238 聖痕の空〜Knockin' on heaven's door〜
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……ここは。
どこだ?
俺は……
[死んだのか、とソラに浮かぶ聖痕を眺めて。]
―話は戻って―
[二人の戦いは熾烈を極めていて、私と相対していたイツキは、かなり手加減をしていてくれてたのだとわかる。
アキハくんが、喚び出したのはまるで映画の特撮に出て来そうな大怪獣ともいえる代物で。けれど大地を抉るその破壊をもたらす様はとうてい夢とは思えない現実を帯びている。
そして感じる。ドローンとは比べることもできないほどの大きな、狂おしいまでの大須賀の積年の執念と。蝶野の宝石に近しい意思≪イシ≫。きっと先代の犯した罪が関係している。
こんなものを持ち出されたら、イツキは―――]
―――!?
ああ、もう、男の子っていうのは…莫迦ばかりね。
[二足歩行のロボットバトルなんて。
けれども、思いがけずに安心して笑ってしまった。きっと彼なら大丈夫だと。
だって二人とも、なんて楽しそうにしているの。イツキも、アキハくんも。まるで子どものよう]
[けれど、状況はよくはならない。
考えの違う彼らが戦いをやめることはなく、ロボットと破壊獣は拮抗、いや破壊獣の方が破壊されてもなお動きが鈍らない分があるようだ]
[そんな思いでイツキがアキハくんと闘っているだなんて知らない。
私のような薄情な幼馴染のこと、気に病まないでほしいと思っていたから]
何、言ってるの、イツキ。
駄目よ。まだこっちに来ては!
[絞り出すように声を荒げるが、きっとあの世界には届かない。
イツキが始祖の盟約《ブラッド・コントロール》で、先ほどとは比べられないような大きさの巨大な鎚を作り出す。
祈りが届くというのなら、あの槌に万物より固き加護をと強く願う。その祈りが逆に聖痕へと痛みをもたらすというのならばなんという皮肉か。
槌が破壊獣へと届くのは寸分遅れ、彼は]
イツキ―――…
[直前に蝶野の聖痕をリキくんへと渡した彼は、破壊獣の光線により氷像へと姿を変え、
介錯の一撃を受ける彼を、ただただ茫然と見開いたままの目に映した。]
[続く世界で、貴方にも笑って生きていてほしいと願ったのに。アヤメちゃんと同じように、私は「私がいなくても」その選択を選んだはずなのに。
どこかで間違えてしまったのかしら]
[ぽたり、ぽたりと涙が落ちる音がする。
隣でカイルくんを見守っていたはずのアヤメちゃんが泣いているからだろうか。
気を使うようにアヤメちゃんの背中を撫でた私の頬からも、水音は出ていたことに気づかないまま*]
[聖痕って、何だろう。
私は泣きながらそんなことを思う。
神様からのプレゼント?
唯の異能力?
だとしてもどうして、哀しいことばっかり起きるんだろう。
是の所為で、ひととちがうんなら
よくわかんない使命があるなら
なくなっちゃえばいいのに。
かみさまなんて、だいっきらい]
[怪獣が出たり、死んじゃう人が出たり
お空に沢山の太陽が昇ったり
――玉露さんみたいに、悲しむ人が、でたり
知ってるよ。私の所為でもあるってさ
でも、もともとあんなのなければって
思うのは間違ってるのかなぁ。
そんな思いがぐるぐる、頭のナカ
零れ落ちる雫も、何もかもそのままに
私はこれ以上の惨劇を見たくないと、かぶりを振る*]
……任せたよ。
[それでも彼は彼女を信じ続ける。
天の門が開いた先に、救済があると信じて。]
[快流の様子もそうだが。
下界の様子が気になる龍王だ。
……下界では、戦う術を持たない。
龍山を護るために。]
『……すまぬ』
[その言葉に、首を捻る快流。]
あの……何で、謝ってるんだ?
[この龍が、何を見ているのか、快流は知らない。
彼が背負った、重荷の事。
彼と別れた、彼女の事。
戦いに赴けない自分の事。
優しい龍は、全てを嘆いていた。]
……あのさ、そんなしょげた顔、すんなよな!
俺、別に気にしないし。
全部忘れちまったけど……きっと、どうにかなるって!
[バンバン、と龍の背中を叩く快流。
記憶が戻る気配は無い。
もはや体もボロボロだったけれど、それでも。
どうにかなる、そんな気がしていた。
そんな様子を見た、龍王は、目を閉じて追憶に沈む。]
『……』
[しばしの沈黙。
それに耐えられず、快流は口を挟む。]
あ、あの。どうした?
[そう問いかけると、龍王は目を開き、優しく語りかけた。]
『……少し、出かけないか』
へっ?何処へ?
『おぬしの大切な人が、居る所へと』
大切な、人?
[龍王は、背中を託し。
快流を乗せて、龍山城を後にする。]
―道中―
[龍に跨がり、浮き上がるように世界を遊覧する。
途中に見えた、天使同士の死闘の一部始終。
それを見た、快流は目を見開いた。]
なんだ、こりゃ……。
[まるで、初めて見たかのような反応だった]
『覚えてないのか?』
[龍王は、彼が全てを忘れた事をも知っている。
それでいて、敢えて聞いてきた。]
……まさか。
俺が戦うなんて、絶対に無理。
[快流はふるふると頭を振った。
それに呼応するかのように、悲しい表情を見せる龍王。]
きっと……何かの間違いだよ。
[そう呟いた声も、龍王は聞いていた。]
翼……か。
[ずっと欲しかったもの。
それが今、大きく具現化していて。
それを見やる表情は複雑だった。]
[思い出す方が良いのか。思い出さぬ方が良いのか。
龍王は、そう考えていた。
彼の記憶は、痛ましいもの。それを忘れる事も、一つの手かもしれない。
彼がこれ以上、辛い目に遭わないように。
……しかし、それは現実からの『逃避』。
このまま紫藤の姫と出会い、それで良いのだろうか?
どうしても、そうは思えなかった。]
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