178 【人狼騒動RP村】湯けむり温泉編
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―――!
[それは、一瞬だった。
シエルの忍ばせていた包丁が喉に突き刺さる。
醒めた目の友人を見たまま、呆然と目を見開いた。
意識が急速に冷えていく。周りの音が、聞こえない。]
………なんで、…え………が…
[口を開くも、ひゅうひゅうと息が漏れるだけで言葉にならない。
ただ視界の端にぼう、と黒く濁るモノが映る。例のコインだ。
そうか。狼。あいつが。みんなに、つたえないと。さむい。でも、しろかった、なんで、こいつは。なんで。]
…は、……だ、…ない……っ
[朦朧とする考えはまとまらず。最期に呟いたのは何だったか。
ばきり、とコインが踏み抜かれると同時に、ぷつりと視界は途絶えた*]
[何も武器を持っていないジリヤに、せめて護身用にとナイフを手渡そうと思い立った。
そう、トレイルに渡したものと、引き出しにしまったもの、そしてもう一本、キャリーに隠してあったことを思い出したから。
廊下で見かけた彼女に渡そうとしたけれど、声を掛けたタイミングが悪かったのか気がついてもらえなくて。脱衣所に向かう彼女についていき、声を掛けようと近づく。
すると突然、振り返った彼女は何を思ったか愛用のぬいぐるみ針を取り出した。]
これ、護身用にと思って…
[と言いながらナイフを掲げて見せる。"奴ら"に襲われた時に、非力な女性でもこれがあれば抵抗できるだろう。
だけど彼女は突然こちらに駆け寄ってきて。
掲げた右手を掴まれ、捻られ。喉元には普通より大きな針。
殺されるのかな…ナイフを持っていては彼女も安心できないだろうと手を離し――それは彼女の手へと渡る。
そうして、そのナイフは振り上げられ――重力に従って私目掛けて一息に下ろされる。
これで楽になれる。何よりもその思いが最初に浮かんで、口元には薄っすらと笑みが浮かんでいただろうか。
少女の体は床に倒れ、夕顔の花は再び朱に染まる。今度は、自らの朱。]
[気が付けば自らの死体を見下ろすように立っていて、隣にはジリヤの姿。
きっとこれは幽霊というものなのだろうとは簡単に推測がついた。だって私にはまだ未練が残っている。
皆と、何よりも親友のこと。
彼女だけはどうしても救いたかった。
そのためには、この世の理さえも覆すと言っても過言ではないあの秘薬を使うことも考えていたのに…と、首にかけた小瓶を思い出す。死んでしまってはこの薬ももう無意味だろう。
あれは所詮、現世から常世の者を呼び戻し、あるいは送るための道具。半分常世の住人となってしまった今ではもう使い用のないもの。
ジリヤはきっと、ナイフを持った私を見て殺されると思ったのだろう。仕方ない、昨日私が行ったことを考えれば当然。
誰が悪いのかと問えば、確実に私。
彼女はあくまで「正しい行動」を取っただけなのだから。
ただ一つ残念なのは、私には「私が"奴ら"の仲間ではない」ということがわかっていること。私を殺すことは"奴ら"を追い詰めることには繋がらない。]
[頭に載せた花を手に取り、床に出来た血溜まりに落とす。白は朱に染まって、酷く綺麗に見えた。
血を指に取れば自らの付け下げに描かれた花も数輪朱で染めて、微笑む。]
あなたの罪は私が背負いましょう。
こんなことになってしまったことも、あなたが私を殺さなければいけなかったのも、全てが私の責任です。
だからどうか、ご自身を責めないで。強く、前を向いて――
――そして、メオちゃんを助けてください ]
―――…、
[ふ、と意識が浮上した。
周囲を見回せば血濡れで事切れている己の姿。
虚ろな目で、うっすら透ける自分の手を見た。
そうか。認めたくはないが、この状況は、――]
……くっそ……。
[苦々しげに呟き、ガンっと近くの椅子を蹴ろうとするもそれは叶わず、足はスカッと虚しく空を切るだけだった。
顔を歪め、その場にうずくまる。
自分を殺した張本人――シエルはもうそこには見当たらない。
あいつは「人狼」ではない。それは己の目で確かめた。
だからこそ、紛れもなく裏切られたのだという事実が重く伸し掛った。
友人だと思ってた。こんなことになって辛そうだった。何とかしてやりたかった。なのに。
何故。何故だと、行き場のない怒りと哀しみが渦巻く]
…!
[暫くして足音が聞こえると、そちらを振り返った。メオとクシャミが部屋に入り、自分の遺体を見てショックを受けている様をぼんやりと眺める。
取り乱したメオが怨嗟を吐き、やがてその言葉は涙へと変わる。服が血で汚れるのも構わず骸の横に座り込むメオを、ただ横で見下ろしていた。]
…泣くなよ。
[そんな風に言っていつものように頭を撫でて、出来れば抱きしめてやりたかったけれど、それももう叶わないのだ。決して触れられないてのひらが少女の髪を撫ぜる。
やがて顔の横でぼそりと呟かれた言葉に一瞬目を見開き、哀しそうに表情を歪める]
……ああ。
オレも、好きだったんだ。メオ。
[ああ、馬鹿だ。
こんな風になるまで素直に向き合えないだなんて。
今更それを口にして何になる。
もう届かないのに。この声は、何も。]
[――と、座り込んでいたクシャミがメオに近づき、何やら話しかける。彼の言い分からするとシエルの姿を見たらしい。]
…‥お前にオレの何が分かるって言うんだよ。
[自分の気持ちを代弁する体でメオに諭す彼には、仏頂面で零した。
確かにメオが復讐に堕ち、その手を血で染めるような真似はあまりして欲しくはないのは事実だけれど。
この青年がメオに対して友人以上の感情を持っているのは薄々感じていたから、その彼に言われるというのはどうにも複雑だ。
大体、こいつが「人狼」でないとは言い切れない。
警戒するようにその姿を睨みつつ、二人の会話を聞いていた。お守りを手渡す彼を見ている限り、クシャミの動きに不穏なものは感じられない。取りあえずは任せておいて大丈夫だろうか。
自分が守ってやれない分、今のメオには誰かが必要だろうから。]
クシャミ。
……こいつに何かあったら、頼む。
[正直あんまり言いたくないのだけれど。
そうも言っていられない。――嫌な予感がする。
去っていく彼らの背中に向けてぽつりと投げかけた。*]
[私の身体だったものを、彼女は丁寧に扱ってくれた。
拭われていく私をぼうっと見つめて。彼女がふらりと出て行けば、その場に座り込む。
メオに見つけて欲しくて、けれど見られたくなくて。
二つの気持ちは互いに反していたけど、どちらも根底にあったのは――]
――好き。
[それは友達として?それとも一人の女の子として?
答えは出せないまま、とにかく彼女のことが愛おしくて。それゆえに気待ちは乖離する。
と、考え込んでいれば近づく足音。
目を向ければ涙を流して歩みを進める少女の姿。
私の側で立ち止まれば一層激しく泣いてしまった]
お願い、泣かないで。ジリヤのことも責めないで。
私はあなたが無事に帰れるのなら、それで十分だから…
[どんなに声を掛けようともそれが彼女に届くことは決してない。
どんなに想っていようともそれが実ることは決してない。]
[突然、笑い出した彼女。
何か面白いことがあったというよりも、きっと心の器をこぼれてしまった感情の波なのだろう。それは酷く哀れで、可哀想で。
抱きしめてあげたいのにこんな身体では叶わなくて。
彼女の言葉を聞いていると、どうやらシエルがトレイルを殺したらしい。だけどそれはおかしい。
だってそれじゃあまるで、ただの殺人事件。
そんなはずはない、だってそれなら私がここに来る理由がない。私が恵さんを刺した理由がない。
それらに理由が無いとしたら、私に彼らを許すことができただろうか。
雷司の名前を口にした彼女をはっと見つめて。
彼がどうしたのだろう。その言葉からはまるで、彼が黒幕であるような、人狼であるような雰囲気が感じ取れて。
ふらりと動き出した彼女が心配で、隣に寄り添うようにして歩く。クシャミさんのことなんて全く目に入らない。]
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