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[落とした命。
ただ、思う。
あの花は、どんな姿をしていたのだろうと。
一度聴いた笛の音。
耳に残る音ではなかったが、笛を聴いたことだけは覚えていたから。
父が摘む花。
今はもう、遠き場所に]
[散った冬色の花を見やる。
最後まで共にあった花を、その爪を病を。
恨むことなどしようか。
自身が望んだのだから]
…ロビン。
[一つ、言葉にして]
[人を喰らい、血を啜り
種を植えては、また人を喰う
其の身が枯れ果てるまで。
花で有ることに変わり無いと
人食花の、以後を案じる主を見上げて笑む
爪が皮膚を破り肉を引き裂いていく
深く深く
数珠の音がする。
転がる珠が
心臓刳りださんとした其の時に
魔を祓うというその数珠が効を発した]
[崩れ落ちる主の身に爪をたてたまま
花もまた糸が切れたよう。
薄れていく視界に、歓喜のいろを見て
ひとつ
望みが叶った事を知る
人狼病持つ、人食花は散った]
[祓われた魔は、花が持つ
一族の願い
ひとに種植え付けて
望まぬ生を産む
少しずつ、少しずつ
底からこの世を崩してゆく
幾日も、幾年かけても
血を受け継いできたこの花も
願いはひとつであったのだけれども]
[何処とも知れぬ、ふわりと浮かぶ意識
閉じたはずの瞳開けば、変わらぬ姿を目前に]
……主、さま?
[名を呼ばれた。
不思議そうに、首を傾ぐ]
ここは
メモを貼った。
メモを貼った。
[届く声。
ああ、意識は落ちたのに、この場所は]
狭間か。彼岸か。どちらでも。
お前がいるのだから。
[傍にある花を手繰り寄せる]
[困惑を顔に浮かべて
手繰り寄せられた相手から視線を逸らす]
ボクは……
私は
[先に散ったのは冬の蕾
後に散らされたのは、病持つ花]
狭間でも、彼岸だとしても
……主さまの傍に、居られるんですね。
[心ふたつ
混じる]
メモを貼った。
今のところは、というところでしょうか。
仏の教えには、彼岸には浄土があると。
そこに逝く為に、僧は徳を積む。
私は、積まずに参ってしまいましたが。
ですから。
ここも一時の場所なのかもしれぬ。
[声が聞こえる。此岸からの。生者の声。
そして混じるは死したものの声]
私は、浄土まで行けません。
そも人に非ずといわれる身
一時の場所に
何時までも留まっていられたら
[不意に気付く]
声が聞こえる
……セシル、迦陵……
[道は分かたれた
友人二人の声を聞き
はっきりと知る。
学びや同じくした花といえど
花同士であれば
何時か別れは来るもの
寂しいと感じるのは、冬の蕾]
私も行けませんよ。
徳を積めばいける場所ですが…。
私はそも徳を積む事をしなかった。
けれど。お前を地の底に落としたくはない。
ここに留まれるのならば、留まりたいものですが。
[友を呼ぶ声。目を細めた。
契った事は知らぬ。けれども、二人が思い合うことは知っている]
そうですね、色狂いの僧では
たどり着けない場所でしょう。
[返す言葉に僅かトゲ交じり
は、と気付いて口を噤んだ]
私は……ふたり留まれるなら何処だって
[頬を染めて身を離す。
居た堪れないのは
接触に慣れぬ冬混じる所為]
メモを貼った。
失言を。
[先刻のトゲについて、謝罪をひとつ]
主さま……
[応接間の、洋琴に目を止めた。
近づき、鍵盤の蓋を開く]
現世で聞かせられなかった
うたを、聞いてくれませんか
[触れる
指がゆっくりと白と黒の上で踊る。
音符の連なりにあわせて主の為に歌うのは
優しくも物悲しい鎮魂歌
この世ならぬものなれば音は*聴こえるか*]
メモを貼った。
[―― 鳥は。]
……―― 厭だ
[鳥は、青から射落とされる。]
…っ、厭だ――…!
朧様、
――っ
……
[白い鳥が、 啼いたのは]
華月…!!!
[届いたかどうか知れぬ]
[―― りん、 と。
鈴の音が 最期に 啼いた。]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
[色狂い、との言葉に僧は眼を伏せる。
口元に笑みが浮かぶ]
美しきものを見れば、この手に抱きたくなるのとは必然と――。
ロビン、貴方はいまだ私の花。
傍におりなさい。
[離れる姿へ手を伸ばす。
触れると、生前と同じようにその髪色へと指を絡ませる]
事実ですから、問題はなく。
お前が謝る必要も、ない。
――ああ。聞かせておくれ。
楽しみにしていたのだからね。
[触れられぬはずの洋琴。奏でられる音。
唄われる声。
音がやむまで、その傍で聴き続ける。
此岸の声はまだ届かぬ。
楽が終われば花に手を伸ばして、その*腕の中に*]
美しい、なんて
可笑しなひとだ。
[苦笑いは冬色、続くは花の色]
嗚呼、おかしなことは
私欲に主さまを使おうとした、私にも。
…………見る間に咲いた花に色がつくとは
是を美麗と謂うのなら
主さまがつけた色故に他為らぬでしょう
[冬の蕾持つ戸惑い僅か含みながら
冷たい色持つ貌は哀愁含む笑みを浮かべる
応接室の洋琴が鳴り響くを、
たどり着いたセンターの人間は聞くことが出来ぬ。
己が爪でころした
主の為に歌う声も]
[やがて曲を終えて、
褒美のように伸ばされた腕に擁かれた時
聞きなれた鈴の音が
彼方から、此方から
聴こえた]
かりょう
[囀りが遠く聴こえ
少年は呟く。
困ったような笑みを浮かべて]
……あの時既に
ボクも、キミも 変わってたんだよ
冬の香は、私が偽ったに過ぎぬと知っても
未だおなじ事を思うかどうか
私欲でない願いなどどこにもありはせぬ。
それが人の為であったとしても、回れば己のためであり。
…お前のそれも。
お前だけのものではなく。
[腕の中の花を優しく包む。
聞こえた鈴の音。
こちらだと気づいたのはまだ僧の耳にはあちらの音が届かぬから。
ようやく。
現世の声が耳に届くと、死した姿をじいと見た。
もう届かぬ花。今は腕の中にあるもの。
腕に感じるぬくもりは魂のそれかと、友の名を呟く花を見る]
[――――りいん、と
鈴が、泣くように鳴った。]
……利用されたと謂うのに
怒らない
主さまはやはり、おかしいひと
充たそうといいながら、私は貴方を隠れ蓑にした
冬無き変化を、主得ん為と
其は真となりましたが。
[不思議そうに見上げる眼差し。
聴こえる友のこえに、冬色もまた
応接間に横たわる亡骸と、触れる鳥の姿を見る。
また、鈴の音がした]
――白き鳥の舞は、其の通り同じ結末を?
[泣く音。悲哀を感じるそれは、やはりこちらのもの。
あちらの音は小さく届いていたから]
どなたかが、此方についたのでしょう。
この鈴の音は…。
鵠?
[姿はまだ見えぬ。音がするほうへと眼を向けた]
怒るという思いは、すでに忘れてしまいましたから。
ああ。
お前が誰かに召されていたら――。
それは私の身を包んだかもしれぬ。
[見上げてくる眼差しに触れるか触れないか、唇を寄せて]
利用ならいくらでも、
人に使われることは徳を積むことにも成り得る。
そのようなことでいちいち腹を立てるはずもない。
それに、利用されてなくばお前はここに居ぬかもしれないのだから。
…… ―――誰 だ
[―――静かに、
消え入りそうな声がした。]
呉服問屋 藤之助の声に、その姿がぼんやりと浮かび
……聴こえてるよ、迦陵
ボクは冬の蕾のままだけど、此処はとても暖かい
[秋色撫ぜられた感触は無く
それが少し寂しいと思う
振り払っていた過去を微かに悔いて
ふと、落ちてくる主の唇
小さく困ったような笑みを浮かべた]
でも主さま、私は叱られるようなことをしてきたのです。
ひとつ
望みを叶えてきてしまった
イビセラの、血を受け継ぐ種を……桜の腹に
[線香くゆる其の先に、
冬が憧れた先の花がひとつ]
……名乗る礼儀は、無きや?
[消え入りそうな問いに
返す複雑そうな声音]
[沈黙。
知っている声だった。]
……鵠。
[ぽつり、と呟くように名が落ちる]
種を。
それは、困りましたね。
身をもたぬここでは、些か感情が出やすいのかも知れぬ。
お前だが誰ぞと契ってきたなど。
私の身に宿して欲しかった。
[見下ろす眼に僅か燃ゆる嫉妬。
死した身ではそれは叶わぬことだと、思えばそれもやがて鎮まる]
…ですが。
お前の生きた証が残るのなら、私はそれでも良いと、思う。
鵠。
やはりか。
何故、貴方がここに。
疑いでも向けられましたか。
[冬を抱いていた腕を解く。けれども肩に手は乗せたままで]
もう、言うても遅いことか。
私が居らずとも
私の子が
次の代へ、其の次へ
望みはひとつ
願いはひとつ
肉を喰らって血を啜り
人の身に種を植え付けて
――――幾日かけても
幾年かけても
必ず果たす
不条理なこの世を壊す為
[主の瞳に灯ったいろ。
見詰めた花が満足気に笑みを浮かべて、詠った]
……主さまの背がもう少し低ければ
私にも襲えたやも。
主さまは
現世に残すもの有りや?
[擁かれていた腕が解かれ、それでも傍は離れない。
肩に乗った手に首傾けて、名乗った方へと名を告げる]
私はイビセラ、ロビン
ひとつ目論見叶ったと謂うてみよう
主さま居らねば
喰らうは高嶺の華ひとつと
……そう謂う案もあった故
現世に残すもの…
残さずとも良いと、思っていたから。
何も。
背など、横になれば関係ないように思うのですが。
[花を見下ろして、少しばかり考える。
肩に置いた手で、首筋へと触れる。
目論見を語る言葉に触れた指に少し力が篭る]
その案が通らず、良かったと。
――ロビン。
[欲しているのは自分かと、裡に篭る思いに片方の手を自身の胸に当てた]
…――――白鳥は、
伝承から
逃れられなかった、らしい。
[さらり、と
黒髪が流れ俯いた。
言葉少なだった鵠はしかし
――イビセラの言葉に目を見開き、紫苑色で、睨む]
そう、――睨まれますな。
それが病からか本心ゆえかは別として。
いま現には高嶺様は生きていらっしゃるのだから。
それよりも。
いまだ残る獣にかからぬかの方が心配でしょう。
何も……?
血の繋がりもあったでしょうに
……背は、そうやもしれません
実の所
唆しも後押ししていましたが。
[首筋触れた指、促されたように顔を上げた。
それから、白い鳥に視線を流し]
案はどの道先送り
先ずは忌わしき使者の片割れをと
……謂うてあったのを
二人に独断で
私が主さまを。
高嶺さまには、
選んだ花の一輪散ったさまを
見せ付けて
そう煽ったのはかの人
私は其れに乗っただけ
其の後どうする気かまでは知らねども
嗚呼、元は花故に
人を誘い捕らえる術は
芽吹いたばかりの私とは、比べようも無い
今も
……声が
…―――――
[睨んでいた眼が、
一瞬、揺れた]
霞月夜
か
それは……―――
[りん、と鈴が鳴る]
……髪を同じに結えば良いと
かの人に。
[鈴の音にそうと取れる答え]
ボクの、巣箱から
雛鳥を浚っていった月は
私の花開くを待っていてくれたひと
真意は知らぬが
彼も、彼も
望みは望んだ数だけ
願いは願った数だけ
手に入れる
血など。
今の世にはさほど重要ではありはせぬ。
それに、どちらにしても残せなかったのですから。
[父はどうであろうか。
自分が亡くなれば、又新しい子を作るのかも知れずと]
元は花、霞の方か。
あの方は――。
[夢で契った相手。夢と思えばこそ。あれはただ一度だけのもの]
嗚呼、そうだ
ひとはもう
血を受け継ぐものでは、ありませんでしたね。
今の世ならばこそ
私の血は必ず、後へ残さねば
[霞の。
主の口から出た言葉に、淡い笑みを浮かべた。
冷たい色の瞳が見上げる]
……その霞の方が
良い体つきと、褒めていらっしゃいましたよ?
[そう謂って、視線を外す]
知って、いらしましたか。
褒めてくださったのならそれは嬉しいことでしょう。
花は花主だけのものですが、花主は、一人の花のものではなく。
けれど今は。
私にはお前しか映らぬと言うのに。
[はずされた視線を追う]
何故、…そんなことを。
[怪訝そうに
ロビン、を、イビセラを、見た。
髪結いを叱られた、なのに]
もう
届かない
[唇を噛んで、俯いた。]
――――、朧様…
…かげつ…
[自分を抱くようにしながら、俯いた。]
誑かしてはと、煽ってくれたものですから。
ただ
私は未だ、人食いの花としては未熟もの
すっかり主さまのもと根付いてしまいました。
……花主は一人の花のものでなく
けれど今は、主さまには私だけ
[外した視線は白い鳥に]
もう、届かない?
これまでも
届いていたとでも、思うの?
さあ……何故そんな事をしたのか
総てはあの方の手の内やも
[風が運ぶ囀り]
ボクは、
[戀は糸と言うと心で出来ているのだと
柔らかくも切ないその言葉に
憧れていた遠い記憶]
失せもの探して
声を裂く
いとしや、いとし
我が吾子は
――…そら、其処にいるよ。
[登る声は拾えども
冬の声は届かない]
[――――りん。
微かな鈴の音を立てて
顔を上げる。]
…―――届いていたなどと
思っては、いない。
死しては
手、伸ばすも 叶わぬ …
執事見習い ロビンのただ傍に立ち、あちらを*見やる*
望みはひとつ
願いはひとつ
二つ心抱いたなら――
[薄い唇から、うたを零すは主持つ花]
ふぅん
飛ぶ白鳥すら
あの高い嶺には届かないんだ。
[複雑な色帯びて呟くのは冬の蕾]
誰なら、届いたんだろうね。
[傍らにある法泉の
手を取り指を絡めて寄り添う。
遠く、現世を見遣る瞳は雪空の色
何時しか、気付けば其処にあるべきレンズが無かった**]
……わからない。
……死者にはもう、遠いことだ。
[俯いて、思うは何か。]
――――― …
[言葉は、少なく。
もののためしか、
高い位置で自分の髪を結い上げる。
鈴が、鳴る]
現世と常世の狭間を見る。
似ないね。
……そうしても、白い鳥は変わらない
[鈴の音に、思うた事そのままひとつ。
見遣る先
広がる不信]
…―――― そうか
[手を話せば、
まとめていただけの髪は
するりとほどけた。]
…そう、変わるはずも
ない な
変わりたかった?
[僅かに、首を傾ぐ。
レンズ無くとも、瞳は焦点を定めて]
……―――
…己は、己であろうと。
[一度だけ視線を合わせる。
それから、誰かを探すようにさまよう]
死してなお?
己とは存外にあやふやなものだよ。
……死者の先輩として言っておくけど。
[硬質な声音。
冬の蕾は咲かぬまま、一夜先に此処にあり]
ふたつ心生まれれば
身はひとつ
引き裂かれ
望み叶わず、破れ散る
[散った花が詠う]
――――っ、……
[眉を寄せた。
紫苑色がつり上がる。]
ふたり、 いたのか。
ひとつの、からだに。
…そんなことが……
[―――声。
それから、
常世ではない鈴の音。
白い鳥は独り堕ちる。
混乱と混沌の中
独り]
――――…
…朧さま
……―――華月
かげつ、 …っ
[手を伸ばしても、隔たりは彼方だ。
りん、と鈴が啼いて
俯いた顔を髪が隠す。]
否
ひとつ、身に 二つこころは
いれられぬ
駒鳥は落ち、花が咲いた
其れが私
[花が謂う]
ボクを殺したのは、噂だよ。
多芸は多才じゃない
それなのに
あの時は、未だ花は選ばれていなかった
それなのに
[臥せっていたあの日
微かな期待打ち砕かれて、冬の蕾は行き場をなくしたと]
[ぽつり。
首を振って、傍らの主に身を寄せる]
……いまは、二人でひとり
寂しさは此処に
淋しさは此処に
埋めてくれるのは、主さま
それから
新たな私が、現世に。
[冷たい色の瞳は、ゆっくりと閉じる。
応接の間に、
手を伸ばせば鍵盤が触れる
それでも、生者に音は届かない]
[奏でる音は、哀愁綴る物語**]
執事見習い ロビンを諫める様に頭を撫でる
[諌められれば、やがて洋琴の音はぷつり途切れる]
……主さま。
[困ったように見上げて**]
息を飲む。
[狭間に呼びかけるこえ
主の傍から、そちらへ
意識を向ければ気配は傍に]
……嗚呼、思い出した
昨年喰われた……明の
[そう聞いたのは霞の月に。
今時の幽霊はあれほど存在感あるものかと謂ったのを覚えている。
ふ、と自らの手に視線を落とした]
[呟きは揺らぐ。
狭間からうつしよへ
届くとも解らず。
まどろむように、意識はまた
温もり求め、主の傍**]
…―――
…華月…
[―――――紫苑色が揺れる、揺れる。]
己は
何も、…
……っ、
[何も知らないで。
何も。何も。
ロビンの声が聞こえても答えられない。
射落とされた鳥は
きつく眉を寄せ俯いた。
――――りん、と
重なるように
鈴が
*鳴った*]
私の声が……聴こえるのなら
其れは生者としてはおかしな事
[白い鳥の視線はあちらへ。
答えが無くとも冬も花も気に留めず
現世留まる亡者を見る。
己の投げかけた言の葉は、
思うよりも随分広がったようだった。
主の傍にありながら、彼らの様子が手にとるように見える
ここは、狭間]
黄泉が手折りた 花ひとつ
うつつの月に 迷い染まる
あちらの虎鉄と謂う花も
……同じ?
[呟きはあやふや
彼については、人食いの花は聞いて居らず]
[主に何もできなかった己は―――なんて、無様な生贄だと。
すまない、と幾度目か謂って。
ふいに、聞こえたのは蝶の声]
――――…飛ぶ
[俯いていた鵠が
少しだけ、顔を上げる。]
…飛びたい…な…
[鈴の音に、重なる。]
[漸く眸が常世と現世の狭間を映す。
ロビンの声が聞こえ]
…己たちの、こえが
聞こえる…?
[呟く。
そういえば、虎鉄は――最早あるはずのない場所で鵠の名を呼んだ]
どうして、…
簡単なことじゃないか。
[素っ気無い少年の硬質な声]
彼は……
多分もう一人も
生者に非ず
……そう謂う事。
嗚呼、この声も届いてしまうかな。
ボクは少し喋りすぎだ。
[―――触れたときの冷たい手。
思い出す。生けるものではあり得ない。]
…――――死んでいる、…
[そっけない声に対する答えは、殆ど吐息混じりで]
[吐息混じる声
答える硬質な音に艶混じり]
迷い迷うて ゆく先は
秋の心 のみぞ知る
愁い帯びて
誰ぞ元へ 迷い込み
降るは いくよの
涙あめ
[節つけて、囁きうたう]
―――今だその場を動けず在る*
――そう謂えば
主さまを、引き裂きはしたものの
喰らって居らぬ。
私も、彼らも
どれ程、腹が減って居るやら……
私はもう
感じぬけれど
此処に居るよ。
[冬を呼ぶ声聞こえれば
冷たくも、何処か柔かな声はセシルの傍で囁く]
何時でも、キミの傍(なか)に。
ボクは煙じゃないし馬鹿でもないけど
付き合うよ。
[セシルの傍で微かな苦笑い
それから、仕方ないなと溜息。
触るなと釘刺す言葉は無く、
彼の内に宿るは、獣の血
彼の内に宿るは、冬の魂]
もし、出来るなら
……屋根をつたって、逃げられたら良いのに
孕んだなど、人間に知れたら
どうなるか
メモを貼った。
メモを貼った。
[姿見えぬ少年は、変わらず応接の間に。
主の傍に寄り添っている。
ここは狭間
宿る種が囁く声は、彼の内に]
[登る煙が、浄土への道しるべのよう。
穏やかに、哀愁帯びて伸びていく]
……
[物言わぬ気配はただ、傍にあるだけ。
無邪気に話すはセシルに任せ、空を見ていた
あの頃のように]
[花の傍に佇む。
生きていた頃より静かに。
けれど裡にくすぶるのは炎。
花が桜へと声をかけるのを、聞いている。
ここにいるはずの花の声が、桜がいるほうから響く]
主さま……?
[傍ら佇む花は、主を見上げ首を傾ぐ]
[この心は何故こうも花を求めるのか。
身などなくなったというのに]
未練が一つ――。
お前の温かさを、もっとこの腕に感じたかった。
[色狂いだといわれたことを思い出し、ふ、と笑った]
……それは、ボクの?
彼岸へたどり着いてしまったら、
叶わない望みかもしれませんね。
[冬色の瞳が瞬いて
傍らの主を見上げる。
其の向こう
櫻に植えた種は、冬の気配帯びて
変わらず彼の傍に有りもする]
お前以外に、誰がいるというのですか。
[寄り添う花に回した腕は、やはり生前と同じほどの熱を感じることはなく]
たどり着いたら、――…たどり着けるのでしょうか。
もう、数珠も、落ちてしまった。
[床に散らばった数珠はいつの間にか片付けられていた。ゆるりと歩く。
傍らの花の手を引いて]
[熱はあるのかどうかわからない。
しなだれかかる身が
刳り貫き損ねた心の臓を胸の上から押さえる]
この身も、この身が覚えた芸も総て
主さまのもの。
如何様にも、好きに愛でて良いんですよ。
それが花の幸せ。
ボクも……多分。
ただ
……私は浄土へ行けぬ身
数珠落ちても
主さまは、ひとで 私は、獣
[冷たい雰囲気纏う幾らか幼い相貌に浮かぶ愁い。
手を引かれれば、少し驚きながらも後へ続く]
[多分、という言葉にも。
この身は震えている]
――何故、浄土にいけぬというのです。
病にかかったから?
人を食らったから?
人は、生れしとき既に業を背負っている。
それを返してゆくのが生者としての使命。
ですが。
浄土に行けぬのは私も同じ身。
業を返しきれず。お前に私を食らわせようとした。
[先を行く身で言葉をこぼす]
私の病は、受け継がれるもの
この世のありさまを、壊す
そのために……酷いことを山ほど。
業を返すどころか、増やし続けて
……主さまもおなじ?
[半歩後を手引かれながら
ふわり、雲の上を歩くような心地
柔かで
それで居て物足りないと思うのは
死しても欲が出るものなのか]
一緒に逝けるなら、どれほど良いか
今このように、手を繋いで
何処までも
メモを貼った。
お前が犯してきたことは、お前の意思がそうさせたのか。
それとも、病であるからか。
――どちらでも、良いか。
[ふわりと。
応接の間を出て廊下を歩く。今は誰にも見られることはなく。
否。
あちらにいる二人の花には見えたかも知れず]
一緒に逝かないのですか。
辿り着く場所がどこでも。
私はこの手を離すつもりはありませんよ。
[艶の混じる硬質な声。
眉尻は微か下がっている]
…―わがころもでは
つゆにぬれつつ……
[小さく呟く。
りん、と現世が啼く度に
響いて常世もりん、と泣く。囁く歌。]
…… ――――
……私はイビセラの花
言ってしまえば病そのもの
今は
人を喰らう力こそ無くとも
[同じ場所、同じ道を通る。
されど現世のひとには見えず]
逝けるでしょうか。
人でなくとも
其の手が私を離さぬなら
[桜の傍らに、ざわめく気配。
冬の色は彼の内]
――
[櫻は
要らぬかどうか答えは無く。
ただ、現世で告げた言葉
彼に届いていなかったのかと、愁い混じる]
[駒鳥と、センターの人間がやってくれば
彼の傍にあった気配はなりを潜め息を殺した]
[届く鈴の音。
そちらを一度見て]
思うのならば、今は届かぬほうを思うと良い。
寂しいからですか。
貴方がなくのは。
その鈴の音は、貴方の涙のようです。
[見る視線は生きていた頃と同じ。色はなく。
けれども僧であったものとしての慈悲を浮かべる]
逝ける。
逝けぬなら、私も往かぬまで。
[足を止めて、空を見上げた。
欠けた満月]
ロビン、お前は私の花です。
こちらに来た以上、それはずっと。
お前が厭というまで。
[月の下、花の身に触れて、心の臓が時を止めたのと同じように、かき抱く]
――…ボクの為に、染めた髪
[小さく呟く声、僅か。
これは聞こえぬ方が良い
きっと、彼にとっては]
[鈴の音に、主が声かけるを花は傍で控えている。
主が話すに口を挟むのは――
そう雛鳥に告げたのは、未だ昨夜の事。
足を止めた彼を見ている]
ボクも……法泉さまの花
ずっと
切り捨てられる事は、無い?
[不意に視界が覆われて、腕に擁かれたのだと知る。
頬を胸に摺り寄せて、鍵爪の無い手が背に回る]
厭などと、誰が謂うでしょう
私は主さまの花
人食でも良いと、選んでくださったのは主さま
お傍に置いてください。
共になら、奈落に堕ちても構わない
何故切り捨てると?
お前が私の花だという以上は――。
私の花はお前だけだ。
[摺り寄せられる頬。
頬に触れて、その眸は此方を向くのだと、向けさせて]
堕ちるまえにも。
もう一度歌を聴かせておくれ。
お前のその顔で。
私の為に、啼いてほしい。
[笑みを見せて、唇に触れる。
触れる感触は、生きていた頃と同じもの]
[僧の慈悲。
届くのは、こえ。]
……、ないてなどいない。
[――――りん、と
小さな鈴の音。
眉はきつく寄せられて
けれど涙は流さない。
重なるように華月と、朧の会瀬を意識に重ねる。]
[見ている]
[感じている]
[願っている]
―――――朧さま、
……―――華月……
[己をきつく、抱いて。
震える肩、
―――りん、と鈴は鳴るばかり**]
[幾人も、花を囲うなら
気に入りが変われば切り捨てられる
習ったこの世の有様は、恐ろしいもの。
なれど]
うたを
……詠いましょう、主さまのために
[頬に触れる手に僅か震えて
冷たい冬色は嬉しそうに細まる]
奏でる曲はお任せします
穏やかな春でも 熱さ溢れる夏でも
実り多き秋も 身引き裂く寒い冬でも
[そっと瞳を閉じる。遠くで鳴る鈴の音も
流れる血の鮮やかさも、今は意識の外に追いやって]
お前の歌は、心地よい。
啼く声と、同じだからかも知れぬ。
[手折った朝のこと。
今は遠く感じられて。
けれども、腕の中にあるのは確かな]
ここでは、少々無粋か。
月の見える場所でと思うたが。
[窓が開けられるのなら部屋にでも、
あちらの騒ぎは僧の耳には僅かに届くだけ。
未練は今ここに。
現世になどないのだから]
――思いの為らぬ秋の歌を。
[そう耳元で告げて、触れる指は優しく。
あの朝とは違う、慈しむ様な口付け。
ないていないと言う鈴の音。
目は向けず、ただ思うだけ。
やはり頑固だと]
ロビンは、駒鳥の名ですから。
[温もりに擁かれ、背伸びをして唇啄ばむ戯れひとつ。
喧騒はそこかしこ
腹に残した種は思うところあれど、花は主の為に咲く]
月の下で……嗚呼
狭間にあっても風流な
[くすくすと、毀れる笑み。
薄灰の、洋装でなく着物を纏うて
耳元囁く言葉に震える]
――思いは、為らぬのですか
[柔かな肌を慈しむ指に、唇に
短く、切ない吐息を漏らした]
メモを貼った。
秋には様々な色がある。
お前の声に合うものを探すと、そうなった。
冬でも良いが、冬では寂しすぎる。
物悲しいくらいが、ちょうど良い。
[月の見える廊下。
庭を前にふわりと腰を降ろす]
風流だというなら、ここでも良いか。
[膝の上に花を抱き寄せる。首元の合せを緩く、その白い首筋へと触れて]
メモを貼った。
[欠けた月のした
人は二人を見ること能ず]
それでは、あきさめのうたを
主さまが望むままに
[膝の上に乗れば、見上げずとも唇が触れる距離
薄灰の、着物の上でなく直に触れた指
感触は確かにあって、思わず息を呑む。
身じろぎ、両の手が縋るように着物の両袖を引いた]
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