88 吸血鬼の城 殲滅篇
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―――…。
[目を開けるとそこには女性の顔があった。
何やら様子を窺っているようだが、よく分からない。
どこか懐かしい気がする。
女性が立ち上がるとそれに釣られるように視線を動かし、他にも人がいた事に気づいた。
――知らない人。
知らない場所。
知らない人。
それでも不安もなく、ぼんやりと辺りを見回している**]
朽ち果てる……。
[女の言葉を、声を落として呟く。
やがて崩れ落ちるであろう自らの肉体を思えば、生への執着が芽生えもするが。
持って生まれた敬虔な心との間でせめぎ合う。]
僕は…………。
[救いを求めるかのように、かつての仲間の姿を求め視線を彷徨わせる。
だが、そこにあるのは救いではなく――…。
より一層自らを苛む事になるのだった。]
[やがて、アヴァロン伯がエリアスの元に赴くのを見れば。
じっとその表情を窺う。
エリアスの選択を受け入れながらも。
自らは決断を下す事が出来ず、ぼんやりとした表情を幾分羨望の眼差しで見つめていた。**]
[――随分と時間が過ぎてから。
覆った手のひらの下で唇がくっと歪む。]
……そうですよ。
とうに分かっていたことだった。
[ふふ、と自嘲の笑いが口をついて出た。]
[幻聴かと思い始めたその時
今度は確かな呼び声が女の鼓膜を震わす。
女の名を呼ぶのは騎士の声
一つ一つの言の葉がクラリッサの心を揺さぶる]
――…同じ世界で生きて呉れる ?
本当に、…… ?
[途惑いながらも今は遠くある騎士の声に応え
込み上がる何かを堪えるように柳眉を寄せる]
[帰還を促す声が胸に響く。
騎士の流した血が城を伝い地下に眠る灰へと集まってゆく。
聖堂の棺に収まる灰が元の形を取り戻し始める]
ヒュー、私の騎士……
[秘めやかに騎士の名を呼ぶ。
彼の思い籠もる呼びかけとその血をもって
蘇るための要素は満たされる。
語りつくせぬ想いを抱いたまま女は一度目を伏せた]
[術は効力を発揮したらしい。
深紅の双眸がエリアスと交われば緩やかに笑む]
エリアス、覚えていて
これがあなたの大切な名前
これからは私があなたの親になろうと思うのだけど
――…あなたは其れを許して呉れる ?
[頼りなさを自覚していたから
控えめにエリアスの心を確かめる言葉を向けた]
人として死ぬも
魔として新たな生を歩むも――…
それは貴方がたの心次第
[ラルフとレオナルドの二人に
凛とした声を響かせ女は時が満ちるのを待つ]
この世に神などいない。
あるのは世界を動かす冷徹な機構だけだ。
また、そうでなくてはならない!
[唇から洩れ出した低い笑いは、徐々に感情の制御を失った狂的な哄笑へと変わる。]
貴方の仲間……
修道士さまに聞かせたい台詞ね
彼なら如何こたえるのかしら
[学者然とした彼の言葉に
ゆうるりと口を開く]
エリアス…私の名前。
[呟けばそれはしっくりと馴染み。]
貴女が私の親…?
[問われてアヴァロン伯をじっと見つめ。
やがて頷いた。
彼女を見ていると安心する。
彼女に委ねれば間違いなんてない、何故かそう確信して。
嬉しそうに笑みを浮かべた。]
[エリアスの笑みと返事に安堵の吐息が零れる。
ほっとしたような嬉しそうな
そんな笑みを頷くエリアスに向けた]
好かった
私の名はクラリッサというの
よろしくね、エリアス
[現世へと呼び戻そうとする騎士が紡いだ名を
守りたいと思う存在に告げて
女はこれから歩むべき未来を模索する]
[レオナルドの言葉を聞けば、切なげに目を細め、深く息を吐く。
彼がそう思うのも無理は無い。
正義の為にと果敢に戦った挙げ句がこの有様なのだ。
ともすれば、自身も折れそうになる心を懸命に支えながら。
それでも何かに縋り付きたいと、じっと時折鏡に映る未だ懸命に戦う仲間の姿を見つめていた。**]
クラリッサ様。
[確かめるように呟き。]
よろしくお願いいたします。
[深々と頭を下げた。
クラリッサは親になるという。
なら、娘の自分は何をしたらいいのだろうか。
疑問は浮かぶが、きっとこれから分かってくるのだろう**]
[これから結ぶは親子のような関係。
けれどクラリッサが望むとすれば
他愛ない日常を語らえる友のような関係。
そうなるには先ず互いを知ってゆかねばならぬだろう。
自然とそうなれるよう時間を積み重ねたいと思う]
さま、は付けなくていいのに
[垂れるエリアスの頭に手を伸ばし、そと撫で遣る]
少しだけ、此処で待っていて
すぐに、あなたを迎えにゆくから――…
更新まで後1時間です。
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(#0) 2012/05/03(Thu) 23時頃
「全知全能の創造主」などという、幼稚で愚昧な暴君が世界を支配していると考える方が愚かでしょう?
この不完全な世界を創造し支配する存在がもしあるとするなら、それは不完全な造物主に過ぎない。
[眼鏡のレンズが蝋燭の光を反射したようにギラリと光る。]
それとも、被造物に苦痛に満ちた生と残酷な死を与え、悪のはびこる世を肯定する「神」が、実在したほうが良いとでも?
そんなものが存在するとしたら、それは「邪神」と呼ぶ方が相応しい!
[いつも笑んだような穏やかな表情を浮かべていた錬金術師は、今や悪霊と呼ぶほうが相応しい邪悪な知を湛え、高らかに叫んだ。]
[くつくつと嗤い声を上げながら、ゆらりと影のように振り向き、クラリッサを見遣る。]
人間ごっこ、ですか。
あなたはまだ自分が人間だという自己欺瞞を演じ続けるつもりなのですか?
無垢で純真で、弱くて無知のまま、自分からは何ひとつ引き受けようとしない。
可哀想な存在のまま、慈悲を垂れたつもりですか?
[にたりと口の端を三日月のように吊り上げた。]
魔性に「神」を論じるのも妙ね
苦痛に満ちた生と残酷な死……
貴方はその「神」とやらに絶望したの ?
それともこの世界に絶望したの ?
[レオナルドの高らかな叫びを聞けど
向ける声は相変わらず穏やかで静かな響き]
人間だとは思っていないわ
だって、私は既に二度も死んでいるのだから
[自らの弱さも知っている。
レオナルドの言う事にはずれでありあたりである]
慈悲――…
そう、貴方にはそんな風にみえるのね
私の為す事は慈悲でなく欲
私は自らの欲の為に動いている
[嘲笑を浮かべ、クラリッサに歩み寄る。]
よくもあのヘクターが、そんなに弱い存在を傍に置いておいたものですね。
それとも、弱いからこそあなたを愛でたのですか?
[呆れたような声でクラリッサを見下ろした。]
――…如何なのかしら
彼の方に尋ねてみれば分かるのではなくて?
[緩く首を傾げながらレオナルドを見上げる]
全知全能の造物主が存在しない以上、
善悪は概念に過ぎず、絶対的な価値を持たないのだから、
「魔」など存在の有り様を示す言葉に過ぎない。
[指で眼鏡を押し上げ]
私は絶望などしていませんよ?
むしろ世界の真実を悟って、心が晴れ晴れしたくらいです。
[歪んだ笑みを唇に刻んで、愉しげに腕を広げた。]
「魔」が存在の有様を示す言葉だというのなら
「神」もまた存在の有様を示す言葉かしら
[語るレオナルドの様子を不思議そうに見詰める]
人の一生で悟れるほど
世界の真実は単純だったの ?
世界の真実を悟れたほどの貴方なら
彼の方が私を傍に置いた理由も分かるのではなくて ?
[先ほどレオナルドが口にした疑問をなぞり
ゆるやかに笑みを浮かべる]
もし尋ねることができたら訊いてみましょう?
[くつりと暗い冷笑を浮かべ、優しげな手つきでクラリッサの髪に触れようとする。]
うるわしい姫君。
あなたの美しさは、あの暴君を以ってして傾城に足るに相応しいようだ。
私の悟った世界の真実は、世界を動かすものは善も悪も無い、精緻な機構だったということですよ。
その仕組みを、原理なり法則なり一部でも解き明かすことができたなら……!
[その眸に、一瞬だけかつての誠実な学徒であったころの純粋な知の憧れが戻り輝いた]
それを知ることができたなら――!
[切ないほどの熱情を込めて囁いた。]
尋ねて答えを得たなら――…
その答えを貴方の口から聞きたいわ
[当人に其れを聞く勇気はないのか
冷笑浮かべるレオナルドにそんな事を言う。
伸ばされた手を避けることはなくはたりと瞬くのみ。
触れるは容易。
なれどそれが叶うは僅かの時間。
女の目覚めは刻一刻と近づく]
――…心にも無い事を
[賛辞にはじらうでもなく困ったような笑みを浮かべた]
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