194 花籠遊里
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─何処かの町にて─
[綴るは下ろしたての新しい紙面。 夕焼けの空が凪いだ海に浮かんでは赤く赤く染めていく。
それはいつか鉢の中に泳ぐ水魚を染めた斜陽と同じ色合い。 異なるのは水面下に根を下ろした花は、何処かに留まることなく、ゆぅらゆぅら揺れては浮かぶ。
その身に触れるのは水草ではなく─…]
──…どうかしましたか、 …トレイル。
[翅を捥がれて落ちた人の名を、ぎこちない響きで紡いでいく。]
(19) minamiki 2014/09/24(Wed) 01時頃
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[口元に描くは弧。月だと喩えられていたものより幾分か緩み切ったものは緊張感の欠片で唯々好い人の髪を梳こうと指先を伸ばし─蟋蟀の鳴き声が止む]
しろ、…ですか?
[唐突に告げられた言葉に男は首を傾げてみせただろう。 言い淀む理由も分からず男はただ彼の挙動を見守り、やがて小さな吐息の後笑みを浮かべる]
……しあわせのかたち、ですか。
[何やら慌てた様子の彼とは裏腹に男は、目蓋を軽く閉じ──]
………今度、見に行きましょうか。
[“連れて行ってくれるでしょう?”もう幾度目かのお強請りを口する。
そして男は重なる手のひらから指を覗かせ相手の指へと、一本、二本と絡めていっただろう。]
(20) minamiki 2014/09/24(Wed) 01時頃
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…今宵も月は昇るのでしょうか。
[地平線に沈み行く夕陽を見ながら男は紡ぐ。 そして、やがては花籠に溢れていた花の貌を思い出しては]
……、
[“貴方は今幸せですか?” 聲にならない言葉を梔子に乗せて青年は堕ちる斜陽を眺めていた]
(21) minamiki 2014/09/24(Wed) 01時頃
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──【『しあわせ』への一頁】──
[優しい朧月との別れ>>16 確かな泡沫の泡をひとつ浮かべ>>*7 美しい所作にて送られる言の葉に、僕が心からの笑みでお返しして。
あれからどのくらいの月日がたったことでしょう。
『外』を知らぬ花は、残されたたった一つの手がかりが 海を越えた場所なのだと謂うことを知りました。 本当にとてもとても、遠く。 その遠い海を越えるのに、幾らかの時を要してしまったのでございます。]
(22) anbito 2014/09/24(Wed) 02時頃
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[餞別代りにと残されたお金は、 あの御方の残したものだと思うと、使うことが出来ませんでした。 時が来るまで手をつけず保管しておりました。 そのお金は今、封筒に入れて懐の内へとしまってあります。
───大切な、徽章(やくそく)と共に。
海と空を織り交ぜたような着物に身を包み 束ねぬ射干玉の髪をそよがせて
僕は今、『約束の地』に辿り着いたのでありました。]
(23) anbito 2014/09/24(Wed) 02時頃
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え、っと… あ、あの……
[やってきた場所は、それこそ世界さえ変わったかのようでありました。 僕一人だけが物語から抜け出してきたような。 或いは、僕一人だけが物語の中へと迷い込んだような。 言葉もまるで違い、意思の疎通だって難しい。 そんな場所で、それでも僕はあの御方だけを ひたすらに探しておりました。]
この、この御方をどなたか知りませんか?
[徽章を見せては裏返し、徽章を見せては裏返し。 読めぬそれがきっとあの方の名前なのだろうと信じては ただただ、歩き回っておりました。
ふと、怖い顔をなさった方が僕の腕を掴みます。 僕の痩躯で逃げ出すことなど出来もしません。 ただなすがままに、僕は連れ去られてしまいました。]
(24) anbito 2014/09/24(Wed) 02時頃
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── 隣国、留置所 ──
………───。
[木格子の折を抜けたはずであると謂うのに 僕が連れてこられた場所は、鉄で出来た格子の中でありました。 なにがどうなっているのかは判りません。 ですから僕は、ただ檻の中で大人しく座っておりました。
あの約束もまた、泡沫の『夢物語』だったのでしょうか。 『花』でない僕には、逢うことさえ赦されないのでしょうか。
───たいせつな徽章(やくそく)も奪われてしまいました。
返してくださいと、何度も縋りつきましたが 聞き入れてなどくれませんでした。]
(25) anbito 2014/09/24(Wed) 02時頃
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───お逢い…、…したい…です。
[やがて大使館には警察からの連絡が入ることでしょう。
「エクトゥール・エトワル・ダルジャン参事官の徽章が見つかった。 どうやら異国の者に盗まれていたらしい。 罪人を捕まえて留置所に拘束している。」
…───と*]
(26) anbito 2014/09/24(Wed) 02時頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
anbito 2014/09/24(Wed) 02時半頃
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ーそしてとある満月の夜ー
[今日は満月、花見習いの禿が紫と自分を呼ぶ声がするも、自分が誰かと月を見るのを避けるのを知っている先輩娼はそれを制する しかし今日は、いつもより少しだけ体調が良くて 空に掛かる月が泣きたくなる位に綺麗で その月があの日、『藤』であった頃見たものによく似ていたから]
今日は私も、月を見ながら涼みましょうかね。
[そう、気紛れを起こしたのだ すっかりあの頃に比べればみすぼらしくなった姿、立ち上がれば少しふら付きそうになるも、手摺りに手を置き一歩一歩と足を進め 街灯明かりが宵闇照らし、少しだけ月を見えづらくした縁側へと
そこに座れば先輩娼は珍しいと笑み零しながら隣へと誘う 座ればそうそう、と世間話を始めるのに相槌をうっていれば――]
(27) sinonome 2014/09/24(Wed) 02時半頃
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["知っている?花籠の主の手足となった元花の話を"と かつての鳥籠の名を聞けば少しだけ身体が揺れるも平生装い続きを促す 話を聞いていくうちに、元々病的に白くなっていた顔は蒼白になったろうか]
朧、どうして。
[呟く声は小さく。何故年季の明けたであろう彼が、この下町を彷徨い歩くのだろうと 揺れる瞳は動揺を隠しきれず、ふらふら幽鬼の様に表通りへと無意識に足は向く そして丁度、娼館の出口へと。敷居を跨げば視界に翻るは紺色の羽織。煌びやかで派手な山吹色のものではない、鳶色の着物をまとった美しい月を見て
息を、飲んだ]
(28) sinonome 2014/09/24(Wed) 02時半頃
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看板娘 櫻子は、メモを貼った。
anbito 2014/09/24(Wed) 02時半頃
丁助は、櫻子に、ちょこれーとこすもすってたべられる?(よだれじゅる
lalan 2014/09/24(Wed) 16時頃
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[彼の手を取り、攫って仕舞った方が良かったのかもしれない。
案外、堪え性のない男がそんな風に考えたのは、 一度や二度では足りず、異国の秋はすっかりと深まっていた。 風は鼻頭を掠めて冷たく抜けて、季節は冬が間近まで迫る。
それでも、決して一時の気の迷いでなく、 あの臆病な彼に踏み出す一歩を強いたのは、 梢に留まった数多の蝶と別のものになる為だ。
彼に己の死体は埋めさせない。 残したたった一つの約束は遺品などではなかった。]
(29) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[花の都と名高い異国の街は霧の街と違う華やかさがあった。 気候が違うのか建築様式も何処か異なり、 大通りには賑やかな店が軒を連ねている。
鮮やかな彩の花がバケツ一杯に活けられて。 ショーウィンドウに宝石のようなチョコレートが飾られ。 二階建ての真っ赤なバスが行きかう籠の外の世界。
見るものすべてが彼を出迎えるのに、 海の向こうまで呼んだ張本人は、見当たらない。 逢いたくないと思う時は、顔を見せるのに、 彼が探し出すと見つからぬ不条理。]
(30) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[例え、国内と言えど、外交庁幹部の名前など早々知れ渡っているものではない。ただ、彼が行き交う人々に見せる徽章は誉れと和平の象徴。 金に輝く徽章を見せびらかして歩く彼が不審視されるまで、時はそう掛からなかった。
『これを何処で手に入れた』『異邦人か、何処からきた』 『何故、お前がこのような物を持っている』
警察が彼に浴びせる早口など、到底聞き分けられないものだ。 異邦人から徽章を毟り取り、出所怪しい身分証をジロジロと不躾に眺めた挙句、折角海まで渡ってきた彼の苦労を鑑みず、怒号と共に牢へと放り込んだ。
冷たい鉄製の檻の中、彼はまた幽閉の身の上に。 その上、此度は大層待遇が悪く、留置所の空気は淀んでいた。
彼の身分を改めた訳では無いが、花の都の警察は、九割九部九厘、彼を罪人であると見做したらしい。
花主が揃えたのだろう旅券は公的な検問を抜ける細工が仕掛けられていた。言葉も地理も、何もかも分からぬ彼が一人で異国の地を踏めるまでは采配してくれたようだ。
―――だが、その旅券が致命的なものとなった。]
(31) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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― 留置所 ―
[不法入国すれすれの渡海に、盗品の所持。 挙句、彼には盗品を使った強請りの疑惑までかけられている。
金目当てに高官に近づく輩など掃いて捨てるほどいるのだ。]
『しかし、こんな美人が詐欺なんて世も末ですねぇ』 『外見に騙されたんだろうナァ、牢を覗いたか?華のかんばせとはああいうことだぜ。』 『刑務所に送られたら、さぞかし苦労するんでしょうなぁ』
[彼の牢を見張る凡夫達は、珍しい虜囚に興味津々で、 何処か下卑た色の滲む雑談を交わしている。 美しいものには目がないと謳われる国民性か、 華として人を惹き続ける生き方をしてきた彼に興味を持たぬはずがなかった。]
『あれだけの上玉、掃き溜めに鶴だろうナァ』 『……そうですよね、でも。どうせ、刑務所に行くのなら…』 『………、』
(32) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[彼が憂いている傍で、ほんの少し空気が変わった。
じめじめとした牢獄が、不意に木格子の地下牢と重なる。 彼がそれを察するよりも早く、カシャン、と鍵が上がった。
彼に希望を与える微かな音。 直後、絶望を与える確かな光景。
警官服に身を包んだ男が二人、 好奇と僅かな欲に浮いた眼を持つ男が二人。]
(33) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[彼に危機感を与えるには十分な状況。 花として買われるのではなく、花として散らされようとする。
彼は生まれながらの花。
入り口を塞がれ、男達の腕が彼に伸びる。 彼に慰めを求めてきた腕では無い。 罪人を罰すると云う名目で、向かう折檻。
彼は苦難に咲く可憐な花。
抵抗など、屈強な男達二人に抑え込まれ、 手錠が細い手首を背中で戒めた。 粗末なベッドに投げ出された痩躯を押さえつける腕が重い。
金子の為でも、慰めの為でもなく、 ただ、欲のために。彼は穢されようとしていた。]
(34) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[その事実が彼にどれ程の絶望を与えただろうか。 黴臭い枕に顔を押し付けられ、襟ぐりを引かれて背中が剥き出しになる。
荒い息遣いと、遠すぎる蝶の影。 海を越えて、蝶を追いかけ、しあわせを夢見て。
それなのに、待ち受けていたのがこんな結末だと、 三文小説すらも描かないような幕切れ。]
(35) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[ 花は所詮、花にしかなれぬのか。
枕に閉ざされた視界と、這い寄る体温。
諦めて仕舞え、諦めて仕舞え。 所詮花は摘まれるもの。と、彼の幸せを拒む。]
(36) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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[――――しかし、伸びてきた腕は何時まで経っても、 彼の白皙に触れることはなかった。
代わりにバタバタと騒々しい音が立ち回り、刹那落ちる沈黙。 次に彼に触れた指は仄かに温かい武骨な指だった。
彼にしてみれば、とうとう年貢の納め時かもしれない。 頬に触れた指先は、そのまま慰めるように緩く撫ぜ。
浅く、されど、確かに、安堵の呼気を吐き出した。*]
(37) momoten 2014/09/24(Wed) 21時半頃
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― 宵闇の誘い ―
[櫻の枝が折れ。 まだ朧月は雲隠れ。 藤は風にしな垂れて。 魚は空へ泳ぐ頃。
――男は宵闇揺らし、一冊の本を捲る>>7]
下らない御伽噺だねえ。 こんな幸せ、あるとでも思うかい?
[慈悲もなく投げてよこす。 硬い表紙は地に伏せる。 焔燻る、花の足元へ。]
(38) あんび 2014/09/24(Wed) 22時頃
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丁。 私のことが怖いかい?
“丁” 早く此処から抜け出したいかい?
“ちょう” 私を置いて、飛んでなどいかないでおくれ。
(39) あんび 2014/09/24(Wed) 22時頃
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[男の唇は歪な弧。 三日月の如く美しくもなく、 さりとて醜いと詰る事も出来ぬ、 朝でも昼でも夜でもない、宵闇。]
お前に善い話をしてやろう。
稼ぎが欲しいのなら、私が買い付けてやる。 誰よりも高く、誰よりも高くね。
その代わり、私を満足させてごらん?
(40) あんび 2014/09/24(Wed) 22時頃
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…―――その身を繋ぐ鎖を 私が買ってやろうと言っているんだ。
さあお選び。
その本のような御伽噺を夢見て、蝶に抱かれ続けるか? 数度の地獄で、鎖を断ち切るか?
決めるのはお前だよ。
[男は揺り籠に揺れながら、嗤う*]
(41) あんび 2014/09/24(Wed) 22時頃
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[冷たい冷たい、牢の中でありました。 それは秋風が冬を呼んできていたからでしょうか>>29 それとも、わからぬ言葉の所為でしょうか>>31 徽章は毟り取られ、何とか用意した旅券を何度も見られては 苗字も何もない僕をあやふやにしか証明できない身分証を睨み 加減もない乱暴なまま、放り込まれた所為でしょうか。
外は、あんなにも華やかだったのです>>30 鮮やかな色彩は、霧の街にはない色で 僕が世話した中庭よりもずっと、ずっと輝いて見えました。 硝子の向こうに、ちょこれーとだってあったのです。
なのに、今はまた牢の中。 花籠よりも淀み、寒い、鉄の格子の中で 僕は小さくなっておりました。]
(42) anbito 2014/09/24(Wed) 23時頃
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[逢いたくて、逢えなくて。 逢えなくて、逢いたくて。
薄櫻色の唇は言の葉を紡ごうとして───…
カシャンと鳴る音は>>33 『しあわせ』な幻想を見せるのです。]
(43) anbito 2014/09/24(Wed) 23時頃
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───やっ、やだぁ!! 厭だっ!!!!!
[『今までしてきたこと』と何が違うのでしょう? 僕が『花』であることと何が違うのでしょう?
それは夢ではありません>>34
ただ組み敷かれ、ただ腕に枷を嵌められ か細い叫び声は黴の臭いに殺され 重い指先は容易に皮膚に圧迫の花弁を残しました。
着物が引き剥がされて露になるのは、滑らかな白でしょう。 その首筋から香るのは、淫靡な櫻の馨でしょう。 はらりと伸びる射干玉の枝葉は、艶やかな絹糸なのでしょう。
そうして、殿方を誘うためだけに作られた『造形(はな)』なのです。
所詮僕は、散らされ行く『花』でしか───…]
(44) anbito 2014/09/24(Wed) 23時頃
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[ぎゅうと目を瞑っておりました。 唇を硬く閉ざしておりました。 何をされても、声ひとつ上げまいと。
けれど、次の瞬間触れた指は───…
ゆるやかに撫でられる頬と、浅い呼気。 僕の身体は震えていました。 怖くて怖くて、仕方がなかったなんて 数多く櫻の春を売ってきた僕に、謂える権利なんてありません。 だから僕は、後ろを振り返ってこう謂うのです。]
(45) anbito 2014/09/24(Wed) 23時頃
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ば、…か。 …お名前を、教えてくれないままだったから 叫ぶことも… 出来なかったじゃ、ないですか…っ。
海を渡って、来たのです。 あなたさまに逢うために、来たのです。
あなたさまの、こと
───なんと、お呼びすれば いいのですか?
[精一杯、強がって*]
(46) anbito 2014/09/24(Wed) 23時頃
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― 少し前 ―
[今日も彼は来なかった。
秋風はそろそろ冷たく、落ち葉を回す。
さて、次の出向までは洋々過ごせる身の上が、 毎日大使館に出向いてデスクワークに向かうのは、 出世を求める訳でも、勤勉な性根であるからでもなかった。
――――単に待ち人がいたのだ。]
(47) momoten 2014/09/25(Thu) 00時半頃
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[出国の段にて多少の不安要素はあったが、 案外、恩の押し売りと、花への寵愛だけは欠かさぬ花主のこと。 確固とした杞憂を抱くほど、彼の手腕を侮っていなかった。
―――が、やはり、待たせる者と待つ者では時の流れが違う。 普段の彼は待つ者で、己は待たせる者だった。 逆しまの状況は、もしや初めてのことかもしれない。]
―――…港ねぇ、
[船を見ようと来ぬものは来ぬ。 そんな事は分かりきっていたが、待つのは如何にも不得意だ。 三十余年生きた男は今更己の悪癖を自覚し、息を漏らした。]
(48) momoten 2014/09/25(Thu) 00時半頃
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