35 WWV 感染拡大
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―ケイトの研究室前―
[ふらふらとケイトの研究室前まで来ると場の惨状に気付き]
おやおや、酷い有様じゃないか。何があったんだい?
[声を上げてヤンファに聞くが、当然答えはない]
まったく、役に立たないメインプログラムだね…ん?
[ヤンファに対して愚痴を零しつつ、ケイトの研究室の中に視線をやると、うずくまるプリシラを見つけ]
何やってるんだい、あんた。この状況はなんだね?
メインプログラムに聞いても答えやしない。
さっさと、あいつを見つけてあの子の敵をとってやらなきゃいけないってのにねぇ。
[愚痴を零しつつ、プリシラに声を掛ける]
Twinkle, twinkle, little star...
[ヨーランダの背を撫でながら、いつもの歌を口ずさみ始める。]
How I wonder what you are...
[メロディに合わせて撫でていれば、いつしか彼女の涙は止まっただろうか。
体を離し、濡れた頬へ手を伸ばした。]
落ち着いたかしら?
可愛い顔が台無しね。
[離れていく彼女を見送ると、笑みを浮かべその場から離れる。]
[次に現れるのは、荒んだ目をした12、3歳程度の少年の姿。
虚ろな瞳で少年はそれを見上げた。]
……此処に来る前は。
酒と薬だけは絶対やるもんかって思ってたな。
ははは、それがこのザマだ!
大体お前が!変な客ひっかけるから俺は今こんなとこでのたれ死ぬハメになったんだ。
大人しく何時も通りに金持ちのブタみてーなオバンだのオジン相手にしてりゃよかったのに、欲出しやがって
『勉強する金が必要だったんだモン、しゃーねェだろ。
この肥溜みてーな世界から這い出すにゃ、それしかねぇってさ。』
……。
黙れ失せろ、そんな絵空事、今更聞きたかねェんだよ!
[珍しく疲れたような投げやりな声に、少し幼い少年は酷く傷ついた顔をして霧のように掻き消えた]
[ 現状を問うシビルに、顔も上げずに蹲ったまま投げやりに答える]
さぁな、何だと思う?
敵だァ?とり殺しでもする気ィ?
無駄無駄、幽霊なんかより、生きてる人間のほうがよぉーっぽどタチわりぃんだから
[彼女が死を自覚していようがいまいが関係なかった]
とり殺す?なんだい、人を幽霊か何かみたいに…
はっ、幽霊なんてそんなもの存在するはずがない。
[現状に気付かぬまま断言する。]
仮に居たとして、居るのなら、私の傍にあの子がいないのはおかしいじゃないか。
ああ、なんであの子があんな目に…
可哀相に、痛かっただろう?苦しかっただろう?
あの子は何も悪くはないのに、あの子のためにも早くあいつを、ゾーイを探さないと……
あの子の敵をとってやるんだ。あの子を…私と可愛いあの子を殺した報いを…
[言葉の矛盾。しかし、そんな事にも気付かないままただ只管に恨み言を吐き出す]
[廊下を歩く。向かうのは、人の声が聞こえてくる方向。
先程聞こえてきた放送。
笑みを浮かべたまま、歌を口ずさむことはない。]
サイモン先生。おめでとうございます。
貴方の実験は成功ですよ。
[サイモンの遺体に告げたことと同じ言葉を呟く。]
あの二人も殺されてしまった。
《外》へ出たがっていた子たち、皆死んでしまったのね。
[残った被検体は、ここから出ようとしていなかった二人。
この研究所が、彼女たちの世界だったから。]
[ 明らかに矛盾している言動に、気だるげに顔を上げて、虚ろな瞳でシビルを見上げた]
……母親って生き物は。
どうしてこうも身勝手な奴ばっかりなんだろうなァ
何時だってテメェのことしか見てねぇ
[ふと 再び分離する感覚。
いつの間にか現れたのは、先ほどの5,6歳の少年のプリシラだった。
愛らしい笑顔の紅顔の少年はととと、とシビルの前に歩くと、両手を後ろに組んで顔を覗き込む]
『あのこって、オバさまのおへやですいそうに入っていたあのこ?
ねえ、なんですいそうなんかにいれてるの?
かわいそうだよ
あのままじゃあ、かみさまにあいにいけないよ
ひとはしんだらね、せかいのいちぶにもどって、かみさまにあいにいくんだって、しんぷさまがいっていた』
[その神父も幼いプリシラ(といっても当時の彼は名前すらつけてもらえず、人称代名詞でしか呼ばれた事がない)の客だったわけだが―――そんなことは、『幼い彼』は気付いていなかったから知らない。
ただ聴かされる神様の話しに聞き入っていた]
神様なんか、いねェんだよ
アホガキが。
[その小さな背中を淀んだ目で見つめ、呟いた]
なんだい、あんた?
[見慣れない少年に声を掛けられたことで縛られた思考が戻る]
ああ、そうだよ。ずっと前に事故で死んでしまってね。ずっとあのままさ。
なんでかって?あの子を生き返らせるためさ。決まってるだろう?
[少年の問いに当たり前のように答える。続く言葉を聞くと、顔を顰め]
はっ、何が神様だい!子供はね、親と一緒にいるのが一番いいんだよ!!
[声を荒げて言い返す]
[廊下の先。人が集まっている。
耳慣れない、声ともつかないだみ声。それが奏でるメロディが聞こえる。]
これは……讃美歌?
[両手を胸の前に宛て目を瞑る。
自然に口から漏れるのは、いつもの歌ではない。
『ゾーイ』だったものが歌う、その歌に合わせて、同じ歌を。]
[子供は親と一緒にいるのがいい、そう声を荒げるシビルを、幼児は哀しげに見上げた]
『うん、おれも、かあちゃんといっしょにいたかった。
だからどんなにやなことでもがまんしたし、かあちゃんがほめてくれるならなんでもした。
けどね
かあちゃんちっともしあわせそうじゃなかった。
オバさんも。
しあわせそうにみえないんだ。
オバさんの子は、きっとやさしいこだから
しあわせじゃなさそうなオバさんをみて、かなしんでたんじゃないかなぁ』
[幼児プリシラは小さな両手を前にもってくると、あどけない仕草で胸の前で重ねた]
[歌い終わり、目を開ける。
目の前の光景。皆が、血で赤く染まっている。]
……《適応者》ばかりね。
[小さく呟いた。]
幸せそうに見えない?その通りさ!
あの子が死んでから、幸せだったことなんてあるものかい。
ああ、確かにあの子は優しい子だよ。そうかもしれないと思うと胸が痛いよ…
[少年の言葉に傷ついたように胸を押さえる。直後、表情を一転させると、少年を睨みつけ]
だから、あの子を生き返らせるのさ。幸せを取り戻す為に。あの子と一緒に生きるためにね!
[一緒に、そういうシビルに、哀しげにうつむいて]
『あのこも、そうおもってたのかな。
でもさ
なんで
オバさんが”死んで”折角”一緒”になれるのに
あのこはオバさんのそばに、いま、いないの?』
[うつむけていた顔を上げ、無邪気に首を傾げた]
なっ…
[言葉を失う。]
お黙り!!私は、ずっと、あの子を生き返らせる為だけに研究してきたんだ!あの子を生き返らせる以外、私に幸せなんてないんだよ!
[癇癪を起こして、少年を突き飛ばそうとする。]
[突き飛ばそうと伸ばした手 突き抜けて怯えたような顔をした少年はそのまま霧散する]
テメェが幸せなら。
テメェの子供の気持ちはどうでもいいんだよなァ。
そりゃ生き返るはずもねーし、
お迎えもこねーわ
[膝を抱えたままの少年が、暗い瞳で女を見上げ、くつくつと哂った]
―廊下―
[そこは、既に狂乱の渦の只中にあった。
皆が互いに傷付けあって、誰のものとも判然としない鮮血がそこかしこに飛び散っている]
適合者のマネするのなんて、あたしだけだと思ってたのにね。
[それぞれに経緯はあるのだろうが、結果として皆が適合者のごとく、殺戮に走ったかのような有り様だ]
あれ……そういえばあたしを唆したあいつ。
どこ行ったのかしら?
[結局名前もわからなかった青年の姿は、目の前で争っている中にはないようだった]
―回想 廊下―
……うぜぇ、んだよ、その汚ぇ手を離しやがれ。
[耳元の低い声に肌が粟立つような気色悪さを覚える。
剣呑な視線で捉えた相手の顔は、歪に引きつっていた。
オカマの腹に膝を叩き付けると同時、
首筋でもう一度、ぷつりと微かな衝撃があった。
裂傷は一度目より深く、赤色が溢れる]
いっつ……
[頭がぐらつくのは多分、まだ失血の所為ではない。
押さえる腕が解かれた隙に距離を取ろうと踵を返し、
壁に手をついた所で背中に衝撃を受けた]
Twinkle...
Twinkle...
Little star...
[静かに口ずさみながら、見守るように。]
―回想 空き研究室―
[体当たりして来た男もろとも、床に転がり落ちる。
狂った平衡感覚でも立ち上がろうと宙を掻いた腕が、
どさりと床に縫い止められた]
誰、がっ
[相手の脇腹からも出血が見止められた。
それも少量ではない、じわじわと衣服に広がっている。
手負いのオカマ相手ならまだ逃げられる筈だと。
もがけば踏み付ける足に体重が掛けられ、
みしりと腕が軋んだ。
――コイツどういう腕力してやがる。
思うが早いか、刃が降って来る]
しあわせ……か。
[化物のような姿の少女の言葉に、少しだけ寂しげな顔で目を細める。
存在しないはずの心臓がずきりと痛んだ]
[ざくりと突き立つナイフはそのまま、
引き抜かれずに――ぎちりと捻られた]
が……っは、ぁ、ぐぅッ
[がくんと身体が跳ねる。歯を食い縛って、声は、耐えた。
相手の顔を睨み上げる事も止めない。
抵抗心を失わないこちらの様に嗜虐心を露わに、
次に男が取り出すのは針と呼ぶには長大なピック。
反応を愉しむように、キキ、と浅く皮膚を引っ掻いて、
それが肩の傷口を更に抉った]
ぎ、ぃッ ぁあああ!!!
[組み敷いた下で、絶叫し暴れる玩具を見下ろす眼は、
酷く陶然として。
両手の刃物と針が交互に、同時に、何度も何度も、
血肉を削り落とす]
ああああッ、クソっ、この……っの野郎、
――は、ッ!
[幾度目か。
振り上げられた切先に一瞬向けた視線は、
それはもう、本能的な恐怖だ。
目敏くその陰を見出した男の表情がぱぁっと輝いた]
……止めッぐっあッああああああ――――!!
[苦痛は終わらないような気さえした。
切り裂かれる灼熱感に寒気が取って代わり、
聞き取れる言葉も曖昧になって行った。
――ひゅぅ
ごり、と肋骨を擦るナイフに声は上がらない。
背筋はかくりと震えるような反応を残した]
――、…………
[黒の両目はもう霞んで役に立たない筈、それでも。
獰猛な獣のように、
今にも敵の喉笛を食い千切らんばかりに、
小さく光る殺意の先端を、
血に狂い切った鮮烈な笑顔を、
確かに捉えたのだ]
[ ―――― 殺してやるッ !!! ]
[ ドスン**]
―現在―
……――
[意識は永遠に闇に呑まれるかと思いきや。
笑い狂う連中を遠目に眺めている自分に気が付いた]
……何だ、こりゃあ
[くしゃりと顔を顰める。
散々自分を甚振り尽くした変態野郎が、
本人の目玉を手に高笑いを上げている。
心の底から気持ち悪い、と思った]
――っ!?
[少年は霧散し、勢いを殺しきれず、その場でたたらを踏む]
今のは…なんだったんだい…
[呆然と呟きつつも、プリシラの声が聞こえると、そちらに振り向き]
あんたに何が分かる。あの子だって一緒に居たいと思ってるに決まってるだろう。
[盲信。疑問が沸く度に押さえつけてきた言葉を呟くと、ここには用はないと。ケイトの研究室を後にした。**]
さー?
しらねェよ。
[幼少期の自分が現れるのが何故かなんて、自分でもわからないことに答えようがなかった。]
………しらねぇよ。しりたくもねェ
[何が分かる。その言葉には、ただそれだけ呟いた**]
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