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[また、彼に食べられたい。
鋭い歯で肉を破かれて、血まみれの手で腹の中を弄られたい。
唇を、血が出るほど噛まれたい。
眼球の奥、誰も触れたことのない場所まで指先で抉られたい。
中身を全部曝け出して、彼に見て欲しい。
彼だけに、見て欲しい。]
…………。
[しかし、彼に、今の姿は見えない。
見えたところで、食われる為の身体が無い。
ニコラがトレイルの手を引いて去っていく。
ラルフの遺体を複数の人間が見て、一様に悲しげな顔をする。
その光景を見ながらディーンは、ラルフが死に至る理由を悟る。
――彼は、多くの人に愛されていたのだ。]
[物語は起こり、展開していく。
展開していくにあたって特に重要なのは事件だ。
たとえば、その時点では倒しようのない敵が現れる。その敵を倒す為に、登場人物たちはアクションを起こす。
或いは皆から愛される誰かが死ぬ。それによって、彼に向けられていた感情が登場人物の思い思いの方向へ分散していく。
ラルフの死は、物語が展開する為の、重大な事件だ。
展開は変化を呼ぶ。
変化しない登場人物は――いない。]
[フランシスとドナルドが、フィリップを慰めるのを見る。
彼らなら、と思ったとおりの行動に、
そのままフィリップの悲しみが少しでも薄れればいいと思う]
……忘れて欲しいわけじゃないけど。
哀しいままでいて欲しくないな……
[わがままな感情をぽつりとこぼし。
オルゴールの話に、三階の荷物の中にある宝物を思い出す。
そういえば、最期のとき、オルゴールの音色が聞こえた気が、した]
[――彼も、変化を免れないのではないか?
浮かんだ疑問符を打ち消す手段は、今のディーンにはない。
もし、眼球が腐るより早く、彼が忘れてしまったら?
もっと他に大切なものを見つけてしまったら?
ラルフがその場にいることにも注意を払わず、ディーンは静かに立ち尽くしていた。
彼は、トレイルの手を引いていった。
トレイルが彼の唯一になるかも知れない可能性など、考えるまでも無い。
トレイルは、彼の側で、まだ生きているのだ。
もう触れられない自分とは、わけが違う。
彼と一つになってしまえば、もう苦しむことはないと信じていた。
同じものになってしまえば何も怖がる必要はないと思っていた。
そんなディーンの幻想を
――……違う。
錯覚なんかじゃない。
僕は、確かに永遠に一緒なんだ。
僕の肉は、ニコラの身体を作る。
だから僕は、ニコラとずっと……ずっと、一緒にいられる。
[生者には聞こえない声で、ディーンは呟く。
バーナバスの言葉を肯定することは出来なかった。
まるで、喰われてしまえばそれで終わりだとでもいうような。
自分の抱く欲望そのものが、罪悪であるかのような。
ディーンは、顔を伏せる。溢れ出そうなものを唇を噛んで堪える。
その代わりに胸に刺さる棘の痛みが増した――ような、気がした。*]
メモを貼った。
[ドナルドの腕の中、
涙をこぼすフィリップの悲しみが、少しでも癒えればいいと思う。
ドナルドが、考えている復讐には瞳を翳らせ。
聞こえてくる慟哭を、受け止めている]
――?
[ふと、聞こえた声
今まで、フランシスやドナルド、フィリップたちしか視界に入っていなかったけれど。
もう一人、ディーンの姿が見えて]
ディーンさん……?
[ニコラと消えた後から、姿を見なかった人がいることに、ゆるりと首をかしげた]
[
ディーンは数度瞬いて、視線をゆっくりと声の方向へと向けた。
血が滲む程噛み締めた唇は、しかし傷ついた様子すらない。]
――…………君は、良いな。
愛されている。
君は、まとも だから。
[声は淡々と、平坦に響く。
ディーンの口角はほんの僅かに持ち上がった。
自嘲だ。彼を羨ましいと思う自分に対する。]
[声が届く様子に、彼は食べられてしまっているのだと思った。
ディーン
羨ましがられている理由に軽く瞬いた]
……ディーンさんだって、
フランシスと仲良さそうだったし、シメオンとも……
[愛されていることは否定しない。
みんなの愛を、実感したばかりだから。
今も、嘆いているフィリップが見えるのだから]
まともだとか、そういうのは愛される理由になるのかな……
メモを貼った。
うん……そうだね。
[ここにいるけれど、フィリップには見えない。
そのことが哀しい。
フィリップの涙が止まるように願いながら、ドナルドが慰めてくれていることにほっとしている]
メモを貼った。
メモを貼った。
メモを貼った。
ベネットには、君たちがいる。
シメオンのことは、傷つけてばかりいた。
[
今も傷つけている。きっと。
ラルフの問い掛けに、ディーンは一度自らの掌を見下ろす。
皮膚に染みついて取れずにいたインクの汚れは、消えていた。]
君は……君たちは、誰かに触れたり、話したりして、
色んな感情を確かめる。
……僕にはそれが、難しかった。
君たちは、別のことで、欲を誤魔化せる。
でも、僕には、それが出来なかった。
もう少し、まともに 生きられたら
[ディーンの声は、そこで途切れる。
仮定の話をすることは、今を否定することに繋がりかねない。
今に後悔があるわけではない。
全てを彼に差し出したことには、後悔は微塵もないのだ。]
――……会いたい。
[言いたいことを見失い、ディーンは静かに
そもそも、言いたいことなど存在していたのだろうか。
疑問符はディーンの腹の内に静かに落ちる。]
[かわいそうだと囁かれて、慰められたい。
憐れみの視線で射抜かれたい。
その為にはまず、彼に気付かれる必要がある。
ディーンは、失念していた。
物語の登場人物は何も、壇上にあるものだけではない。舞台の上と客席があって初めて舞台は成立する。そこにいる者全てが登場人物なのだ。
――そして、展開に合わせて登場人物は変化していく。]
――……。
[彼が、こちらに来ればいい。
頭の中に兆した考えに、ディーンは重い息を吐いた。**]
メモを貼った。
それは、そうだけど……
でも、俺たちと、友人は、別じゃないかな……
[シメオンを傷つけてばかりだというディーン
彼らのことは、居間で少し見ただけだから、何も言えずに]
ディーンさんは、生きているのが、辛かったの?
[首をかしげる。
普通のことをしていたのに、うらやましがられて。
仮定の話がまともであるのなら、今まではどれほど生き辛かったのだろうか。
会いたい、と囁く声
死んでしまったら、会えない。
俺を見ることを、彼らはできないから。
ディーンさんは、ニコラに、あいたい?
[トレイルの手を引くニコラの姿を見て。
ゆるりと首を傾げて問うた]
[居間からフィリップ
追いかけるかどうか、迷っている間にノックス
……
[まっすぐに、トレイルとニコラへと向かう姿。
そうだよな、と思う心と、少し、痛む思いがある。
ノックスから視線をそらして、ドナルドへと心配そうな視線を向けた**]
メモを貼った。
[
しかしディーンは否定も肯定もせずに、ただ瞬きをする。]
……僕は、死ぬつもりで、山に来た。
ここなら、僕たちの一族がいずれ、通る。
シメオンは賢くて良い子だ。
だから、きっと、大丈夫だと思った。
――僕のそばにいるよりは、その方が良い、と思った。
[
ひとつひとつ噛み締めるように言葉を落としながら、ディーンは少しずつ目を伏せていく。そこに、
そちらを一度見てから、逃げるように視線をラルフに戻した。]
[
感情を的確に表現する為の言葉を探して、やや長い沈黙が落ちる。]
――…………触れられたい。
[そう、これが一番近い。
首を傾げるラルフを見ながらゆっくりと瞬きをして、視線をペチカに遣る。何かの焦げるような匂い。
その手元に肉があったのは、見えていた。]
……触れられて、捌かれて――食べられたい。
……だから、誰かに触るのが 怖かった。
――……僕は、大人になれなかった。
[ペンと紙を失っただけで、簡単に理性は瓦解した。
ずっと願っていた通りのもの――誰かに食べられるという幸福な死を与えられて、それでも今なお欲は尽きない。
その幸せを、何度でも欲しいと願ってしまう。
肉が焼け焦げる匂いが届き、ディーンは僅かに眉間の皺を深くした。**]
メモを貼った。
……シメオンと別れるつもりだったんだ。
[死ぬつもり、というディーン
そんなに死にたがっているようには見えなかったのを思い。
けれど、ディーンが生きているうちにかわした言葉は少なく。
何もいえないまま]
それでも、シメオンがそう思ってたかどうかはわからないよ?
[シメオンに案内されているときも、彼は保護者を気にしていたように見えた]
――ニコラに?
[触れられたい
ニコラから視線をそらしたのは見えて、ならばやはり。
ディーンの姿が見えなくなっていたのはニコラが食べたからだろうと思う]
そっか……大人に、なれないことも、あるんだ……
大人になったら、みんな、ちゃんと制御できて。
だから、問題はなくなるのかと思ってたけど……
[大人であればフィリップとも一緒にいられる未来があったかもしれないと夢見ていたけれど。
それはただの夢だと知って、ため息をこぼした]
[肉のこげる匂い。
ノックスがトレイルたちに向ける言葉。
それを聞きたくないような、見ていたいような。
そんな葛藤を覚えている*]
メモを貼った。
……でも、守らなければいけないと、思った。
だから、生きようと思った。けど……
僕は、僕の欲望を、優先させた。
[
ディーンは確かにそう思っていた。
しかし、選んだ道はそれとは程遠く――守ることも出来ずに。
ディーンは自らの胸元を軽く擦る。
ディーンは僅かに口角を持ち上げて、一瞬だけ笑みの形を作った。]
制御できることと、無くなることは……違う。
大人になる頃には慣れて、扱いが上手くなるだけだ。
いつまでも慣れずに、上手く扱えない大人も、いる。
僕は……我慢をすることだけが、正しいとは思えない。
確かに、食べてしまえば、命はそれで終わりだ。
でも、命以外のものは、残る。
[残るものが決して幸福だけとは限らない事を、今身を以て体感してはいる。
しかしそれでもディーンは、我慢することをただ享受することに肯定的にはなれない。]
……君への気持ちも、ずっと残る。
[誰の、とは言わなかった。]
…………珍しい、な。
[
緑色の瞳があのように暗くなるさまを見るのも、同様に。
ディーンの視線はラルフの表情からベネットへ流れ、最後にノックスに辿り着く。
自分を食べたニコラを、それでも大事に抱えている大人だ。]
……そう、なんだ……
――ああ、もしかして、フランシスに、頼んだりしてた?
[ディーンの姿が見えなくなって。
シメオンがフィリップに食われたのを見て。
フランシスが取り乱していたのを思い出す。
だからか、と、首をかしげ]
なくならない、のか……
――ずっと付き合っていくしかないんだね、衝動とは……
[ディーン
笑みを浮かべた様子にゆるりと瞬き]
残るかな……残るといいな。
忘れられるのが、一番悲しいね。
[我慢することを否定するわけじゃない。
フランシスを知っているから。
ああなりたいとも、思ったこともある。
それでも、食べられてしまった今は。
何かが残るのならいいと、そう思う]
……あんなに、怒ってるとこ、はじめてみた。
[フランシス
いつも、心配ばかりかけて困らせていたのに。
それを最後は笑って許してくれたことを思う。
あんなに、こわい顔をすることがあるなんて想像したこともなかった。
ノックスの答えは、聞きたいような聞きたくないような。
フランシスとドナルドに視線を向けながらも、ちらりと、謝罪の言葉を口にしていたノックスに視線が流れる]
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