17 吸血鬼の城
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― 客間・サイラスの部屋 ―
[どれほどの時間が流れたものだろうか。 そもそも、この城に、時間は流れているのか…。 誰かが言った、そんな言葉が耳の奥に蘇り――
ふ……と、目を開く。]
―― ん…
[微かな吐息が零れ。 身を起こそうと、ゆっくり頭を持ち上げた。]
(26) 2010/06/21(Mon) 00時頃
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[ 悲鳴が、聞こえた。
その、生々しさに。 微睡みに遊ばせていた意識が、急速に覚醒へと追いやられ ぞくりと背を震わせて、ベッドの上で腕を抱く。
戸口へと視線をやれば、扉の前に佇む薬売りの姿と、 その向こうに、白い従者の姿が垣間見えた]
(45) 2010/06/21(Mon) 00時半頃
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サイラス、さま……
[怯えの表情を浮かべたまま、上体を起こす。]
…いまのは、一体――
(56) 2010/06/21(Mon) 00時半頃
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襲われ……た、…――
[魔物の城。贄の宴。 教えられてはいても、理解にはほど遠く。 現実を突きつけられて、揺らぐ。]
――…、……っ………
[口元を押さえ、声をかみころした。 いったい、誰が。 誰に。
問いが、脳裏を巡る]
――… わたくしも、参ります。
[静かに答えて、ベッドから足を下ろす。]
(75) 2010/06/21(Mon) 01時頃
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[元の通りに帽子とヴェールを被り直し、 サイラスに続いて部屋を出る。
少し――呼吸が楽になったように思えるのは、 薬が効いてきたからか。
それでも、サイラスの後を追う足取りは、 どこかおぼつかないものであった。**]
(91) 2010/06/21(Mon) 01時頃
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― 回想/サイモンの部屋 ―
[サイラスの背中を追って、客間のひとつに行く。 入り口で立ち止まった薬売りが、 白薔薇の従者に呼びかけるのを聞いた>>100]
――…?
[部屋に入ろうとすれば、サイラスに止められる。 だが、覗いた彼の背中越し、数人の人影が見えた。
立っている女性が一人、男性が二人。 横たわっている男性が一人、それを抱いている女性が、一人。 ほとんどの相手に見覚えはあったけれども 抱かれている男性は見た事もなく。]
あの、方は……
[ふと。悲鳴の声が、男性を抱いて座っているメアリーのものであったと思い当たる。]
(177) 2010/06/21(Mon) 09時半頃
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――――…、…… …
[状況が、すとんと胸に落ちて。 膝の力が、かくりと抜けた。
"旦那様の「同族」と呼ぶべきは、「お嬢様」ただひとり。" "ここは、やはり、魔物の城ですから。"
告げられた、いくつかの言葉が蘇り。 横たえられた男性の、光のない――だが恍惚の名残を宿した瞳に 見つめられた気がして。 口元を押さえて、よろめいて。 目の前にあるサイラスの背中へと、縋るような手を掛ける]
(178) 2010/06/21(Mon) 09時半頃
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……ぁ…、―― …
[サイラスに抱き上げられれば、素直に体を預けた。>>113 控えめに。だが押さえきれない衝動に流されて その首に腕を回し、胸に顔を埋める。
白い従者の、気に掛けるような声には小さく首を横に振り>>124 すれ違った男性には、どこか見覚えがある気がして>>120 そっとその背中を見送った。
そのまま、サイラスの部屋に戻され、ベッドに横たえられて。 静かに、動かないように、という助言に頷く。>>132 再び部屋を出て行くサイラスを視線で追ったあと 目を閉じれば、意識は闇へ転がり落ちるように消えていった。]
― 回想/了 ―
(179) 2010/06/21(Mon) 09時半頃
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― サイラスの部屋 ―
[眠りに落ちてからどれほどの時が経ったのか。 目を覚まし、部屋の中を見回しても未だ部屋の主の姿はなく。 ゆっくりとベッドから足を下ろす。]
…、――!
[立ち上がった瞬間、不思議な違和感が身体を包んだ。 その正体が分からず、首を傾げながら歩き出したところで 不意に、それ、に気付く。
今まで、常に寄り添うように胸にわだかまっていた 息苦しさと圧迫感が、ずいぶんと薄らいでいたのだ。]
(188) 2010/06/21(Mon) 15時頃
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― サイラスの部屋 ―
[鏡を探し、自分の姿を写せば、 昨日までとは違う自分が、そこにいるような気がした。 首筋や、顔にうっすらと散っていたすみれの花は ほとんど目立たないまでに消えて。 青白かった頬には、ほんのりと赤みさえ差しているように思える。
唇や指先の、鮮やかなまでの薄紫色は 消えようもなかったけれども…]
――… …。
[そんな、自分の変化が信じられず 夢見心地のようなふわりとした足取りで ヴェールもつけずに部屋の外へと歩き出した。]
(193) 2010/06/21(Mon) 16時頃
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[静かにしていて、と薬売りに言われたにもかかわらず、 ふわりふわりとした足取りで、城の中を歩む。
目指すのは、パイプオルガンが聞こえてきた場所。
しばらく城の中を彷徨った末、御堂を見つけて、中へ入る。]
(269) 2010/06/21(Mon) 21時半頃
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― 御堂 ―
[長年、慣れ親しんでいた毒の苦しみが、和らいでいる。 それだけで、なにか、天に昇るような心地だった。
天井の高い御堂の中、そっと、細い声を出す。 それから、もう少し大きく。 そして、もっと大きく。
響く声は、やがて歌になる。]
(272) 2010/06/21(Mon) 21時半頃
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― 御堂 ―
Gloria in excelsis deo. Et in terra pax hominibus bonae voluntatis
[単純で、力強い旋律に載せて 神の栄光を讃える歌を、無心に歌う。
幼い頃からミサで慣れ親しんだその歌は、 自然に身体に満ち、溢れ、喜びを載せて高く響いた。]
(284) 2010/06/21(Mon) 21時半頃
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― 御堂 ―
[ひとしきり歌い終えて。 何一つかかげられていない祭壇の前に、膝をつく。]
――主よ。 わたくしを、あのお方と巡り合わせていただいて ありがとうございます。
あのお方のおかげで、 わたくしはお勤めを果たす事が出来ます。
サイラス様と、城にいる皆様と、街の人達に どうぞ、平安をお与えください。
[常にそうしていたように、祈りの言葉を捧げた。]
(297) 2010/06/21(Mon) 22時頃
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― 御堂 ―
[祈りを終えた後は、心の赴くままに 神をたたえる歌を歌い続ける。
透明な歌声は伸びやかに御堂の天井に響き 長年に降り積もった空気を震わせた。
この城で行われようとしている背徳の行為など知らぬげに 喜びに満たされた歌が、流れていく。]
(316) 2010/06/21(Mon) 22時半頃
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― 御堂 ―
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi: miserere nois. Agnus Dei, qui tollis peccata mondi: dona nobis pacem.
[主よ、憐れみたまえ。主よ、我らに平穏を与えたまえ。
最後の曲を歌い終えて、もう一度祈りを捧げ。 ふと。薬売りの言いつけを破ってしまった事に思い至る。]
――…お礼を、申し上げないと。
[そう呟いて、御堂を後にした]
(343) 2010/06/21(Mon) 23時頃
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