118 津 村
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― 昨日 ―
…くしゅ…っ!う゛ー…。
しまちゃん、大丈夫かなあ…。
[くしゃみをして、倒れてしまったしまちゃんを思う。
きっと無理をしてたんだろう。
もっと早くに気づいてあげれば。
これを届けたらまた、保健室に寄ってみようと思う]
― 昨日:2-C ―
あのー、すみません。関町せんぱいっ!
[先日はしまちゃんと一緒に訪れた教室を、
今日は彼女の絵だけを手にして訪れた。
目当ての先輩はすぐに見つかって、しまちゃんの絵を手渡せば、彼女も絵が気に入ったのだろうと表情に知れる]
はい。しまちゃ…北野さんです。
えっと、彼女倒れてしまって…熱あって。
だから届けるように頼まれたんです。
[先輩の表情が沈むのに、律は声を掛けようとして出来なかった。
同じく、しまちゃんが無理をしたのではないかと思っていしまっていたから。とはいえ、先輩の頼みが悪かったとも思っていない]
しまちゃん、頑張っ…たんだと思います。
はい。私も部誌、楽しみにしていますから。
[途中で声が喉に詰まった。
感極まったのではなく、単に喉がつかえたのだ。
けほ。と、咳払いをしてから言葉を続ける。
兄が顔をみせれば、その言葉に頷いた]
うん、五郎兄もね。
[手を振って、保健室へと向かう。
しまちゃんがまだ居れば家に送ろうかとも思ったし、
どちらにせよ放っておくことなど出来そうにはなかった]
― 昨日:なとり生花店 ―
[帰宅して、少し店を手伝った。喉がいがらっぽい。
くしゃみをしていたら、風邪かと母に心配そうな顔をされた]
んー?そうかなあ…。
喉、使いすぎたのかも知れない。
今、打ち合わせとかでいっぱい喋ってるから!
[言い訳ではなく本気だ。
あれだけ風邪が流行っていて、あれだけ病人と接しているくせに、律は自分は風邪をひいていない──ひかないと、思っていた]
あれ…?
[流しで兄の弁当箱を見つけた。
半端に開けられた弁当箱は、もう既に空になってはいたけれど、あたかもこの場で食べられたような形で蓋が開いている]
……?どうしたのかなあ。
[夕食のときも、兄はいつもより食が進まないようである
彼の食欲も遂に満たされ尽くしたということか。
それとも単に体調が優れないのか。
観察して聞こうとも思うけれども、その頃には律の調子も既に少しおかしくなりはじめていた。
ひとまず兄の弁当の件は横に置くことにして、早めに入浴して布団に潜り込むことにする。何やら疲れたようで、体がだるい。
布団の中でケータイを手に取った。
しまちゃんにメールを送る]
――――――――――――――――
From: ricky_riri_ri@easyweb.ne.jp
――――――――――――――――
しまちゃん、大丈夫?(心配顔の絵文字)
しまちゃんの絵は、文芸部の関町先輩に届けておいたよ。
先輩、喜んでた。ありがとうだって。
わたしも部誌の表紙が、今から楽しみ。
早く風邪治して、一緒に学校祭巡りしようね。
END
――――――――――――――――
[送信して、目を閉ざした。ぼんやりとする。
徐々に身体の熱が上がり始めていること、このときはまだ気づいてなかった**]
― 朝 ―
[目覚まし時計が、遠く水の中のようにガンガンと鈍く鳴り響いた。それをどうにか止めて、起き上が──…]
……うぐ。
[くらり]
[めまいと共に、世界が揺れた。
布団に倒れると共に、体調のおかしさを自覚する]
なにこれ…、…
[それでもどうにか部屋を出て、母親を探した。
律を見て驚いた様子の母に体温計を手渡され、
その弾き出した体温に速攻布団への帰還を余儀なくされる]
さんじゅうはち…
[はー。と、息をついた。
何となくだが、数字が分かった方が病人らしいような気がしてくる。くらくらする頭を枕につけていると、物音がした]
…ごろにい。
[自分では分からないが、律の顔は熱で赤い。
兄の困ったような顔を見て、妹も少し眉を下げた]
うん。ありがとぉ。
[ふにゃりと返事をして、差し入れを見る。
林檎が、かわいらしくウサギ耳になっているのを見て、律は少し笑った。昔から風邪にはつきものの果物だ。
幼い頃から、そして幼くなくなった今も、こうしてくれる]
ごろにい。お弁当…、
[ごめん。と、告げた言葉はやや不明瞭であったか。
言葉が届いたか否か、兄の出て行く背を見送り、せっかくだからと林檎を齧ってみる。熱い口の中に、冷えた林檎が心地よい。
ほどなく、薬の眠気がやって来る。
抵抗せずにそれへ身を委ねた。早く治さなければ**]
― ??? ―
[私には中学校の思い出というものがない。
正確に言えば入学して半年分しかない、というべきだろうか。
その頃にはもう、背も伸び始め、目立つ姿にこんな性格だ。
気がつけば、いじめの標的になっていた]
[何をされたか、なんて思い出したくもない。
ある朝、玄関でどうしても足が動かなくなった。
涙が止まらなくなった。
ドアの向こうは、光で溢れているのに。
私は、その世界から否定された。
もう、一歩も前には進めない。
私は、一つの後ろ向きな決断をした]
[その日、私は、病院へと運ばれた]
[学校に行かなくなってから、良かったと思うこともなくはなかった。
自発的に学習をする習慣がついたこと。
そして、好きなだけ絵を描くことができたこと。
そうやって二年間を薄暗い、一人だけの世界で過ごした]
[高校に進学するにあたって、やはり不安はあった。
同じ中学校だった生徒は必ず何処かにはいる。
私のことなんかもう忘れているだろう、そう思いながらも入学式では心臓の高鳴りを抑えることができなかった。
やっぱり向こうはこちらのことなど気にも留めていなかったようだ、憶えていたのは私だけ。
そしてもう一つの不安は、またいじめられるのではないかという不安。
大人しくして、目立たないように振る舞えば良かったのかもしれない]
[でも、その不安を大きく上回る気持ちが私の中にあった。
ここで、この津村高で、思い出を作りたい]
― 午前:病院 ―
[目を開くと、白いくすんだ天井が見えた。
腕からはチューブが伸びていて、吊るされたパックから零れ落ちる透明な液体が私の体の中に送り込まれていた。
病院、か。
三年ぶりになるのだろうか、パイプのベッドの上で見る、この光景は]
[しばらくぼーっとしていると、病室に母が来た。
こっぴどく怒られる。
次に白衣を着た病院の先生が来る。
また、怒られた。
どうやら、もう家には帰ってもいいようだ]
[帰りの車の後部座席。
毛布にくるまりながら、何気なく電源を入れたスマートフォン。
昨日の夜メールが来ていたようだ。
りっちゃんからの、メール()]
[今の気持ちをとても短いけれど、返信しておく。
涙で画面がうまく見れないから]
――――――――――――――――
From: arujinashitote-haruwowasuruna@i.softwanko.jp
――――――――――――――――
ありがとう
ごめんね
END
――――――――――――――――
ー 自宅 ー
……、 な、……か、なぉ………!
[携帯の目覚ましアラームの音色でまどかは目を冷ました。
喉が焼けるように痛い。
この灼熱感と戦い始めてはや数日、一向にそれが収まる気配は無い。]
…… ぽ、か…
[やめよう、言葉をだすのはやめよう。
一文字喋る事にズキズキと喉が痛んだ。]
………………
[まどかは眉を寄せて止まっている。
口の中には、徐々にぬるくなってゆくポ○リ。
あまりの喉の痛さに、一口嚥下するにもかなりの心の準備が必要だった。]
(…… よし、 まどか、いきます!)
[きゅっと眉をあげて決意に満ちた目を見開いて、そして… ]
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