) 14時頃
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―――――…ふふふっ。
(*7) 2012/09/24(Mon) 22時頃
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嗚呼――――――――…。
きみが、愛おしい。
(*8) 2012/09/24(Mon) 22時半頃
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[――それは幼い貴族の少女にも、 見覚えのある髪飾りだっただろうか。
まだ、ブロワ家が栄華を誇っていた頃。 遠い遠い昔。 学者が捨てられた時。
父母が最後の情けにと、持たせた髪飾りだった。 彼らは学者が其れを売り払って生活を凌ぐと考えたのだろう。 しかし、学者はそうはせず、髪飾りを大切に持ち続けた。
黒い蝶の髪飾りと対になる、赤い蝶の髪飾り。 かつてはブロワの屋敷に置かれていた筈だ。 今はもう、売られてしまったのかもしれないが]
(*9) 2012/09/24(Mon) 22時半頃
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君をどうか、僕だけのものに。
(*10) 2012/09/24(Mon) 23時半頃
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[母が最後まで大事にしていた髪飾り。 赤い蝶は、羽ばたくことができずに、ずっと屋敷に囚われていた。その羽を広げたまま、震えることすらできずに、ただ、ずっと。
そして今も、少女の手の中に。
対となるものがあるとは知らず、ただ母の形見として布に包んで持ち歩いていた。 待つ者のいない屋敷にはおいていけないと、鍵のかかった箱から出して、懐へとしまいこんだ。 ただ、持っているだけで、一人ではない気がしたから]
(*11) 2012/09/25(Tue) 01時半頃
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[――否。
細める眸は果実だけを見ているのではない。 この大広間を見渡しているのだ。
誰がどんな表情をしているのか。 反応を窺っている。
出し抜く為の算段を。 あれを奪う計画を。 だから近づかず、遠巻きに。
恐怖や畏れなど、とうの昔に失った。]
(*12) 2012/09/25(Tue) 02時半頃
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どうすれば近くで見られるかしら
[グロリアに頼めば、と 幼い思考がゆきつくのは単純な帰結。
パーティーが終わったら、今度こそ会いに行こう。
金銭の無心というもうひとつの目的は、林檎を目にした時から頭の中から消え去っていた]
(*13) 2012/09/25(Tue) 02時半頃
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恐ろしい果実を持つ貴女は、さしずめ魔女のようだ。
[そこにはいない女主人を思い、唇が弧を描く。 あの林檎を盗み出せば、恐らく一生を楽に暮らせるだろう。
見せびらかすから悪いのだ。 目の前にちらつかせるから悪いのだ。
“魔女”は磔にしなくては――…**]
(*14) 2012/09/25(Tue) 03時半頃
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[その最中、壁際の椅子にかける少女の前を通過する。
黒い蝶は彼女の眼からもよく見えるだろう。 それは偶然を装うようで、 敢えて行った行為であったのだけれど。
行儀よく座る姿へ数瞬のみ視線を向けて、 にこりと柔らかな微笑みを浮かべた]
…お疲れですか? レディ。 どうかご無理なされませんように。
[囁くような声は、彼女以外には聞こえまい。 今はまだ、そう声をかけるにとどめて]
(*15) 2012/09/25(Tue) 06時半頃
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[烏の眸は射る。 そこには冷たい憎悪と羨望を持って。]
……………。
[言葉はない。 ただただ、“男女”と思わしき二人を見詰めている。]
(*16) 2012/09/26(Wed) 01時頃
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[ただ、"蛇"はその強い眼差しに灯る意思を感じて]
――――――――…ふふっ。
[小さく、小さく、笑ったのだ]
(*17) 2012/09/26(Wed) 01時半頃
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[黒い蝶が、羽ばたいている]
……… ぁ
[小さく洩らした声をかみ殺して、唾を飲み込む。 赤い蝶が眠る薄紅よりも、ずっと鮮やかな流れるストロベリーブロンド。 近くで見ればそれはやはり同じようで でも自信がなかった。 赤い蝶を起こして確かめる気はなかったけれど]
……ええ もう随分よくなりましたの
[少し強張った笑顔。 今はまだ、見送るのみで]
(*18) 2012/09/26(Wed) 01時半頃
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…………ふっ。
[笑みには笑みを。 黒く塗りつぶされ、光さえ灯らぬこの眸に “蛇”のような女の顔を刻み込んだ。]
(*19) 2012/09/26(Wed) 01時半頃
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[そして齧れば――
蜜が滴るほど甘いのだろう]
(*20) 2012/09/26(Wed) 02時頃
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[少女の髪の赤へ。 そして林檎と似た色の髪へ。
その視線の先。 ――否、その眸。
甘い林檎の蜜を啜ろうとする、そんな眸を烏は捕らえる。 微笑を向けたのは、扉をすり抜けるほんの一瞬前。]
(*21) 2012/09/26(Wed) 02時頃
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[微笑を作ることに疲れた一瞬の隙 向けられた笑みに返すのは、感情の灯らない空ろな瞳。
無意識に撫でた薄紅の褥に眠る蝶が目覚めるのは いつのことか――]
(*22) 2012/09/26(Wed) 02時頃
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