191 忘却の箱
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[だけど、気付いてしまった。
思い出す前の俺と 今の俺。
今の俺は俺ではないのだろうか。
俺は一体誰なのだろうか。
はらり。 紙面に落ちるもの。
花の香りと頬が濡れて。
断線したイヤホンから伝えられる音は、無音。
聞きたくないから聞こえない。
泣きたくないから泣けない。
嘘は真実へ。塗り替えていかれる。
記憶は散る。花は揺れる。
全てを無かったことにしようと。
同じように 肩を揺さぶられてしまうまで。
淡い頂点の花は、記憶を確かに吸い取って。 *瑞々しく揺れていた。*]
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[顔を覆った指の隙間からはらはらと花弁が落ちる。 俯いたままでいると、ふと感じる他人の体温。>>118 いつもそうだ。青年は両手をそっとおろす。この人の手は、いつだってあたたかいんだ。]
……センセイ、
呟いて、視線を上げる。 穏やかで、哀しい目がこちらを見詰めていた。青年は、途方に暮れた子供のような表情で。それでも、医師がゆっくりと頷くのを見れば、少しだけ安堵の色が浮かび。
ごめん、小さく呟いて、また少し俯いた。喉奥に引っかかった言葉を、吐き出そうとして。]
…オレ、へいきだから。 マーチェの。ジーサンのとこ……行ってやって…
[下げた視線は再びは上がらず。 結局、言いたい言葉は、他の懸念とすり替えられた。]
(124) 2014/09/08(Mon) 21時半頃
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[言った直ぐ後に、扉の開く音がした。>>120 振り向いた医師が呼んだ名前。その、声色に。>>120>>125 どうしても、振り返ることが出来ずにいた。
声で、ヤニクが近くに居るらしいのが分かる。>>122 連れてきてくれたのか。彼女の、異常に気付いて。]
……は、……ッ、なん、で、
[唇から、乾いた笑い声が漏れた。 『無理難題を乗り越えて』。だけど、それには幾らなんでもハードルが高すぎるじゃないか。『真の恋人』になんて。到底なれそうもない。今更、先刻までこの場にいた男の言葉を呪った。]
──── 待って。
[けれど。 けれど、医師の言葉>>125に、ほとんど反射で声を上げる。身体を起こして振り向いた。その、年齢よりも幼い姿の変わりように。飲みそうになる息を、耐える。耐える。
できるだけ、いつもみたいに。 立ち上がって、少し首を傾げてみせて。動揺なんて見せないように。そして、──いつもの調子で。]
(129) 2014/09/08(Mon) 22時頃
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よォ、なにしてんだよ──チビ助。
[笑って、呼んだ。 だって彼女は、彼を呼んだのだから。>>123]
(130) 2014/09/08(Mon) 22時頃
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[呼べば、何時だって返るのは花が綻ぶような、満面の笑顔で。 今だってそう。それは変わらない。>>133]
なんだよソレ。言い切れよそこは。オレに会いたかった、ってよ。……おいで。
[喉で低く笑って。いつもみたいな苦笑いひとつ。 微かな声の震えは、ヤニクやスティーブンには悟られてしまったかもしれないが。 構わず、扉の近くに立つ彼女を手招いた。]
(135) 2014/09/08(Mon) 22時半頃
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[ヤニクの片方だけ残った手が、そうっとペラジーの背中を押した。>>136 軽やかに大気を揺らして、彼女が近付く。会いたかったよ。その声と、笑った顔に、心臓が鳴く。
歪みそうになる顔を、誤魔化すように。伸びた手は、いつもよりもずっとずっと近く。 そうして、青年の腕が、小さな身体を、花の香りごと――抱き締めた。]
(138) 2014/09/08(Mon) 23時頃
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ほっせえ、なぁ…
[小さな肩口に顔を押し付けて、見られないように。 華奢な身体は力を籠めれば簡単に手折ってしまえそうで、それが余計に哀しかった。
シーシャ。腕の中で、聞き慣れた声が呼ぶ。 柔らかい髪に指を差し入れて、彼女の頭を痩せた胸に押し付けた。 少しくぐもった声が、言葉を発する。>>140 無意識かもしれないそれは、繰り返された些細な悪戯の後の、お決まりの報告で。
うん。滲んだ声で答えた。背中の皮膚の下が、また、ざわつく。うん。知ってるよ。]
わざとだよ。……オマエに覚えててほしいから、ずっと。今までの。ぜんぶ。
[一度だけ、抱き締める腕に力を込めて。 彼女の身体を、常のように抱き上げた。片腕に座らせ、背中を支えて。]
(…………ヤニク、)
[>>139>>141ごく自然に彼女の思考を導いてくれた彼には、唇の動きだけで。すまん。そう。]
(142) 2014/09/08(Mon) 23時半頃
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チビ助。…ペラジー。 ほら。口、あけな。
[視線の少し上にいる彼女に、呼びかける。片手でポケットを漁る。 どこか夢を見るような瞳。おとなしく口を開けたなら、そこに包みを外した赤い飴玉をひとつ、押し込んでやって。]
さて。……どこ、いきたい?
[いつかみたいに問えば、涙声で笑った。 その先は、彼女の為だけに。]*
(143) 2014/09/08(Mon) 23時半頃
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