191 忘却の箱
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―麻雀の部屋―
[『どうぞ、開いてるよ。』>>2:156 そう言葉が返ってすぐ、動くような物音がして。
…きっと彼自ら、この扉を開けてくれるのだろう。 そうであれば、自分から開けて入るような無粋な真似はしない。]
……………。
[しかし待てど待てど、その扉が開かれることはなく。 気付けば物音一つない静寂。]
(13) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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………。マーチェ?
[終にはその扉に手をかけて。
ふわり、風をはらんで膨らむカーテン。 開け放たれた窓から扉へ、刹那吹き抜ける白。>>2:160 反射で思わず瞳を閉じれば、ほのかな甘さが頬を過ぎ逝く。]
(14) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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[ゆっくりと目を開き、そこに見つけたものは――]
少し。…遅かったかな。
[ ――輪郭のみ描かれたキャンバスと。 その縁を飾る、年季の入ったような枯れ木と。]
………マーチェ。
(15) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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[大切そうに絵を抱え、それは静かに花々の祝福を受けている。 その優しい時間を壊さぬよう。
――― そっと、そっと、その名を呼んだ。]
(16) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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[風に乗って鼻腔を擽る甘やかな香りは、何故か”初恋”に似ていて。 派手すぎない黄色の花弁は、”謙虚”な彼を彷彿とさせる。
…伸ばした腕は、届いただろうか。この絵の先に。
――届いたと、信じたい。 だってこんなにも、穏やかな終わりを迎えたのだから。]
(17) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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あぁ。いいなぁ。
[静かに屈み、蔓の巻き付く枝木に触れ。]
マーチェ。僕も最期は、貴方のように――
[忘れて、忘れて。そしていつか、辿り着けるだろうか。]
[ふと左腕の白衣を捲れば、新たに芽吹いた花を見つけ。 センニチコウ。それを切り取り、彼に手向けた。]
次は、青がいいんです。 だからこれはきっと、貴方のために咲いた花だ。 …貴方の絵と同じ、色褪せずに残るもの。
(18) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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[部屋の片隅に立てかけられた紫。>>2:132 そこに”顔”はなかったけれど、それが自身と知ることはできて。]
ふふふ。 ありがとう、マーチェ。 ちゃんと注文通りですよ。実に僕らしい。>>1:92 これ、もらっていくよ。…大切にしますから。
[“顔”がないのは、偽善で誤魔化す自分の本質だとも思うから。 これを描いた彼にそのつもりはなかろうけども。それでも。]
(19) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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―診察室―
…先生。おられますか。
[麻雀の部屋を後にして。 彼の変化を伝えようと、スティーブンの元を訪ねる。
さて、部屋には誰がいただろう。 誰もいなければ、医師を探して外に出る。 医師でなく、患者の誰かが居たとしたら―― ――話しかけるかは、相手の反応次第だけれど。]**
(20) 2014/09/07(Sun) 01時半頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 02時頃
奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 13時頃
奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 19時頃
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―診察室―
[診察室には、誰もいないのだろうか。 部屋の奥、カーテンで仕切られた区画にそっと手をかけて。
見つけたのは――腕で目元を覆い耐えるような様子の男を一人。>>8 真っ白なベッドに横たわるシーシャは、覗く視線に気付いただろうか。
どちらにしろ、彼がここに寝かされているということは…そういうこと、だから。 こちらからは声をかけるずカーテンを閉じ、診察台近くの椅子に座った。]
(38) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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Are you going to Scarborough Fair…? (スカーバラの市へ行くのかい?) Parsley, sage, rosemary and thyme… (パセリ、セージ、ローズマリーにタイム…)
Remember me to one who lives there… (嗚呼、それなら。そこに住むあの子に伝えてくれ…) For she once was a true love of mine…… (彼女はかつての、僕の恋人なんだ…)
[口遊むのは、とある国の伝統的なバラード。 誰に聴かせるでもなく、ただただ呟くように。]
(39) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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Tell her to make me a cambric shirt, (白麻のシャツを、作るように伝えてほしい) Parsley, sage, rosemary and thyme… (パセリ、セージ、ローズマリーにタイム…)
Without no seam nor fine needlework, (針仕事もなしで。そう、縫い目のないものを) And then she'll be a true love of mine… (それができたなら、君は僕の真の恋人だと…)
[それは到底、叶わぬ願い。 別れた彼女に、こうして無理難題を押し付けて。 この歌の男は一体、何を望むというのだろう。]
(40) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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[無理難題を尋ねる男に、彼女は問い返す。
失った記憶を全て、見つけるように伝えて。 パセリ、セージ、ローズマリーにタイム。 過ぎ去りし日々と。これから迎える未来の。
それができたなら、貴方は私の真の恋人だと―――]*
(41) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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―回想・タイムの記憶―
……君のその、左腕。 切ってしまったのかい?
[背後から、唐突に。 隻腕の男に声をかけた。]
勿体ないよ。 せっかく咲いたのに、落としてしまうなんて。
僕なんてほら、この通り。 今は、左手に紫の花束を作る実験をしているんだけど。 ここに来て随分経つのになぁ… まばらに生えてばかりで、なかなか綺麗に咲かなくて。
(42) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 21時頃
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[色々と言い訳しているが、私は知っている。 こいつには腕を切り離す”勇気”がないことを。
腕を切り離す痛みに、彼は耐えられない。 痛いのは嫌なのだと。…散々人にやってきたことなのに。 辛いことから逃げたいと。…『生える』腕を免罪符にして。
――身も、心も。 これを切り離すことを良しとはしないだろう…。]*
(43) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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―回想・ローズマリーの記憶―
[デリカシーの無い人。 一言で表すなら、そんなところかしら? ――妙齢の女性の寝室に、無断で入ったりして!>>2:50]
やぁ、はじめまして。 美人の金糸雀さん。お邪魔しているよ。
……え?何? 怒ってるのかい? 一体どうしt…
[『パンッ!!』
…そりゃそうでしょう。 勝手に部屋に入って、"記憶”を覗き見て。 平手打ちを喰らっても仕方がないわよね。]
(44) 2014/09/07(Sun) 21時頃
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[けれど。 一瞬驚いたような顔をしたくせに、この男ときたら。]
うん、そうだね。 日記に残された記憶は、筆者そのものだと僕も思う。 いや、だから君のことをもっと知りたいと思、 …って、わかった!わかった! えぇ?そんなにダメなことだったかな…? いいじゃないか、少しくらい。どうせ忘れるのに――
[それは、あの子の大切なもの。”変わらぬ愛の心”。
貴方の本質は、全てを知り、暴こうとするのでしょうけれど。 誰にも見せず、秘めたい想いがあることも知りなさいな。 誰しも持つ、大切なものよ。
――たとえいつか、忘れてしまうのだとしても。]*
(45) 2014/09/07(Sun) 21時半頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 21時半頃
奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 23時頃
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―回想・セージの記憶―
[あの日のことは、よく覚えていますよ。 ずっと辛い環境で”耐えて”きた少女の話を聞いて。 彼は罪悪感に苛まれ、軽率な嘘を吐きました。]
…ねぇ、ペラジー。 僕の秘密を一つ、教えてあげるよ。
実は、僕はね… ―――君の”お兄ちゃん”なのさ。
きっと覚えていないだろうけれど、 君がうんと幼い時に、僕は家を出てしまったから……
(53) 2014/09/07(Sun) 23時頃
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……ずっと、遠くにいてごめんよ。 でも。もう、大丈夫だから。
これからはここで、ずっと一緒に暮らせるし きっと、楽しい毎日が待っているよ。
[彼が今まで、身寄りのない貧困層の人々にしてきた『酷いこと』。 これはその罪悪感を埋めるための、自己満足に過ぎなかったのでしょうけれど。 ……人の心を利用して、なんたる偽善。
嗚呼、けれど。 彼にも、あったのかもしれませんね。 ――“幸福な家庭”を、望む心が。]*
(54) 2014/09/07(Sun) 23時頃
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―回想・パセリの記憶―
[――あぁ!そうさ。 あの日、彼は”祝杯”を上げた。文字どおりね。 それを僕は、彼の左手から眺めていた。]
…これで。これで、やっと! 僕は解放される。この苦しみから、解放されるんだ…
もう、誰かを使って実験する必要なんてない。 僕自身が、被験者なんだ。 なんだってできる。きっと役に立つデータが取れる。
……それに。 それに、忘れることができる。いずれ何もかも忘れるんだ。 これまでのことを、全部。
今まで発症者達にしてきた酷い実験を、全部、全部―――
(55) 2014/09/07(Sun) 23時頃
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[手元のワインより、歓喜による酔いの方が強いようだった。 まぁ確かに”苦味を消し”て、”お祭り気分”にさせるのがパセリの役目ではあるけどね。 こんな皮肉なことがあるかい?最初に芽吹いたことを呪ってしまうよ。]
―――もしもし。 そちらのサナトリウムで現在、患者の受け入れは可能ですか…。 えぇ、はい、そうです。勿忘草病です。大至急手配して欲しいのですが。
担当医の…スティーブン先生、ですね。 よろしくお願いいたします。
…あぁ、すみません。発症者は、僕自身です。 いえ、容体は悪くないのですが、早く安定した環境に身を置きたい。 色々と、やりたいことがあるのです。 条件を統一しなければ良いデータが…
[電話越しに話していたのは、行き先と定めたサナトリウムの医師のようだ。 たぶん、優しい人。そんな声が、受話器から漏れていた。]*
(56) 2014/09/07(Sun) 23時頃
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[今の彼はもう、 この日々のことを断片的にしか覚えていないけれど。
代わりに、僕たちが覚えているよ。 だってこの記憶が、僕たちの糧だから――…]*
(57) 2014/09/07(Sun) 23時頃
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―診察室―
[歌を歌いながら。記憶の断片を繋ぎ合わせ。 パセリにセージ、ローズマリー。それからタイム。 ―― さて、何の記憶だっただろう。
そうして最後の一節かかる頃、重なる歌声に気付いて>>47]
ふふふ、怒れる子猫ちゃん。起きてたのかい? 君も、知ってるんだね。この曲を。
でも… もしかして、気に入らなかったかな?
[悪態には軽く肩を竦め、気にした風もなく。]
(58) 2014/09/07(Sun) 23時半頃
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たしかに君の言う通りだ。 不可能だろうと、妄言だろうと。 …何もしないよりは、マシなんだろうね。
でないと彼女の愛は得られない。 何かを手にしようとするならば、努力はいつだって必要なものさ。
僕も、僕なりに努力しているよ。 まぁそれも…なかなかに難題なのだけどね。
[――そう、ただそれは君と違って。 主に『忘れる』方向へ向けられているのだけれど。]*
シーシャ。君は…
――"花"は、嫌いかな?
(59) 2014/09/07(Sun) 23時半頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/07(Sun) 23時半頃
セシルは、どこかでスイートピーが揺れた気がして。小さく微笑んだ。
2014/09/08(Mon) 00時頃
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おかしいなぁ。何か嫌われることをしたかな。 ……あ、なるほど。子猫ちゃんがダメだった?>>63
――だって君、 よくあちこち引っ掻いたり、悪戯したり、してるじゃないか…
この口調については、もう癖だからなぁ。 そういう記憶なのさ。きっと最後まで忘れないよ。 でも気になるようなら、謝ろう。申し訳ない。
[悪びれた様子もなく、くつくつと笑う。 が、そこでふと、思案する。]
(66) 2014/09/08(Mon) 00時頃
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ふーむ。そうか。『内容以前に』、ねぇ。 …ということは少なからず、 口調だけでなく、内容にも要因があるわけだ……
[彼に嫌われる話題。思い当たるものと言えば。
――そうして浮かんだのが、この質問。>>59]
(67) 2014/09/08(Mon) 00時頃
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……そう。 やっぱり、嫌いなんだね。
残念だな。 こんなに綺麗に、一生懸命咲いているのに。 毟ったりしたら可哀想だ。 …そうは思わない?
僕は、好きなんだけど。 ――だってこれは、僕らの記憶の分身じゃないか。
[揺れるシーシャの声。>>64 嫌い。嫌い。嫌い。――そう聞こえてしまう。]*
(68) 2014/09/08(Mon) 00時頃
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[突如、強い力で引き開けられたカーテン。 見せつけるように、目の前で引きちぎられる白い花々。>>73 どうやらいつにも増して、虫の居所が悪いらしい。]
……あぁ、また。 君はそうやって。 すみません、先生。診察室を荒らしてしまって。
何か、というより。 見た通りなのですけれどね…。
[それはちょうど、待ち人の来たタイミングだったから。 問いかけ>>49には、状況を指し示して答えとした。]
(77) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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[スティーブンがシーシャに駆け寄る間に、 投げつけられた花と言葉の切片を大切に拾い集め、ゆっくりと立ち上がる。 真っ白で純粋な、彼の記憶を失くしてしまわないように。 彼の大切な友人の、その想い出を聞き逃さないように。
――サミュエル。 …そうか。きっと君も、もう。]
彼のことも。彼の大切にしてたものも。 僕は知ってるし、けれど知らないとも言えるんだろう。 君がそう言うのなら、きっとサミュエルはそうだった。
…サミュエルも。彼もよく、花を潰してたっけ。
[物言わぬ植物となった彼を想って数瞬、小さく目を瞑る。]
(78) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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君の言う通り。…そう、普通に生きたいだけだ。 ――僕らも、彼らも。きっとそれは、同じこと。
彼らに罪があると、誰が決めたんだい? わからないことの多い病気なのに。どうして。
ただそこに偶然、『生まれた』だけじゃないか。
[激昂する男に対して。静かに、淡々と自分の見解を告げる。]
(79) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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花が咲くから、記憶を失うのか? 記憶を失うから、花が咲くのか?
……もし、 僕たちが"際限なく記憶を失う病"に罹っていたとして。
その永遠に失われゆく記憶を、 この花々達が、懸命に留めようとしてくれているのだとしたら。 何らかの形に残そうと、僕らのために咲いているのだとしたら?
感情だって、そうじゃないか。 ――心に『芽生える』って、言うだろう?
潜在的に、僕らの中に『いる』のかもしれない。 見えない"花"が―― それが。記憶として、外に芽生えただけかもしれない。
(80) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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……ただ、ちょっと。不器用なだけなんだ。 加減がわからないんだよ。 だから、こちらが上手く付き合ってあげなきゃ。
僕らの"忘れる"病は、治らない。 だったら。受け入れてあげたっていいじゃないか。 そこに懸命に咲いてるのは、失った僕らの記憶そのものだ。
――だから。僕は大切にしたい。 咲いた記憶も、まだ咲いてない記憶も。
(81) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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[くるり、そのまま踵を返す。 扉を開ける前、最後にもう一度だけ振り向いて]
……でもね、シーシャ。
君の考えは、否定しないよ。 君は君の、正しいと思う道を進めばいいと 僕は思う。
この運命に、最後まで抗ったっていい。 …僕には決して、選べない道だけれど。
君なら。 君なら、或いは―――
[――――無理難題を乗り越えて。 …認めてもらえるかもしれないね。真の恋人に。]*
(82) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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あぁ、先生。 すみません、お伝えするのが遅くなったのですが。
マーチェの部屋に、行ってあげてください。 ……彼らしく優しい、甘い香りのする、綺麗な黄色ですよ。
[右腕に抱えたの紫のキャンバスをひょいと示して。 皆まで言わずとも、きっと伝わるだろう。
シーシャは何か言っただろうか。 しかしそれを聞いたとて、振り返ることはせず。
そのまま、診察室を後にした。]**
(83) 2014/09/08(Mon) 01時半頃
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─回想/廊下・角を曲がる前─
[「まだ咲いてない…咲き切っていない」
雪のように透ける髪。薔薇を手に宿した女性の声
言い聞かせるように何度も馴染ませる。けれど歩を進める毎にその声が、持ち主の顔が朧気に溶けていく。]
──…寒。
[床に零した独り言。
リノリウムの床は酷く無機質に映って。
やがて気付けば寄り掛かるように医師に身体を預けていた
控えめな声がかかるまで]*
─回想/廊下・角を曲がる前─
[顎を下げるようにして振り返った視線の先。
見たことのない顔だと思った。
だが、それは記憶が薄れ覚えていないだけなのかもしれないとも考えた。
だから結局、“あんた”と呼んだのだっけ。
使い古した、それも片方だけのスリッパを手渡したとしてどうするのだ。自分でそう思いながらも、もう片方を自力で脱ぎ捨てる気力も無かった。
だから、「もらう」と、スリッパ片手に受け取ってくれた相手には、申し訳ないような、有難いような、曖昧な笑みを向けたかもしれない。
それも角を曲がるまでの話だけれど。]
(……いつか、捨てられるのかな。)
[自身の記憶さえ曖昧な自分。
託した履物が彼に合っていたなんて、知らず。
埃や灰などは被っていない筈だけれど、あまりに自分に合わないものなら…もしかすると。]
(それでも…少しくらい、誰かに。)
[──忘れないで貰いたい。
角を曲がる前。脳裏に浮かんだ花々。舌に滲むにがい味。緑のお化けは黒い記憶の海へと散っていく。
疑いもせずに奥底へと消えていく。*]
─回想・彼と花と青年と─
[意識の途切れ目。慟哭。
身体を糸を切ったように動かない。
それでも背に肩に、腹に。小さなむず痒さを覚える。]
(…あったかい。)
[身体は酷く冷えていた。喉もカラカラに渇いていた。
だから上から降り注ぐ雨粒は酷く穏やかに身体を潤し。
花々は喜ぶように種を植え付けては、根を下ろし、蕾を付ける。]
[蕾はゆっくりと音もなく、けれど待つことなく開花し始める。
匂いは濃くなり、意識は薄く霞む。
布の奥での出来事。
秘め事のように秘めやかに行われている行為。水を失いつつある身体。ふと見下ろした自分の腕。
一瞬のことであったけれど。それは、枯れ木のようにかさついて映った。
喧騒。悲鳴。誰かの声。
誰が誰かなんて分からない。
頭に綴られた文字は皮肉にも。
花の糧となり、ただただ滲ませては消えていくだけ。
それは黄色い果肉から零れる蜜のように甘い──…落ちる笑み*]
─回想・喧騒の後─
[声が聞こえた
誰のものかは正確には分からない。
ふわり。
空色の花は少し考える素振りを見せて。
やがて、一つのことを思い出す。]
(ああ、…死にはしないってそういうこと。)
[水彩具のような、どこか抽象的に告げられた言葉
「死にはしない」のなら、意識はあるのだろうか。
あの時感じた疑問の答えを、知ってしまった。]
(…まるで御伽噺。)
[身体はとうに生体として機能を失いつつあるのに。
こんなにも意識ははっきりと覚醒している。]
─回想/喧騒の後・自室─
[揺れるまま、医師に連れられて自分が使っていたという部屋へと戻る。
横たえられたのはベッドの上。
清潔な白いシーツ。ぬいぐるみも本も何も飾られていない質素な部屋。
ある一点、赤いギターを除けば。]
(…ああ、あの人は嘘つきだ。)
[医師が鳴らすギターの音。すっかり酸化が進んだ6本の弦は黒く錆びていて。響く音は近頃触れていなかったことを示す外れた音色。
どれほど触れていなかったのか。
そのことを今になって知る。
“久しぶり”なんてきっと無かった。]
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―廊下―
[誰もいないリノリウムの床に、壁に、一つの足音が響く。 無意識に唇が紡ぐのは、書庫で聞いた妖精の歌>>1:38。]
Parsley, sage, rosemary and thyme…
[繰り返すフレーズ。 何度も。何度も何度も。何度も――……]
(86) 2014/09/08(Mon) 02時頃
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―回想・タイムの記憶―
ううーん、そうだね。 実は、腕とか肩にも、花は生えてくるんだけど。 左手に生まれた紫の花だけを残して、 他は切って鉢に植え換えてみたり。 毎日を楽しく過ごして、悲しい記憶が消えるよう願ってみたり。
…まぁ、どうしたら効果が出るのかわからないから、 色々とね、試行錯誤中なのさ。
[興味を持ってもらえたことが嬉しかったんだろう。いつもより饒舌だ。>>51 そのまま上機嫌で語り続ける。…どうせ自分を誤魔化すためだろうが。]
(87) 2014/09/08(Mon) 02時頃
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ブーケができたら? マーチェに、絵を描いてもらおうかな。 女の子にウェディングドレスを着せて、結婚式の真似事をしてもいい。 なかなか面白いだろう?ここじゃ、そうそうないことだし。
それが終わったら、次は青だ。 手首からこの辺まで、全部青色。 その時までに『生やす』コツを掴めていればいいな。
で、次は、緑、黄、橙、赤…って。 ――虹色の縞の、花壇にするつもりだよ。
[可笑しいかな?…そう訊ねるように、笑いかける。
…こいつは、道化だった。可笑しいくらいが、ちょうどいいと。 それで誰かが笑えばいいと、そう思っているようだった。]**
(88) 2014/09/08(Mon) 02時頃
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──……。
[何故嘘を吐いたのだろう。
その問いは尋ねなくとも体内を覆う花弁が邪魔をする。喉元まで広がる蜜の味。苦しい。そんな気もしたけれど、ゆっくりと、ゆっくりと─…]
[喜びが 哀しみが 怒りが 苦しみが 楽しみが 愛しさが …花が 散る]
…おれを…、わすれ、…な…で、
[赤
視界に入れたのなら。
唇に花が芽吹いてしまうその一瞬。
やっと花の名の 意味を知る。
誰かとは問わず囁いた聲は、きっと。*ただ花を揺らしただけ*]
─自室─
[体内を満たす花。
思い出という蔦で絡められた身体は、ただただ夢を見続ける。
腕に咲いた白い花。
赤い味を付ける林檎の芽は、柔らかな陽射し。 はらり、と。ページを捲る。]
(…どうして、あんなことを呟いたんだろう。)
[「仲、いーなぁ…」いつも朗らかでたまに歌を聞かせてくれる蜂蜜色の人。親しげに名を呼んでくれては少し話したのだっけ。
そんな彼女が零した呟き
気掛かりになって尋ねようとすれば、姿を見つけることが出来なくて。
いずれ、今度聞こう。そう思っていた。
小さな疑問の調べ。 浮かんでは、消える。
淡い花の香りが何処からともなく窓から吹き渡るのと同じように、微かな匂いを漂わせながら*]
奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/08(Mon) 02時頃
─回想・勿忘草─
[世界に蔓延する病──勿忘草病。
自身がそう宣告されたのは、念願叶った舞台での演奏の一週間程前だった。
まさか自分が?
診察室の中で瞬きを数度。後につり上がる唇は疑問を投げかける。]
『冗談だろ?』
[手首に腕時計。指し示す時刻はカチコチと正常に時を刻んでいるというのに。
──カチリ。
重なる秒針と、長針。
完成されたパズルがばらばらと崩れる音を遠くで聞いた。]
[問いかけに対して医師はどう答えたか。
あまり覚えていないのは心に与えた衝撃が大きかったせい。
自身の容態は男が望む望まないにしろ、家族に伝えられた。
膝を折る母。机に肘を立て顔を逸らす父。状況が飲み込めずただ顔を歪めて泣きじゃくる幼い妹。
何と声をかければいいのだろう。
誰に問えばいいのだろう。
答えは何処からも、誰からも伝えられることなく。
ただ止まぬ歯の音を止めるために、唇に噛み付くしか出来なかった。]
[──それから。
友に連絡をした。
皆最初は信じなかった。冗談だと乾いた声で笑っていた。
だが、それも鳴り止む。現れたのは沈黙。
肩を揺さぶられる。
嘘 冗談 やめてくれ 否定を
望む声が頭の中で反響する。
滲む視界。張り付いた喉から発せられた言葉。]
『こんな夢は望んでいない。』
[全ての音が鳴り止んだ。]
[一度散ってしまった花は再び咲くことはない。
地に落ち新たな命を芽吹かせるために眠りにつくだけ。
赤いイヤホンと、ギター。
手紙と写真と、日記。]
『どうか 忘れないで。』
[友と父と母と妹と交わした約束。
だから受け取った。
綴った。日々のことを。
忘れてしまっても、また思い出せるように。]
[だけど、気付いてしまった。
思い出す前の俺と 今の俺。
今の俺は俺ではないのだろうか。
俺は一体誰なのだろうか。
はらり。 紙面に落ちるもの。
花の香りと頬が濡れて。
断線したイヤホンから伝えられる音は、無音。
聞きたくないから聞こえない。
泣きたくないから泣けない。
嘘は真実へ。塗り替えていかれる。
記憶は散る。花は揺れる。
全てを無かったことにしようと。
同じように 肩を揺さぶられてしまうまで。
淡い頂点の花は、記憶を確かに吸い取って。 *瑞々しく揺れていた。*]
|
[――青を。 探してたんだ。
突き抜けてゆく、空の蒼。 どこまでも深い、海の碧。
幸せを呼ぶ、青い鳥。 ……哀しみに、別れを告げる藍い花。]
(149) 2014/09/09(Tue) 00時頃
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―何時か何処かで―
[ただ独り、廊下を歩きながら。 ふと視界に入った左腕。
――そこに咲くのは、濃藍の花弁。]
(150) 2014/09/09(Tue) 00時頃
|
|
[嗚呼、ずっと。この日を待っていた。 …そんな気がする。
どうして、待っていたのだっけ。 理由は、わからない。 ……わからない、けれど、
気持ちはとても晴れやかで。 全ての重荷から、解放されたような。そんな。]
(151) 2014/09/09(Tue) 00時頃
|
|
[――青い色は、幸せの色。 悲しい色だなどと、誰が言ったのだろう?
ずっとずっと待ち望んでいた、幸せを呼ぶ青い鳥は、 今やっと、この左腕を訪れてくれた。
“幸運は必ず来る”。”幸せは、貴方のもの”。 そう、これはきっと”贈り物”なんだ…
開く花弁は、羽ばたく小鳥の翼のよう。 この止まり木にも、ようやく君がやってきた。]
(152) 2014/09/09(Tue) 00時頃
|
|
[その一輪をきっかけに。 左腕に、左肩に、左半身に。 まるで芽吹きの春のように。
花が、花が、花が―――]
ようやく僕にも、やってきたかな。 ずっと、待ってたんだ。 もう。…もう、いいよね。休んでも。
(153) 2014/09/09(Tue) 00時頃
|
|
[どこをどう歩いたか、 気付けばそこは、白い箱の中心で。 見上げれば空が、迫る闇夜と満月が。]
……最後に、メモでも残そうか。
[ポケットの手帳、いつも持ち歩いているそれを取り出して。]
(154) 2014/09/09(Tue) 00時頃
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『このサナトリウムを訪れる皆へ
紫色のブーケを探して。 パセリ、セージ、ローズマリーにタイム。 その傍にいるはずの。幸運の青い鳥を見つけて欲しい。
それができたなら、あなたは私の真の恋人―――
再会の約束は、そこで果たそう。
あなたの永遠の恋人より』
(156) 2014/09/09(Tue) 00時頃
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