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あ、…ええ、そうです、オスカーさんです。
…ほら、しっかりしなさい。
[少女の口から出た名前
合点がいったように頷いたあと、立ち上がった朝顔
着物の裾に手を伸ばして、転んだ拍子にか折れた裾を伸ばしてやった。]
ひとりで、行けますか?
今度は転んでは駄目ですよ、……って、ああ。
[少女の切り替えの早さに辟易しながら、二度目の小言が、急く彼女の耳に届いたかは理解らないけれど。
しゃがんだままの状態で駆け出す背中を見て、薄く苦笑した。]
………子供は忙しいな。
[あそこまで活発な子供に会うこともなかなかなくて、その勢いに振り回されたような心地を覚える。
奇病からの回復の早さに、僅かに勝手な不安を煽られながら。
ふと前の病院の中庭に残してきた花を思い出して、ん?と首を傾げた。
花を育てるなんてイメージと全く結びつかなかった青年と、先の少女と、それから目を出したばかりの朝顔の花が重なって。]
…子供の御守りなんて、できたんだな。
[自分の事は棚に上げた感想を落として複雑な思いになる。
少女にも居場所を告げた青年
[部屋にしてはやけに綺麗だな、とか思いながらそれは誰も使ってない病室のようで。表現がし難いけれどもクシャミの中では“誰も居なくなった病室”としか思えなかった。そこにレティーシャが居るにも関わらず]
嘘なんて…ついてないにゃー。ニハハ
[勿論嘘だった。ただ、いきなり密着してくるレティーシャと、刃物や人を傷付けるにはちょっと心許ないワインオープナーを突きつけられ、突然の事に身動きが取れなかった]
謝る事なんてないよ。それに、“まだ”引き返せるからさ
[まだ、と強調したのは今すぐそのワインオープナーをしまってベッドに座る事で何事もなかったかのように話せるんだ、という希望でもあっただろう。それに対してレティーシャがどんな返しをしたとしても、クシャミは責める事はしないし嘘をついた事は事実なので受け入れただろうが]
痛いのは勘弁してほしいかな、なんちゃって
[いつものような笑顔でニヘラと笑うと軽口を混ぜてみた。痛いのは嫌だが、毎日死に怯えてた恐怖に比べたら可愛らしいものだ、とでも言いたいように。体だけ幼い少女が持つ武器とも人を傷付けるためにあるとも言えないそれなら。恐れる事はなかった
それでもただならぬ雰囲気のレティーシャには押されていたが]
[確かめるように問われた一言
そうして程なくして発せられた、嗚咽混じりの許しを乞う声
…それで、いいんですよ。
[――嗚呼、何と。
何と惨めなのだろう。何と哀れで浅ましいのだろう。そして何と――甘く、美味なのだろう。
涙と共に情けなく、忌み嫌い憎む自分に許しを乞う、その姿は。
――微かな希望を持ち、此方に与えられた道を歩むしか無いその姿は。
撫でる手はそのままに、向けた笑みをさも愉快に強めていく。しかし続いた一言
(……は、まさか。冗談じゃないですよ)
["解放"などと。そんな馬鹿な真似、すると思っているのだろうか。
――よもや。まだ希望を捨てきれて居ないと言うのだろうか。大人しく従えば、いつかきっと。自分に解放して貰えると…そんな希望を抱いているとでも言うのだろうか]
[――愉快、愉快。
そのちっぽけな希望を、決して捨てずにいるといい。縋る度にその希望を胸に抱き、今度こそはもしかしたら、と永遠に叶わぬ希望を胸に、涙を流して生きるといい。
その愚かな希望の種は、自分がしっかりと潰えさせてあげるから]
……けどまだ、足りませんね。
[さて、さて。
赦されると思うているのかは知らないが、赦されないと分かったのなら。彼は果たしてどんな顔をするのだろう。
顔に浮かべるのは柔らかな笑みを、しかしその瞳には微かな苛立ちを滲ませながら]
…あぁ、そうだ。
君から口付けでもして貰いましょうか。
[ふ、と。先程触れた時の、彼の顔を思い出して。此方からではなく、其方から。言葉ではなく、行動で。
口だけの言葉など、いくらでも吐くことは出来ますからね、なんて。
――彼がそんなに器用な性格とも思えなかったけれど、この際それはどうでもよくて。
丁寧に、丁寧に。その心へと、折り目を付けてあげましょう。一度付いた心の折り目は、例え綺麗に伸ばしたとしても、決して消える事はないのだから]
[身体を離し、血の滲むその顎の傷に触れようと指を伸ばす。触れる事が叶ったのなら、医者は指先に微かに付着した赤い血を、軽く舐め取りはしただろうか。
そうしてベッドへと腰掛け、足を組み。相変わらずの笑みを浮かべ、軽く手招きなどしてみせて。
解放なんて、とんでもない。
君は、俺のものですよ――"永遠に"。
内に広がる仄暗いその感情に、胸を微かにざわめかせながら独りごち。口の中だけで呟かれたその言葉は、恐らく彼に届きはしなかっただろうか。
"吐いたら怒りますよ"、と冗談めかし告げた言葉が、彼にどう伝わったかは分からないけれど]
嘘、だね?
[緊張と不安から震える声を抑えるように、それでいてそれを彼に悟られないように注意しながら彼に問う。答えたくないなら答えなければいい、それなら――この螺旋の鍵で彼の心を開いてもらうだけだから。]
――何言ってるの?
もう遅いんだよ、なにもかも。
[こうして彼を傷付けようとしているのだ、今更“なかったこと”になるわけがないのに。出来れば、こんなことしたくなかったんだよ?と彼に囁いて。]
痛くなるかは……クシャちゃん次第だよ?
[にぃ、と口の端を引き上げる。それから流石に服の上からじゃ刺さりにくいだろうと考えて、針を背中から首の肌が見えるあたりへ先端を焦らすように身体から離さずに移動させる。]
どうして嘘を吐くの?
[再び同じ質問を投げ掛けると、針の先端を彼の首の付け根にコルクを抜く時よりも僅かに浅く差し込む。…これが脅しではないことを彼に伝える為に。はたして彼は痛がってくれるだろうか、そして、笑顔の仮面を外してくれるのだろうか。]
……は?
[足りないという言葉に、僅かに目を見開いて。キスをせがまれれば、ぐっと顔を顰めた。
驚愕と、絶望と。その二つに意識がいっていたディーンは、伸ばされた指を拒む事は無かったけれど。それ故に、己の血を舐め取る彼に無感情は瞳を向けただろう。
――この期に及んで、まだ。まだ、これ以上を要求するというのか。
嗚呼、結局何も変わらないんじゃあないか。どうせこの要求を満たしたところで、またそれ以上を求められるに違いない。
……でも]
[何も言わず、ふらふらとした足取りで彼に近づく。
そうして組まれた足の上に乗りあげて、ぐっと彼の胸ぐらを掴んだ。
――口だけの言葉でも、どうせそれを真実にしてしまおうとするくせに。どんなに嫌がっても、許してなどくれないくせに。
苛立ちを滲ませる瞳を静かに見下ろして、小さく眉を寄せる。
触れそうな程の距離で、けれど数瞬躊躇って。一つ深く息を吐けば、ようやく決心がついたのか、少しずつ顔を近付けた]
――ッふ、
[唇を押し付けて、ぎゅっと目を瞑る。胸ぐらを掴んでいた手をそろそろと押し上げて、彼の首辺りに添えた。長い襟足を指先で掻き分けて、まるでその首を絞めんとする様に力を入れて。
――何と色気の無いキスだろうと、軽く自嘲する。けれども今回は、それで終わらせるつもりも無かった。
首に添えた手はそのままに、親指だけ伸ばして彼の顎を下へ引く。そうして口が開いたなら、角度を変えて舌を差し入れた。
……よくもまあ、吐いたばかりの人間と口付けを交わそうと思ったものだ。口内に残った嘔吐物の残滓は、きっと彼にとっても不愉快なものに違いない。ならば、と。それを押し付ける様に、舌を伸ばす]
……、
……満足したかよ。
[ほんの少しだけ長い口付けを交わして、けほ、と。一つ咳を落とす。
口元に当てた手は、勿論唾液を拭うだけのものでは無かったけれど。体が震えても、少しでも彼に意趣返し出来たのであれば、それでいい]
[震えるその声は耳の良いクシャミにはよく理解が出来て。ただ、それがどうして震えてるかまでは理解出来なかった。笑って流せば良いのに、どうしてそこまで自分に執着出来るのか、と乾いた気持ちだけがレティーシャに向けられていた]
ニハハハ、そんな嘘だなんて酷いにゃー。何も遅い事なんかないって
[せめて自分だけでも雰囲気良くしなければ呑まれてしまう、と考えて。首元にヒヤリと突き立てられる凶器は冗談でも脅しでもなかった。多分返答一つで容赦無い事になるだろう
それでも、ここで折れたら全てが台無しになるような気がして]
僕は嘘なんて吐いてないよ
[真っ直ぐと大嘘を吐いた。これがバレてもバレなくても自分が死ぬような想像は出来ないが、彼女に殺されるならそれも良いかなと思ってしまっていた
多少伸びた寿命が縮むだけで、やっぱり奇病は治らなかったんだと。そうすれば、あのやせ細った院長に殴られる事も無いだろうと思うと少しだけざまぁみろ。とか思ったりして]
[フラフラと。覚束ない足取りで近付いてくる彼
膝に乗り上げられ、胸倉を掴まれても尚、浮かべた笑みは崩さない。数瞬躊躇う彼に向けて、煽るような眼差しを向けはしたかもしれないが。
だがそれでも、存外素直に従った彼に、少々驚きはしたけれども。
――見下ろしてくる瞳の静かさに、何故だかほんの僅かな寂しさを、覚えてしまいはしたけれども]
(……苦しいですよ)
[首にかけられた手
嗚呼、それでも。
そうして刃向かってくるのなら、少しばかりの嫌がらせくらいはしてやろうかと。そんな思いと共に伸ばしかけた舌は――終ぞ、伸ばされる事は無かった]
(………、へ、ぇ)
[顎を引かれ、続いて感じた滑りとした舌の感触に、浮かべた笑みが消えた事を自覚する。同時に感じた悔恨と、押し付けられた不愉快な苦味に、ついと眉を寄せながら]
[――そう、不愉快だ。
折り目の付いたその心を、必死に伸ばそうとする様は、確かに愉快で堪らないのに。
こうまでしたのであるのなら、例えこれ以上を求めてやったとしても、彼は従ってみせるのだろう。それ自体は、愉快で愉快で堪らないのに]
…口を濯いでくらいは欲しかったものですね。
[震えながらも口元を拭う彼には、"酷い匂いです"、とあからさまな嘲笑を。
笑みで隠す素振りすら見せず、ただその苛立ちを剥き出しにして、向ける眼差しに乗せながら嘲笑ってやれば、彼は果たしてどうしただろう]
そんなに痛いのは嫌ですか。
――不愉快ですね。
[淡々とした呟きと共に、彼の顎を覆う包帯へと手を伸ばす。抵抗するのなら、それを押さえつけてでも、無理矢理その包帯を引き剥がし、開いた傷を露わにさせようとしただろう。
嗚呼、そうだ。
いっそ彼のその手で自ら、傷を更に深く抉らせるのも悪くは無いかもしれない、なんて。
そんな事を思いながらもその顔には、常とは違い、底知れぬ悪意の滲んだ笑みを。
そう、不愉快だ。
彼ごときに虚を突かれた自分の愚かさが――何とも不愉快で堪らない]
【人】 童話作家 ネル……?ドレス? (7) 2014/07/06(Sun) 16時頃 |
【人】 童話作家 ネル (8) 2014/07/06(Sun) 16時頃 |
なんで……?どう、して……?
[どうしてここまでしているのに嘘を吐くのか、と動揺を隠しきれずに何度も何度も繰り返す。]
――怖く、ないの?
逃げてもいーんだよ?
[もちろん、簡単に逃がすつもりなんてないんだけど、と心の中で呟いた。ただ、逃げようとするなり、反撃するなりしてくれたほうが、こうして良心との狭間で迷わなくてもいいのにな、と思ったりもして。いっそ、彼に嫌な奴だと思われて嫌われたほうが楽なのだろうか。それとも、そこまで思われてもこの執着心は消えずに彼を求めるだろうか――。答えには辿り着くことはなかったけれど、そのうち自ずと分かるからいいや、と彼に刺したそれをさらに押し込んだ。螺旋が2周程彼の体内に刺さったのを確認すると、そのままくるくるとハンドルを回すのはあまり面白くないかな、と上唇をそっと舐めた。]
クシャちゃんの、嘘吐き。
[吐き捨てるように囁けばハンドルを斜めに勢い良く引っ張ると、螺旋が皮膚を引き裂いて。じわじわと溢れる赤い液体を右手の指先てすくうと湿った唇に塗り、それを綺麗に舌で拭い去ると満足気に笑みを浮かべた。]
ねぇ、嘘を吐いてないなら教えてよ。
[背後から幸せそうに笑ったまま、彼の顔を覗き込んで目にかかる前髪を撫でて。]
――わたしの髪は何色だった?
[意地悪く、彼が答えられないであろう質問を投げ掛けると螺旋の先で彼の頬を突ついいた。これでも彼が顔色を変えたり、嘘を吐くようならば、どうしようか、と考えながら彼の反応を伺って。]
……ふ。
何だ、あんたからしろって言ったんだろう。
[我儘な奴だ、と。苛立ちを見せる彼に、呆れた様に言ってやった。
向けられるのが苛立ちでも、嘲笑でも。先の白々しい笑顔よりは幾らかマシだ。ぶつけられる感情はせめて、偽物よりも本物であって欲しい。
酷く不快だろうその唇を、ゆるりと撫ぜて。これで多少は仕返し出来ただろうと、うっそりと笑う。依然体の震えは取れなくとも、小さく首など傾げてみれば、彼の苛立ちは増すのだろうか]
い゛……ッ!
――何なんだよ、あんたは!
[唐突に傷口に伸ばされた手に、咄嗟に逃れようとするけれど。彼の上であれば、そんな事が出来る筈も無く、小さく背を反らすだけになる。
伸ばした腕も無意味で、だらりと血を流す傷口が露になれば、険しく眉を寄せた。
やれと言われた事は、きちりとやった筈なのに。未だ何か不満だというのか。
何をしても許されないのであれば、もうどうでもいい。許しなど、一生乞うものか。言う通りになど、なってやるものか]
[――そんな思いがあったのと、仕返しの成功が重なって、少し気が大きくなっていたからだろうか。悪意ある笑みに萎縮する事は無く、ただそれを睨みつける。
晒された傷口は酷く痛むけれど、今はそんな事どうでもいい]
こ、の……!
[一度やり返してしまえば、何だかもう、ただ怯えるのは馬鹿らしくなってしまった。
此方からも手を伸ばして、頬にひたりと手を当てる。そこからついと指を滑らせて――彼がいつもつけているピアスに触れた。
ほんの少し、躊躇う様にそこに留まって。けれど此処まできたら引く事なんて出来ないと唇を噛む。
……後の事なんて知ったことか。そうして後悔した事は数ある筈なのに、またそんな事を考える。今回もどうせそうなると、分かってはいるのだけれど。
赤いピアスにぐ、と。指を引っ掛ける。抵抗が無い様なら、そのまま引きちぎろうと力をかけた。
もしそのピアスを引きちぎる事が出来たなら、してやったとばかりに嘲笑をその唇に乗せただろう]
【人】 研修生 キリシマ[誰も居なくなった院内を一回りして。 (9) 2014/07/06(Sun) 19時頃 |
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