97 せかいがおわるひに。
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――商店街―― [立ち上る黒煙が間近に見えてくる。 今まで辿ってきた場所では、目にした事の無い光景が、自分が向かおうとしている先に広がっているのが見えた。 潰れた車。 黒く焦げた建物の壁面。 割れたショーウインドウの前に散乱するガラスの破片と、踏み潰されて見る影も無くなった玩具の箱。 そして、路肩や店の中に倒れて動かなくなった人の姿。 男は、暫く路上に立ち尽くした]
(119) 2012/07/21(Sat) 21時半頃
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[悲痛な悲鳴は、無かった。 残っているのは、何処かの警報機が鳴らし続けるサイレンと、時折上がる怒号。 誰かの名前を呼ぶ声。 ――終わりだ、もう終わりだ――そう、喚き続ける声も聞こえた。 男は、ゆっくりと顔を上げ、空を見た。
空の色が見た事も無い色調を湛えて、淀んでいるようだった。 すでに、裸眼にも映るそこまで、“アレ”が近付いているのが解った。 男は、商店街の町中を、歩き出した]
(120) 2012/07/21(Sat) 21時半頃
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[男は、歩き続けた。 知る人間の姿は、見渡しても見つからない。 それは、解っている。 解りすぎている事が、酷く辛くもあり。 だが、ある意味、救いでもあるのかも知れなかった。
アスファルトの上に座り込み、虚ろに宙を見つめているだけの見知らぬ男の前を行き過ぎる。 炎に巻かれる風が、破けた新聞紙の切れ端を地面からさらっていく。
ふと、手を胸にやる。 写真を挟んだ財布を、上着の上から抑え、じっと手を当てる。 ――行けなくて、ごめん。 すぐに諦めるのは、俺の悪い癖だけど。 でも、いっそ死んでしまおうと今まで思わずにいられたのは、お前達がいたからだ。 ――ごめんな]
(133) 2012/07/21(Sat) 22時半頃
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[黒煙が上がる建物の下。 路上を静かに進む男の脇を、誰かが駆け抜けていく。 誰も、男には目をくれようとはしない。 男の右手が離したゴルフクラブが、硬い音を立ててアスファルトに転がる。 刹那、男の頭上でガラスの割れる音が響いた。 噴き出す炎に煽られたガラスの破片と引き剥がされた窓枠が宙に吹き飛び。 男の頭上に降る。 鈍い衝撃と、切り裂かれる鋭い痛みを男が認識したのは、一瞬だけだった。 ――写真の中で微笑む妻の姿を浮かべていた脳裏から光が消えていくように、遠ざかると。 身体がアスファルトの上に崩れ落ちるのと同時に、男の意識は途切れた**]
(134) 2012/07/21(Sat) 22時半頃
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