30 ─今夜、薔薇の木の下で。
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この感じ。――ロビンだーっ!
[はっと顔を上げて、満面に喜色を浮かべた]
飼い主に駆け寄る仔犬のような勢いで、ロビンに飛びついた。
[蒼薔薇の芽を後生大事に胸に抱きかかえたロビンは、ゆっくりと夢に堕ちてゆく――]
――迷夢――
[茫漠とした空間に、一人の少年の姿が滲み出るように現われる]
――また、堕ちて来る。かれは――
[薔薇の呪いを身に宿し、蒼い芽を抱えて。柔らかな茨の褥で眠るかれの様子は、その少女めいた顔立ちとも相まって、まるで童話に登場する《眠り姫》のようだった]
来ちゃった、んだね……
いつ醒めるか、あるいは醒められるかどうかも、わからないのに。
けど、いい。また逢えたんだから。
今は、ただ――ゆっくりおやすみ。ロビン。
― 回想 ―
[少し前、トニーが、言った言葉には、頷いて、そうだね、と小さく返した。]
[その気持ちは、フィリップを幸せにはしないだろうか。苦しめているだろうか。
わからない。
だって、先輩は、何も言わなかったから。]
――…幸せにするものじゃなかったらさっさと投げ打つ…のができないから、オレ、ばか、なんだろうな。
本気では伝えたつもりだけど、
そういえば、何も返事はもらっていない し。
[サイラスの手はやっぱり頭を撫でていただろう。]
― 医務室 ―
[顔をあげれば見えるフィリップとルーカスの秘めやかな戯れに、目は逸らしながら。
ディーンが入ってくればそちらを向いて…。
そして、薔薇の木は燃されることを知る。]
――……ああ
[燃されれば、蒼薔薇は還るところを失う。
だって、蒼薔薇の想いはまだここにあって…。]
――…どうなるんだ ろうな?
[そして、ベネットが出て行く。
彼の握ったマッチに、裡にいる蒼薔薇が笑い声をあげた。
そう、蒼薔薇は美しく生きるのを願う。
そのためならば、犠牲は厭わない。]
(燃して気が済むなら、燃せばよい。)
(だが、僕は、そこにはいない。)
(そこにあるのは老いぼれた、蒼薔薇だったもの)
[蒼薔薇は、笑う。
笑う。]
(そして、最期に小さく、幻影の蒼い薔薇がそこに咲く。
見えるものはいるだろうか。)
[そのベネットを追いかけるように、フィリップが重い身体を引きずるのが見えた。
その首に咲く蒼い、そして、紅い、それに、蒼薔薇はほくそえむ。
―――蒼薔薇は、そうっと呟く。]
(フィル、君は、誰よりも僕のことが好きなんだろう?)
(ねぇ、セシルを殺して?君なら、殺せる。)
[蒼薔薇は、笑う。
身体は燃される。だから、その前にセシルの身体から木にどうやって戻ろうかと考えたけれど…。
木に戻って燃されれば、蒼薔薇は滅びたかもしれない。]
(ああ、そう考えれば、あの身体なんてもう……。)
[情念と欲望を吸って生きてきた蒼薔薇は、
それを糧に咲いてきた蒼薔薇は、
もう木の精霊の域を抜けていく……。]
(燃したいなら、燃せばいい。)
(表面上はそれで、滅びたように見えるだろう。)
(呪いを持続する力もきっと、なくなる……。)
[蒼薔薇は笑う。
笑って、火を持つものには、燃せばいいと再度言った。]
(知っている。
知っているよ。君は自分のために、燃したいんだろう?)
(その気持ちはよくわかるよ、そんな気持ちもいままでいくつもいくつも…)
(人は、自分の想いのためならば、どんな犠牲も厭わない)
(だから、僕も、人が犠牲になるのを厭わない)
[それは火を持つベネットへの声かけ]
(いいよ、約束しよう)
(その木を燃せば、呪いは一旦解けるだろう。)
(そのあと、その人物が自ら、また呪いに落ちるかもしれないけどね)
(そうならないように、幸せになるんだね)
[ベネットに問いかけ、また蒼薔薇は笑う。
そう、蒼薔薇は、人を犠牲にするのを厭わない。]
[血濡れの手で掴んだ荊棘の蔦。
そこに揺れるささやかな一輪の花。
毒に侵され、樹液に酔ったままの隻眼は、ぼんやりとそれを見つめる。]
なぁ、アンタも寂しかったのか?
アンタも…誰かに愛されたかった?
もう一度咲いて、美しいと褒められたかったの…かな?
[樹液に寄った檻の獣の声に口端をあげる。]
――……淋しい?
愛されたい?
褒められたい?
そんな人間みたいなこと、思わないよ。
[そう、植物の本能、願いは、繁栄すること。
生への執着。]
…根を生やし、空へ伸び、花を、種を…か。
[ぼんやりとそれを聞き、くすりと笑った。]
アンタにとっちゃ、俺達も…蝶や蜂と一緒だったのかな?
香りに、甘い蜜に惹かれて、花から花へ…
[形はともあれ、どうしても欲しかった唯一つのディーンのもの――…。
『お互い壊して壊されたい』この感情だけは自分だけ――…。
これだけは他の誰にも渡さない――…。これさえ手に入れたから
もう、満足できるはず――…]
[そう、思い込めど。満ち足りない思いは微かに残っているのは
自分でも分かってる――…。
いつか忘れられたら―――…
多分、その時に、
完全に
この身に巣くう種は消えてなくなるのだろう――…*]
(終わるよ、燃せばいい)
(終わるように見えるから)
[木を燃せば、蒼薔薇の【呪い】いは、一旦解けるだろう。]
純粋に、欲しいのがソレだけだってんなら…
起きたら俺らみんなで庭の手入れして、アンタの種育てて…ってんじゃダメ?
俺らが卒業する時には、後輩たちに引き継いで…さ。
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