168 LOVEorDEATH2〜死者は愛を知りたいようです
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うぶっ……!
[ゆっくりと抱きしめられたにもかかわらず、驚いた口が奇妙な音を出す。 続く須藤の言葉に(>>24)、氷が春の日差しで溶けるような、ゆったりとした安心感を感じた。]
(……ボクと、同じだ…)
[自分の感覚を理解されず、他人から勝手な偶像を押しつけられて。 乖離した実情と求められる虚像が、真墨の場合は自分の価値観を殺し。 須藤の場合は―――他人への信用を殺したのかもしれない。]
…ボクの、…ことを…もっと知ってください。 ボクも、須藤さんのこと……いっぱい知りたい。
[飾りっ気の欠片も無い言葉で、抱きしめられた腕に応える。 触れれば壊れそうな身体を、傷つけないよう、離れないように抱きしめる。]
(35) 2014/03/28(Fri) 20時半頃
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>>25
こちらこそ、ありが…とう…!
[目の前の女性に感謝して。 理解してくれたことに感謝して。 真墨の言葉が途切れ途切れになるのは、嗚咽を必死に隠そうとしてたからかもしれない。**]
(36) 2014/03/28(Fri) 20時半頃
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[最初に感じたのは、衝撃と音だった。
ドサッ、とかいう鈍い音が続けてふたつ、直ぐに続けて背中に痛みが走る。じゃりじゃり、と、アスファルトを擦る感触。最後にガツッ、と強かに頭を打った。多分歩道の段差に。痛い。白い光がスパークして、目が眩む。
仰向けに転がった視界には春らしい薄い色の空が映り込んでいた。]
(────良い天気、)
[ちらりと場違いな感想が沸く。身体中がぎしぎしと軋んで、少し動かすと背中に痛みが走った。
けどそんなの大した事じゃない。腹の上に乗った重みが、身じろぎする。しっかり抱きとめた子供には、怪我なんて無いはずだ。
アスファルトに転がったままぜいぜいと肩で息をする。
視界を塗り潰す蒼穹に、ほんの一瞬、紅が挿した気がして。
ゆるりと右手を上げて、銃の形に。片目で狙いを定めるのは、虚空に消えた原色のなにか。]
────ざまあみろよ。…なんて。
[見てた?
声に出さず笑って、引き金を引いた。]*
[いつしか眠りに落ちたあたし。
頬をくすぐる陽光に、目を覚ます。
あたしはひとつ、欠伸をしてから伸びをする。
あぁ、生きてるって、気持ちいい。]
…ニュース。
[呟いて、テレビをつける。
当たり前だけど、あの時世間を騒がせたはずの、通り魔事件のニュースは流れない。
そのことが、あたしの無事を、あの人に伝えてくれればいいんだけど。
部屋を出て、一階に下りると、リビングのテーブルにメモが置いてあった。]
『少し早いけど、今日はもう出かけるよ。
帰りは遅くなるようなら、また電話しなさい。』
[メモを読むと、あたしはそれをたたんでポケットにしまう。
今日は、学校は休みだ。だから。]
─3月某日夕刻・病室─
『ほんっとお前は…、無理すんなって言ったそばから馬鹿なの?死ぬの?』
[兄にべちんと額を叩かれいでっ、と声を上げる。流石に慣れた兄弟相手で、この位の接触はなんて事無い。ちょっと、縫ってんだから頭揺らさないでよ。不満気に言えばもう一発お見舞いしてやろうか、と睨まれた。
昼間、トラックを避けようとして歩道の段差に打ちつけた際、後頭部が切れたらしく。
傷は大した事は無いが、頭からの出血は派手で、園児は卒倒しそうな顔でびゃあびゃあ泣くわ運転手は人殺した後みたいな顔で駆け寄ってくるわで、散々だった。]
『もう道路に飛び出しちゃ駄目だぞー、男なんだからお母さん泣かすなよ。』
[わしわしとアタマを撫でてやって。泣いた後の顔でこっくり頷いた園児と、ものすごく恐縮した「カズくん」の母親は、ついさっき連れ立って帰って行った。
バイト先のほうには事故ったので暫く休む旨だけを伝えて、あとの諸々は兄に任せてある。
縫った傷自体は問題無いが、頭を打っているので念の為、検査入院になるらしい。]
…うん、出かけよう。
[あたしはリビングを出ると、シャワーを浴びに行く。
身支度を済ませてから、パンを一枚、カフェオレで流し込み。
洗面所で髪をとかしてから、軽く化粧も済ませる。
部屋へ戻ると鞄を手にして。]
…そうだ。
[あたしは、もうそろそろしまおうと思っていた手袋とマフラーを鞄に詰め込む。
今日は、学校は、休みだ。
けれど、学校の方へ行こう。
あの人は、学校のあたりにいるって言っていたのだから]
…そうだ。風見鶏。
[先に扉をくぐって行った人のことを思い出すと、あたしの行き先は自然と決まった。]
[園児の頭を撫でたあと、兄は随分と驚いた様子だった。
触って平気なのか?と聞かれて、そういえば、と思い出す。]
そんな嫌じゃなかった。…てゆか、髪だからじゃない。
[そうかそうか、と、どことなく嬉しそうな兄を尻目に、手元のタブレット端末を操作する。
兄の気持ちは有難いのだが、今はそれどころじゃないのだ。]
(……本田さん。)
[風見鶏は今日もきちんと営業している。さっき電話口で影木は普通に出勤退勤したらしい事も分かった。遊園地で事故も起こっていないし、駅で人がキチガイに刺されたなんてニュースも見当たらない。
見つけられない人もいたけれど、覚えている限りでは「ちゃんと戻っている」…と思う。あとは。]
(夢じゃない)
(本田さん、本田さん)
[彼女の、巻き込まれた事件が起こるのは──今夜。]
お兄ちゃん。お願いがあります。
[病院のベッドの上に正座して、じっと兄を見る。
なんだよ、お兄ちゃんとか気持ち悪いな。言いながらちょっと嬉しそうな兄に(ブラコン面倒臭い)、タブレット端末の画面を示す。]
今すぐここに行きたいんです。10時前に。ていうか、行かなきゃならんのです。
[いつになく真剣に言えば、ちょっとだけ気圧された様子で。だって、お前、入院…とかなんとか言ってくるのを遮る。]
だから頼んでるんじゃん、今日じゃなきゃ駄目なんだ。
[切羽詰まって言うものの、理由を求められても説明に困る。今夜そこで好きな子が刺されるなんて、まさか言える訳もない。頭打っておかしくなったと思われたんでは元も子もない。が、しかし。]
[悩んでいると、そこに何があるんだ、と、思いのほか真剣な声が帰ってきて。ぐ、と言葉に詰まるが、覚悟を決めて、言った。]
…猫を、殺してるやつが、今度はほんださ…人も襲うから、って──とうさんが。
[父の事を出すのに(しかも嘘だ)罪悪感はあるが。
彼女が刺されるのは勿論──誰かが代わりになったんでは、駄目なのだ。]
(俺は、俺に出来るやり方で。)
[守らなきゃいけないのは、彼女の心の方だ。
自分の代わりに誰かが死んだなんて、そんな事を一ミリだって思わせちゃいけない。それに万が一、白い部屋での記憶が全く無かったら。考えただけで手が震える。]
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[肩を叩かれて、ゆっくりと身体を離す。>>37 離れてゆく体温に一抹の寂しさを覚え、すり抜ける体をなんとか辿って手を握ろうとした。 柔らかい手を、温かいそれを、もう少しだけ肌で味わっていたくて。]
そう、ですね…
[固く閉ざされていたハズの扉は、何の仕掛けも無いただの扉のように音もなく開いていく。 その向こうには、眩しいばかりの白、白、白が広がっていて。]
本当は、怖いですよ。もしここでの記憶を忘れたら、 ボクはここへ来たばかりの時のような…感情が死んだ生活を送ることになる。
[死者は愛を知りました。 それゆえに、待っていたのは―――死か、愛か。]
でも……戦いますよ。 ボクらはみんな、生きている……んだから。
[迷いの答えは、確かに隣にいると感じるこの体温だけが知っている。 気付けば、青い鳥は…すぐ傍にいるのだから。]
(38) 2014/03/29(Sat) 00時半頃
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『…わかったよ。どのみち今から一度署にもどんなきゃいけないから、ついでにしっかり見回りしてきてやる。』
[ただし!お前はちゃんとここで安静にしてる事!
び、と指を突き付けられる。不満気にでも、と言えば、本当に凶器持ってる奴が居るなら、お前なんか邪魔だよ馬鹿、と窘められる。
ごもっとも過ぎてぐうの音も出ない。]
…なんで引き受けてくれんの。馬鹿げてるだろ、こんな頼み。
[いやにすんなり納得した兄の様子が不思議で、怪訝な目を向けると。
その人は、昔の父によく似た感じにちょっと笑って、言ったのだった。]*
『俺も、親父の夢、見たんだよ。』
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―――カミサマ、さよなら。
…行こう。
[ギュッと手を握り返し、扉の向こうへと歩き出す。]
すど…愛莉、さん。 また会えるって…信じてますから。
[白く視界が染まっていく中で、確かめた手の感覚ごしに声をかける。 届いただろうか。 きっと届くと信じてる。 進村 真墨は、心だけ先にあの空間で生き返ったのだから。 これからは、ずっと―――**]
(40) 2014/03/29(Sat) 01時頃
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