276 ─五月、薔薇の木の下で。
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[言葉を言い切るか否かの時に、唇を塞がれた。>>110 重ねられたそれはやわらかで温かなものではなく、焼けつく程の陶酔でも無く、ただ、刺し貫く氷のようだった。]
(誰にされても?)
(……違う)
(こんなの、いや、だ)
[塞がれた唇では、言葉はくぐもった音と、乱れた息にしかならない。ろくにもがくことも叶わぬまま、血のように赤い瞳から逃れるようにかたく両目を瞑った。 唇に身体に掛かる感触と、くちづけてきたオスカーの――まだその正体の掴めない「色」ばかりが、否応なく意識に入り込む。
オスカーがその場を立ち去った>>111後でも、マークはソファの上から、暫くは動けない。**]
(121) 2018/05/22(Tue) 00時半頃
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――春の日に――
[続く夢は霞んで、とある一日の出来事をぼんやりとリフレインする。
今から辿って一月もしない頃の話だ。
鳥の羽が小さな珠を抱くような細工をひとつ、中庭に落とした。
小さな不運だった。手が滑って、風が吹いて。
いつも通り執着などないはずで、このまま捨て置くことも考えたが、何故だかその日は拾いに行こうと思って、庭で彼に出会った。
あの頃は名前も知らず、どころか顔を合わせるのすら数えるほどでしかなくて、呼びかけることも出来ずに一度、おろ、と戸惑って。]
――欲しいなら、あげるよ。
[そんなふうに、きっと的はずれなことを言ったんだったか*]
[すぐ傍で眠りに落ちた誰かが、その相手と知るすべはない。
ない、けれど、或いは。
夢の中ならば、薔薇がいたずらに邂逅を許すやも、しれず――**]
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[きっと抱え続けていたのは、子供じみた反発。 脅えているのは、自分が抱いてしまったものを認めること、そして相手も―――ということを知ってしまうこと。
それ故に「欲しくない」と思い続けてきた相手が、けれど本当に離れていった時、感じたのは「つまらない」なんて寂しさよりも、ずっと――]
(173) 2018/05/22(Tue) 10時頃
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[薔薇香る中でもぼんやりと口の中に漂うのは、煙っぽい苦さと甘ったるさの色。まだ食べていない筈のベリーとバターの匂い>>3:42が、喉の奥まで染みつくようだった。
もう身体に掛かっていない筈の重みも痛みも、冷たさも、未だ意識にこびりついている。耳の奥では未だに、低い声色の記憶が鳴り響いている。 叩きつけられた衝動に、ろくな抵抗一つもできずに――]
(174) 2018/05/22(Tue) 10時頃
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[これが、大人になろうとした筈の「僕」の有様だ。]
(僕は、惨めだ)
(僕は、こんな僕でしか、ないのか)
[充血している目に、更に涙が滲む。]
(175) 2018/05/22(Tue) 10時頃
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[身体を起こすこともできず、生乾きの結われていない長髪をソファの上に広げたまま。 談話室にあらわれたピスティオ>>151に、顔を向けるだけの気力も無かった。あからさまな「げえっ」の一声はきちんと聞こえていたが、それでもマークはここを離れようとは思わない。]
やっぱり、僕のこと、嫌いなんですね。 ごめんなさい。僕が居るの、暫く我慢して貰えますか。
[そう口にした時には、薄らと安堵の笑みすら浮かんでしまっていた。 掛けられた声から受けた嫌悪が、まるで、こんな夜でも特に変わりないピスティオの姿をあらわすようにも聞こえたから**]
(176) 2018/05/22(Tue) 10時頃
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―談話室―
[「嫌い」だと言いながらも具合を気に掛ける様子のピスティオ>>182に、思わず苦笑が洩れて]
引きずってくには、僕は重いかも。
[と、筋肉も脂肪もそれ程ついていない長身をソファに預けたまま、ごちつつも]
眠くはないけど……自分の惨めさにヘコンでいたところで。 医務室行くまではしなくても、大丈夫です。 ――気に掛けてくれて、ありがとうございます、先輩。
[弱々しく、笑った。]
(192) 2018/05/22(Tue) 15時頃
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[と、挙げられた名前>>183。 ヒューの名には、彼の腕の包帯が思い出された。詳細は知れないながら、怪我の悪化かもしれないと思えば気掛かりになる。 一方でモリスの名には]
(何やってるんだよ、先輩……)
[別れ際の様子>>1:294を思い出し、思わず苦い顔になった。想像したのは単純に「性質の悪い風邪」だ。 それから挙がったふたりの先輩の名、とりわけ後者の方に瞬いた。]
ケヴィン先輩、やっぱり。 僕もさっき、ロビン先輩と一緒に会ったんですけど 調子、変だなって思ってたんです。
(193) 2018/05/22(Tue) 15時頃
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メアリーは、イアンとモリスの間にあったことを知らないが故の推測。>>193
2018/05/22(Tue) 15時頃
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[何か探し物で右往左往するかのようなピスティオの足音を耳にしながら、「普段と違う」ことの記憶を辿る。]
月が落ちて無くて、夜が全然明けない気がして。 何処に行っても、ずっと薔薇の匂いがしてて――…
[丁度この場でケヴィンの名が挙がったからか、あの紅い記憶>>17が誰の匂いからだったかを思い出した。 そしてこのことで、あの言葉>>2:221>>2:222の真意を漸く推し量る。]
そういえばケヴィン先輩、 僕らと居た時に、こんなこと言ってました。 薔薇の匂いが落ちない。薔薇に捕まったら諦めろ。 月でさえ、薔薇に縛られてる。――って。
(194) 2018/05/22(Tue) 15時頃
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ここからは僕の想像というか、 勘みたいなことなんですけど―― ケヴィン先輩自身がもう薔薇に捕まっていて、 また別の誰かが、これから捕まってしまう。
[警告めいた去り際の言葉>>39が、脳裏に過る。]
それが具体的にどう、っていうのは判らないけど、 多分、どうしようもないくらい切羽詰まって、 誰かを欲しがる気持ちに囚われることじゃないか。
……ケヴィン先輩の匂いから、そんな色がしたんです。
[自分の鼻に一度指を載せ、それから、ゆるりと上体を起こした。]
(195) 2018/05/22(Tue) 15時頃
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メアリーは、>>195だから自分たちが何をすべきか、というところまでは上手く掴めないまま、
2018/05/22(Tue) 15時頃
メアリーは、四苦八苦するピスティオ>>183の背中に、何処か和やかに目を細めた。**
2018/05/22(Tue) 15時半頃
――来客――
[振り返っても、何も見えないのがこわかった。]
[あまり子宝に恵まれない両親の元、ようやく生まれたひとりがモリスだった。
勉強や運動の方には――特に歴史と器械運動がひどく残念だ――目立った成績はないものの、伸び代があると笑って、いつもより少しでも良ければ褒められるような甘い家族に囲まれていた。
幼少期から少し絵は描いたが別に好きにもならず、談笑とじゃれ合いばかりで過ごす日々が続いたあと、この学校でようやく趣味らしいものに出会った。]
[それからは没頭した。少しの絵の経験が、作品のイメージを記すのに役立った。学年下の絵描きにも手伝ってもらったし、庭いじりの先輩には木切れをもらった。なんなら間接的に本来の庭師である用務員とのコネクションも出来た。
失敗ばかりでごみを増やした時期が過ぎれば、徐々に校内での認知も広がっていく。
夢中で、夢中で、それからふっと立ち止まった。
そう、それはいつだったか、奇しくも眠りの外と同じ言葉をかけられて。]
[考えたことなかったなと、振り向いた。
過去を思えば、何もなく。自分を構成しているのは木片とナイフとやすりと針だけに思える。
それをこわいと思ったのは、単なる自分の感性の話だ。
染まった人生を振り返り、堂々と好きなものは木を彫ることだと言える人だっているだろう。
いつか怯えを問いかけた時、フェルゼはその類の人間だと思っていたから、返って来た言葉は少しだけ意外で。
けれど失くなることのほうがこわいと告げるその気持ちもわかる気がした。
染まるのをこわがるくせ、この手は木と枝に触れるのを止めなかったのだから。]
[穏やかだった心に少しの亀裂。くく、と微かに眉が寄ったのに、手を撫ぜるだけのフェルゼはきっと気づかないだろう。
そしてその内、ゆっくりと思いを振り払ったかのように表情は穏やかなものに戻る*]
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―少し前の談話室―
[「かつげないから」>>204なんて言葉には、言われてみればとばかりに噴き出してしまった。バカだとか腐った顔だとかいう散々な言われようが、けれどマークが抱えていた鬱屈を程よく吹き飛ばしてくれた。 徐々に戻ってきた笑顔が、重傷でないことを示していた。
それからの話。パンの匂い>>205は確かにしなかった、と頷くでもなく是を返して。 危ないのはロビンだと聞いた時>>207に、その人の離れ際の一言>>2:225が思い出された。]
ロビン先輩は確かに、少し無茶をしそうな気がする。 僕らだってなんだか、おかしくなってるんだから。
[ピスティオもまた薔薇の香の影響を受けているらしい>>206と聞いた故に]
(244) 2018/05/22(Tue) 22時頃
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って、ヒュー先輩とモリス先輩、 風邪で倒れたとかそういう訳じゃなさそう……?
[医務室に行ったというピスティオからのその一言>>208に、想像以上の事態の不可解さを思う。 とはいえ、ヒューについては確かなことは判らない。現に同じ条件でピスティオは特に何ともないというのだから。 ただモリスに関しては、思い当たる節がないでもなかった。]
モリス先輩は前にベンチで会った時に、ちょっと 弱ってるというか、弱気、みたいな感じでした。 その時から、何かあったのかもしれません。
[あの時問うてきた>>1:241理由を尋ねていれば、という後悔。]
(245) 2018/05/22(Tue) 22時頃
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[もし薔薇に捕まったなら――焦がれるほどに苦しむのだろう。そう思えたのは、「暴れると自分に疵がつく」というケヴィンの言葉と、自分自身で感じてしまった、紅い荊のお裾分けの所為>>56。 荊の締め付けの前に諦めたとしても、それは誰かに――自分にも――傷跡を残していくのだろうと。 それ故に、「止められるなら」とは思ったの、だけれど]
殴ってみ ……え??
[ピスティオ>>209の一言に、同級生のワルたちの喧嘩会議を思い出し、固まった。こうして「腰抜け」マークは、茫然しながらとピスティオの背中を見送ることとなった。]
……とりあえず、お茶、やっとかないと。
[視線は机の上のクッキーへ、そして壁際の戸棚へと*]
(246) 2018/05/22(Tue) 22時頃
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メアリーは、ケヴィンを縛る紅い荊を、思う。
2018/05/22(Tue) 22時頃
― 春の記憶と ―
[あの細工は、今も部屋のベッドの脇に置いてある。
何かを抱く鳥。
大事なものを抱きしめているような、優しさ。
落とし物だと思ったのに。
欲しいなら、と言われたら、「はい」なんて咄嗟に頷いて、
なんとなく気まずくってその場はすぐに辞したのだっけ。
持ち帰った細工を、同室者が「モリス先輩の?」って聞くから、それで名前を知った。
でも、それだけだ。
そのあとすれ違っても、何の視線も動かなかったから、いまさらありがとうなんて言えなくて―――]
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―今の談話室―
(まだちょっと、痛いや)
[大分退いてはいたが、顔には未だ赤い痕。>>198 頬を擦りながら、ひとりきりの静寂で思うこと。
神様でもないただの人間に、オスカーとフェルゼの間で何が交わされていたかは知れない。「どうして」の疑問への答えも、結局教われない。 ただ、オスカーに傷を与えたものがあった。それだけは判った。
彼自ら言った通り>>196、ひどく理不尽な仕打ちを受けた自覚はあった。それでも、それ以上に悔しかったのは]
僕は、何にも解っちゃいなかったんだ。
[教師たちが語る偶像ではない、目の前の事実としての、ひとりの人間としてのオスカーのこと。]
(258) 2018/05/22(Tue) 23時頃
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[結局あんな仕打ちを受けた後>>199も、何の一言も発せずに、ただ涙を滲ませただけだった。あまりにも無様で惨めなその姿を、「綺麗」だなんて自分では思えない。 こんな姿は、謝罪だけ残して去って行ったフェルゼの目にも映ったのだろうか。]
あんなんでも、綺麗だっていうのか。 こんなんでも、僕は僕だっていうのか。
[届かないひとりごと、ぽつり。]
(259) 2018/05/22(Tue) 23時頃
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― 夢の中 ―
[優しい音が聞こえる。
ヴァイオリンとは違う、鍵盤の音。
明けない夜、月の隠れた星を探すような、音。
あるいは、暗い夜。傍らに眠る家族に手を伸ばすような、安心を約束された安らぎの曲]
[表面を撫ぜる誰かの気配。
額に触れた唇は、夢の中に、濃い薔薇の香りを齎す。
それは、質量のある「想い」だ。
その色は知らねども、確かにある感情。
生まれかけた、微かな欲を、薔薇の香りが増幅させる。
それは、まだ名づけなくていいはずのもので。
形にするのも躊躇われる儚さで]
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[思えばいつだって、ふっと目を覚ました時に映っていた顔。あいつに弄われた、あいつがいる、という不愉快を、けれどもそのまま重ねつづけた。 避けることを怠った端緒は些細な事だったのろう。 けれどもいつしか、それは あたりまえ のふたりの一瞬を続けることとなった。>>234
次に目を覚ました時には、けれどその顔はもうこの目に映らないんじゃないか。 ――そんな言葉>>57を吠えたのだという自覚が、今になって、燻る。]
(265) 2018/05/22(Tue) 23時頃
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― 夢の中の、医務室で ―
[聞こえるはずのない音量で、鍵盤の音が響いている。
それは、心地のよいBGM。
心を揺さぶるに十分な情熱は、窓から太陽の照らす明るい医務室の中を軽快に彩る]
あぁ、 ……夢か
[シーツの中。
右手の指を一本ずつ、ゆっくりと折り曲げた。
明るい光がこそ、夢だと知らせる不思議。
現実と繋げるのは、この甘い香り。
中庭の薔薇が、今を盛りと花開く]
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[長い髪を断ち切るのを躊躇うように>>204、手が震える。 けれど何かを決めろというように、低い声>>108が鼓膜にぶり返す。]
……いなくなったら、つまらない、だろ。
[嫌な予感がした、という訳ではない。>>236 ただ、何かに突き動かされたように、駆け足で談話室から廊下に飛び出していた。
机にはクッキーと、タルトの残りと、残念な程に不器用に、茶葉を大盛りにされたティーポットを残して**]
(271) 2018/05/22(Tue) 23時半頃
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[例えば、小さなつむじ風が薔薇の花弁を巻き上げて、すべて飛ばしてしまうように。
例えば、虹色に渦巻いていたシャボンの玉が、はつんと弾けるように。
穏やかなぬくもりに揺蕩っていた自我が、ふいに帰ってくる感覚がした。
瞬間、どこか遠くに聞こえたピアノの音も、ふつと途切れる。
現実でもないピアノなのに、途切れればどこか残念な気がした。]
……あれ、
[ゆっくりと目を開ければ、見知った医務室だ。
明るく、太陽が差し込んでいる。
夢の中で目を覚ますという珍しい経験をしたことには気づかないまま、隣にいる人影に視線を向けた。]
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