25 花祭 ― 夢と現の狭間で ―
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― B棟 ―
……法泉さま
[身じろぐ気配に顔を上げる]
花は、主が望む限りは 咲き続けるでしょう
ここで
[髪を撫ぜる手に薄く微笑み、白い指が彼自身の胸元をなぞる。 着物羽織るを手伝おうと、身を起こし 顔を顰める]
(189) 2010/08/05(Thu) 13時頃
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別に問題はないよ。問題があるほうが良かったか?
[険のある口調に苦笑ひとつ、 あの音は扇の音だったかと思い聞きながら ゆっくりと川岸に腰掛 軽く袴を捲くりつ足を水につける]
……それ言ったら霞殿はどうなるんだ ただ、まんまるに困らされそうな顔 だなって思っただけですよ
[本郷からは視線をはずし、ぼんやりと 風にたなびく白布を見つめて]
……あの人のいない世界なぞ……何一つ見たくない
[聞かれたことに、正直に零した声はどこか虚ろ 本郷が空想と思うそれ むしろ青年は覆う白布に主の幻影を浮かべて見つめてた]
(190) 2010/08/05(Thu) 13時頃
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湯を……嗚呼 そんな事をしたら 名残がきえてしまう
[眉を寄せ、首を振る。 手伝いが来れば仕方なしと重い身を起こし]
主(あるじ)さまの望むように
[彼をそう、呼んで 一度、視線を絡める 遠くを見る同士]
私の舞も、歌も 今日これよりは主さまのもの 花主のにおい要らぬと謂うのなら、その通りに。
(191) 2010/08/05(Thu) 13時頃
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[毒花は、咲き続ける ひとを喰らい 人の腹を借りて 次なる種を産み落とし――]
……主さま、湯浴みを終えたら 向かいたい場所が
[手伝いの手を借り今日二度目の湯浴みへ向かいながら 躊躇いがちに、振り向いた]
ひとつ、礼を忘れていたんです。 それから、楽器の片付けを
[それは許されたか 花がひとり出歩いて良いものかどうか。 眼鏡は脱いだ着物のうえ レンズを通さない視線は、焦点定まらず 彼の先を見る**]
(192) 2010/08/05(Thu) 13時頃
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―渡り廊下窓際―
……――
[窓縁に腕を乗せて凭れかかっていると ふと先ほどの蝶がひらりひらと飛んできた。 蝶が人に慣れるなど話は聞いたことはないが 逃げもせずに傍に止まった。]
…華月はもう、 茶を運んだろうか。
[顔を傾けて呟く。 蝶に答える口はない。]
――…。
[細く、長く息を吐いた。]
(193) 2010/08/05(Thu) 13時頃
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執事見習い ロビンは、記者 イアンと共に表座敷で床に就いていた時の記憶を薄ら辿り
2010/08/05(Thu) 13時半頃
呉服問屋 藤之助は、小僧 カルヴィンが霞月夜の傍に侍る様子を思い出し、よくわからないとも呟いた。
2010/08/05(Thu) 13時半頃
執事見習い ロビンは、説法師 法泉が共に花を連れ歩きたいと謂うのならば、喜んで了承するだろう
2010/08/05(Thu) 13時半頃
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別に。そのような物言いをするから、何か問題でもあるのかと。
[手元で扇が乱拍子のように幾つか鳴る。 乱拍子と言うよりはただ考え事の合間にならすと言うほうが正しい。 時折蓮の香を風に挟みこみながら、足を水に漬けこむ様を見た]
霞?あれは元来花だろう。あしらいも慣れている。 世渡り上手でなければあそこまで身は立てられんだろうさ。 それに、あの脂大福には悪いが家格が違う。 あの甲虫の幼虫のような指で尻を撫でられて悲鳴を上げるほど柔でもなければ そんな隙を与えるほど愚かでもない。そう簡単に困ることなどないな。
[パチ、とまた一つ響いた音はヨアヒムを切り捨てるが如く響く。 流れる白を見やりながら、小さく息を吐き出す]
…そうして、お前は枯れることを望むのか。 主が何を望むかも、考えずに。
[言ってから後悔した。 明らかに、私情が混じっている]
(194) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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執事見習い ロビンは、朧な記憶を甘い吐息と共に押し込めた**
2010/08/05(Thu) 13時半頃
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…過去に囚われて生きるものを現世へ引きずり出せるかと思うたが…
[無理をした指先。包帯に朱が滲むを眺める。]
奴の心の欠片はやはり、あの方とともに行ってしまったのだろうな。 [ひとりごち、ふと薄く開いた襖を覗けば…。]
おや、猫は心地の良い膝を見つけたか。 [若桜が豪傑が如き研師に寄り添って昼寝する姿に、微笑ましげに目を細めた。 それぞれ納まるところは納まっていくのか。 目録にあった名の中、夜光のみは未だ行き先を知らぬ。 彼は以前も売れ残ったのではなかったろうか。]
(195) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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[ぱちん、ぱちん…と静かな中、微か響く 立て板の水のごとく流れる言葉には 小さく笑いを零した]
お前があの人なら、亡くした花が咲き続けるなら 主を捨て生きよと……?
[降る言葉に視線は白布からまた本郷に流れて]
第一……あの人の考えていた事は…もう誰もわからんし これでも、自害を厭うあの人の心には従ってる……
[私情が挟まっていることはきずかず そう言って包帯を握る手の甲で目を覆い芝生に仰向いた]
(196) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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あの子が…やはりあの方の跡目なら…… [過ぎったは寵争った古い記憶。 花の祭りのあの宵に…
彼の履く高底のぽっくりの、鼻緒に切れ目を入れたのは、己に入れ上げた男の仕業。 そのような手を使ってまで、勝とうとは思っておらなんだ。
いくら己が穢れようとも手段を選ばず上を目指すようになったは、おそらくはそれを知ってから。 そのようなことで手にした地位を容易に手放してしまえば、無惨に散ったあの花が浮かばれぬ。 負けることが許されなくなったのは、おそらくはそこから。]
(197) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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[そして、そんな恩を売ってまで、己の心を買おうとした男は… 哀れこの手に引き裂かれ、産まれる子の肥やしにされたという。]
(*4) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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…それならなおのこと、情けをかけてはあの方に申し訳が立たぬ、か。
[一度は考えたことを、結局己の中だけで引き下げた。 若き夜光が真実を知れば、更に己を憎み蔑むだろうし。
憎まれても、構わないとは思うけれども。]
(198) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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捨てろとは言わない。捨てるつもりもない。 捨てると言うことは、その記憶を消すと言うことは死んだ者の生を否定することだ。 だから、受け入れる。死んだものは還ってこない。
[こちらへと持ちあがってきた視線から、 己が視線をそらすことはない]
自害ではないと?嗤わせる。 お前がしていることは、緩やかな殉死に他ならない。 周りを見ず、主に囚われ、幻の中で朽ちて、死んでゆく。
ゆっくりと腹に刃を突き立てて引いていく時間が違うだけだろう。
[微かに混じるのは苛立ち。 これでもまだ、抑えているほうだろう。 気性を知る誰かが見れば、少しは驚いたに違いない]
(199) 2010/08/05(Thu) 13時半頃
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受け入れる?お前がそれを言うのか? ぬしとて、その花以降、花を持たずして どの口が俺に言う
[その類のことは、散々聞いた。常ならば腹も立たなかった けれど、手の甲の先で見下ろしているであろう男に そうと言われるのは …一つの花以後摘まぬ本郷が言うのは腹がたった。 相手が花主であるなどと、 気にすることも出来ず言葉を荒げ]
[けれど、続いた言葉、正論だった。 そのとおりだと思った。 暫く息がつまり何もいえなくなる]
(200) 2010/08/05(Thu) 14時頃
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――……ならば、ならばいっそ誰か殺してくれ……
[辛うじて、こぼれた言葉は今まで口に出さなかった本心 ゆるく首を振ると、手の甲で隠したところから 一つ、二つ涙がこぼれた]
(201) 2010/08/05(Thu) 14時頃
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呉服問屋 藤之助は、ランタン職人 ヴェスパタインのことを語る「しらとり」のことを思い出しながら、庭を見た。傍らに蝶。
2010/08/05(Thu) 14時頃
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[からりと下駄の音ころがして。窓辺にて庭を眺める花を見る。
幾度か顔を合わせた感じでは、よく躾られた真面目な子。 高嶺が目に適うも道理。 見所がありそうだと感じた者のうちの一人だ。]
(202) 2010/08/05(Thu) 14時頃
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ああ、そうだな。言う資格はないかも知れん。 世界を見たくないと、死にたいと、思ったこともある。 それでも、そう思うのをやめた。
[受け止める。何度も繰り返した痛みの名残に似ていた。 花が主を失うことの痛みを知らないわけがない。 花である前に、主である前に、人が人を失うのだから]
死んだら必ず会える。 それなら、その時まであれの主だったものとして 恥じないように生きようと、思った。
私とお前の違いは、ただそれだけだろうよ。
(203) 2010/08/05(Thu) 14時頃
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―渡り廊下窓際― [からん、と下駄の音がする。 ひとつ瞬き、もたれていた身体を起こす。 りん、と鈴の音が鳴った。]
… 霞月夜 さま か。
[花を伴っていないのを 少しだけ不思議に思いながら 礼を向けた。]
(204) 2010/08/05(Thu) 14時頃
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[聞こえた声に、息を吐き出した。 鉄色は花のその様を眺め]
…ならば、殺してやろうか。
[見下ろしながら、言う。 ただ、ひとこと]
(205) 2010/08/05(Thu) 14時頃
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[熱を吐き、早鐘を打つ胸を落ちつかせれば、 窓から見える庭園に、二つの影が見えた]
あれは……本郷さまと、イアンさま。
[傍目には綺麗な花二輪、咲いているようにしか見えなくて。 お二方のやり取りなど知らぬ鳥は、 不思議そうに紅石榴を向ける]
不思議なお取り合わせ。 ああ、そうだ。行かなくては。
[かた、と。 腕の中で音を立てる琵琶に、切れた弦の事を思い出す。 家人に謂えば張り替えて貰えようかと、向かう先は――本邸]
(206) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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…迷うて、おるのか?
[その表情から、どうやら朧に会えて居ないことを察して。
あの頃のしらとりも、そんな顔をすることが多かったような気がする。]
(207) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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[水が流れる音がする。 足に触れる冷たさだけが心地よかった。 それ以外の……本郷の声が痛い。
ただ続いた言葉、青年の顔が青ざめ 紅が手の甲の下見開いた]
…………逢えない。 [紅の奥、何かが音を立てる。 ちょうど本郷が鳴らす扇の音に似た音が 小さく、けれどいくつか]
俺……逢えないよ…どうしよう、俺、俺もう逢えない
[センターの雇われてからの時間 もう既に、獣以外にも巻き添えで人を殺めた たぶん、今日の宴から…また殺めるだろう]
………………俺
(208) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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[問われた一言に青年はぼんやりと手の甲をずらし 紅はゆっくりと本郷を見上げて けれどその紅に本郷は写っておらず いや、それどころか何も写さず虚ろな眼を向けて
そうして、ゆっくりと笑ってうなづいた]
(209) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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―渡り廊下―
[似た顔に問われるというのは 奇妙な心地だ]
…、―― 、…そのように見えましたか。
[黒髪を指で梳いた。 霞月夜の艶含む白い美貌に 嗚呼、しらとりのことばどおりだと胸中でふと呟く。]
すれ違ってばかりのようでして。 少々休憩していただけなのですが。
[――先達の在りし日を思い出させているとは思わず。]
(210) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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…逢えない?
[それは驚きでしかなかった。 鉄色を軽く見張る。繰り返す、逢えないと]
お前。
[理由は知らない。けれど、笑う。 殺すと言う言葉に対して、小さく息を吐き出す]
───。
[扇を懐へと仕舞う。 傍らへとしゃがみ込み、緩やかに手を伸ばすと頬を撫で、 そのまま指先は首筋へと滑る]
(211) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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[ゆっくりと力を込める。 どれだけ花のようなと言われたところで馬を繰り、 弓を引く程度の力はある。 もう片方手を添えれば、殺せないことはない。 そのはずなのに]
────。
[何故だろう、視界が歪む]
(212) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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[ぼんやりと紅は見上げる。 何か零す相手を見上げて]
[頬に触れた感触が気持ちよくて、また一つ笑みを零す
首に触れる細い指先ゆっくりと眼を閉じる]
(213) 2010/08/05(Thu) 14時半頃
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そうか…。 [共に並んで庭を見やる。]
巡り合わせというのもあるのかもしれんな。 幾ら追って探しても出会えぬ時はきっと、時は満ちていないのであろう。
[月満ちねば会えぬと知って、月見て待ったあの日のように。]
その時が来れば、出会うべきものにすんなり会えるのかもしれん。 わたしと雛鳥が逢うたも、ほんの偶然だ。
いまだ満ちておらぬは時なのか、人なのかは、判らぬがな。
(214) 2010/08/05(Thu) 15時頃
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……ぅん……
[微かに声がこぼれた。指が食い込む感触 後もう少し………もう少し。
芝に投げた手が、指先が少し震えて
ただそのときを待つ青年に本郷の視界の歪みはわからない]
(215) 2010/08/05(Thu) 15時頃
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[滲んだものが落ちて消えて、 目の前に死を望む花の姿が映る]
……、…
[指から力が抜けた。 その一瞬で、もう駄目だと自分で気づく。
手が解けた。 その花を、死に至らしめることなく]
(216) 2010/08/05(Thu) 15時頃
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―渡り廊下窓側―
――、…
[少しだけ、意外そうに紫苑色は瞬く。 近くでこんなふうに話したことはなく 又聞きしかしたことのなかった「霞月夜」。 それは、存外に――]
……満ちれば逢えますか。 急いても仕方のないこと…と。
[行儀よく立ち、自身の両の手指を絡めた。]
何分…主を持つかもしれぬ状況が 初めてでありまして。…お恥ずかしながら。
[すまし顔はそのまま、眼だけを伏せた。]
満ちる――……嗚呼、今宵は、満月 でございますね。
(217) 2010/08/05(Thu) 15時頃
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