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[そう告げれば。ダイミの顔が、苦しそうなままで。
だから、男は重たい右腕を必死にダイミ頭の上へ。嫌がる様子がなければ、ぽんぽん、と撫でた。
すると、力が抜けたのか手が離されぽてりと落ちた
…ダイミ…
[直ぐ様爺が、ダイミの腕を掴み、無理やり立たせて。引きずられるように連れて行かれる。]
おいっ!?手荒にするなっ!!
[精一杯声を出し、爺を睨め付けるが。無情にも扉は閉じられた。
そして、施錠の音が響いた。
最後の瞬間見えたダイミの表情が忘れられない*]
―処刑場―
………
[ゆっくりと目を開けた。耳から手を離す。
そうして、処刑場を見上げる。
連れてこられたヒューの姿。今まさに、首が括られようとしている。
逃げると決めた。だから、まっすぐに彼を見る。
首に縄がかかったその瞬間。]
………っ…!
[あのとき、頭に乗っけられた手。いつもなら払うのにそれを受け入れたのは、なんでだ?
じくじく、何かが痛い。息ができないのは、今、自分で服を掴んでいるから。
気持ちが悪いのは、息ができないから。]
……っ!!
[ぎりっと、ヒューを睨みつける。]
……何が幸せだ!!
ふっざけんなぁあああ!!!
[そう叫んで、彼に最後になる、声を]
――……ヒュー……っ!!
いちいち、気持ちわりぃんだよ!!てめぇは!!
[いままでの会話と同じような、そんな台詞。
ただ、最初出会った時と違うのは、
覚える気のなかった名前をいつの間にか覚えていたこと**]
―処刑場:ヒューの処刑後―
[目を閉じている間、処刑場から人が自分の横を通り抜けて、はけていくのが分かる。
手を離して、ゆっくりと目をあける。
もう誰もいない処刑場。あるのは、ゆらゆらと揺れるヒューの死体だけ。
それを見上げて、睨みつける。]
……ばっかじゃねぇの。
[それはヒューにいったのか、自分に言ったのか。]
[そうして、振りかえれば、こちらを見ている男と目が合う。
手には花を持って。
メアリーと初めて会った日。双方の口の悪さもあって、いきなり喧嘩になったのだったか。
確か、その時、一度会っている。]
あんた、あいつの……
[そう言えば、向こうは頭を下げ、手に持った花を渡してきたか。
真っ白な花が二本、血のように真っ赤な花が一本。
そして、もう一つ。花はなく、途中でへし折られた茎。
彼は、メアリーの力のことを教えてくれただろうか。
教えられなくとも、へし折られた茎が彼の死んだときを意味しているのは分かった。]
……どいつもこいつも……っ!
[ヒューもメアリーも、人狼と向き合って。一人で立ち向かって、
そして、死んでいった。]
………くそ…っ!
[感情が追いつく前に、メアリーの父親の手から花を受け取って、]
………っ!!
[その場を走り去る。今は逃げて、前を向かなければ、歩けない**]
―ケーキ屋―
[ばたんっ!と家の扉をあければ、]
「ダイミ……!!!??あんた、無事で…!!
って、何よその怪我…!!」
「!!!やだ、すぐに手当て…!!って、ダイちゃん!!」
[姉たちの声を無視して、工房へと向かう。]
「……多分、"逃げて"るの。だから、そっとしてあげて。」
[そういう母の声が後ろから、聞こえて、]
……なんで分かんだよ…
[そう零して、工房へと]
[工房で、一気にケーキを作る。
ふわりと花開くようなモンブラン。そこに止まる二羽の蝶。
木の実で作るライオン。一人ぼっちで、何かに吠えている。
名前のないスズランのケーキ。
公募箱に入った、いろんな名前。
全部、ひっくり返して、
適当に掴んだ名前はピュアブリス。
それを、ケーキの前に、乱暴に置く。それがレティーシャが「二人」で考えた名前だなんて知らずに。]
………
[はぁ、はぁ、と、荒い息。
ぶんぶんと、頭を振って、しゃがみ込む。
すべてが終わるまでは、逃げると決めたのだ。
なのに。]
─ 現在:処刑の朝 ─
[友人と彼女の最後の笑顔。故郷の人たち。
ダイミと初めて会った時の事とケーキが死ぬほど美味かった事。
ノーリーンに、仕事をくれると言って貰えた事。
フランにめちゃくちゃ美味い飯を作ってもらった事。
メアリーという女に「しっかり休め」と言ってもらえた事。
サイラスに、丁寧に手当して貰った事。
ヤニクと久々に酒を飲み交わした事。
レティーシャの歌を聴いた事。
マーゴという会ったことない女の名前を投票箱に入れた事
チャルに、母親の様に撫でられた事。
そして、ダイミの最後に垣間見た表情。
それを全部思い出していれば、いつの間にか朝になっていた。
恐らく今日、自分は処刑される。
不思議と恐怖も、憤慨もしていなかった。
心にあるのは、
自分がやっと前に進んでいる感覚と、後ろめたい後悔だけ。しかも、その後悔は消して苦しいものではない。理不尽にも嬉しいと、本気で嬉しいと思う自分が居た。]
[その時、扉前に複数の足音。来た、と悟る。錠が外され、扉が乱暴に開かれた。
バタバタと足音を立てて、村の男衆が入ってくれば、ヒューの腕を持ち上げ、己の力だけでは立てないと見ると、男衆はヒューの両側から担ぐようにして、再度持ち上げる。
ヒューは、抵抗する事もせず、ただただ爺を見ていた。爺は、一瞬怯む。]
ちゃんと見てろよ。
てめぇらが人狼と疑いを掛けた男……
…ヒュー・アモルの最期をっ!!
[爺は、一瞬怯み]
「…連れてけっ」
[そうして、その狭い部屋を出た。]
─ 処刑場 ─
[男は、処刑台へと運ばれる。
暴れる様子はない。そこには何人か見に来ている村人たち。ヤニクやダイミの姿はあっただろうか。
フランの姿も見えた
規定の場所に到着して、首に縄を掛けられた。]
(少し前の俺なら…マジビビって、暴れてたな)
[自嘲気味に笑って。その瞬間が来る。]
―自室:夜―
[ベッドの上で、寝そべって、耳を塞いで、
へし折れた茎もそのままに無造作に花瓶に入れた、メアリーの花。それを見る。]
……なんで、今なんだよ。おっせぇよ。ばか…
[そう零して、]
終わったら、逃げねぇから…
…今は…逃げさせろっつーの…
[ごちゃごちゃとする思考。
耳を塞ぐ手に力をいれて、きつくきつく目を閉じる。
それを止めてくれた声も、もう聞こえない。]
…もう、そっちに言ったも言いよな…?
[友人や、その彼女、フーゴ、故郷の皆。それに、チャルにだって会えるかもしらない。もし会えたら、謝らないと。殺してごめん、と。想像の中のチャルは笑っている。なんと都合の良い想像だろうか。]
[視界に移る世界。男が見える世界が、聞こえる声たちが、男の全てだ。]
[ダイミ届くだろうか。ダイミの心へ。]
ダイミ、…またな!
[男は、これから旧友達に会いに行くかのように笑って逝った*]
[処刑に立ち会うことは、今までなかったの。
周囲の人の、負の感情を含んだ熱狂には…少し、震えるよ。
でも、逃げたくないって思ったから。ダイミ君の後ろにだけど、いるの。縄に首を括られる、その姿を見つめるよ。
叫ばれる言葉に
もう何も、出来ることは無いと思うけれど…向かい合わなきゃって、思ったの。]
[メアリー君のお父さんの姿が、後ろに見えたの。直ぐに気がついたのは、私が幽霊だからなのかな?
差し出される花。その意味は私には、完全に分かることは無かったの。でも、説明は聞くことが出来たかな?
悔しそうな顔で、花を受け取るダイミ君。そうして、走り去るものだから。]
待って…!
[そう言うけれど、勿論待ってくれる訳がないの。私は、いないのだから。ちょっと悲しさを覚えながらだけど、頑張って追いかけるの。]
─ 少し前 ─
[ダイミが見えた
俺のせいか?
[なんて、平気で自意識過剰だと言われそうな事を思う。
悲痛な叫びが聞こえれば
聞こえてきた言葉が
…ははっ!初めて名前呼んだなっ。
何でだろうな、そんな風に言われて嬉しいだなんて。
やっぱり、お前の言う通り俺は変態なのかもな。
[とダイミへ、溢れる気持ちを贈った*]
―朝:処刑場―
[ふらり、処刑場を訪れた。
今日は誰を殺すのだろう。皆、消えていなくなるまで続けるのだろうか?絞首台に自分の躯はすでになく、縄はつまらなそうに揺れている。
やがて引き出されてきた男を見ると、一つ瞬いた。
大人しく縄をかけられ、笑った彼。
こときれる間際に、嬉しそうに、切なげに。
少し離れたところからそれをじっと見つめていた]
[どれくらい、そうしていただろうか、]
……?
[何か、物音が聞こえた気がする。
そしてしばらくすれば、ノックの音。]
………は?なんで、あんた……
……つーか、何、勝手に…
[言葉が止まる。彼女が手に持っているケーキ。
紅く紅く染まった「ピュアブリス」。
それが、何故か、レティーシャの姿と重なって…瞬きもできず、目が離せない。]
[彼が向かう場所は、勿論お家だった。
ダイミ君のお母さんやお姉さんの声を、殆ど無視するようにして奥の方へ向かうの。その理由を知らない私は、首を傾げたの。
でも、其の後の姿を見て…疑問は解決したの。]
ダイミ君…作ってたんだ…
[モンブランに工夫がされていたり、ライオンは初めて見たけれど。目をひいたのはあの、スズランの香りがするケーキ。
そして。公募箱をひっくり返すようにして選んだ名前は…「私達」によるもので驚いたの。]
あの優しさは、ダイミ君によるものだったんだね。
[納得したように口に出すよ。それなら、少なくとも私にとっては…最高の味に決まっているじゃない。今なら、そう思えるの。
しゃがみこむ彼。私の存在も彼を苦しめてしまったのだと思うけれど。ずっと、せめて寄り添うようにしたよ。]
メモを貼った。
[彼の魂が現れたらば、一言だけ]
おつかれさまです。
[静かに言って、背を向けた*]
メモを貼った。
………え……?
[続く言葉が耳に反響する。その言葉に思考が追いつかないまま、彼女は話し出す。
一拍一拍、ゆっくりと。]
――貴方はもうケーキを作れません。
[…なんで?]
――貴方の家族はもう居ません。
[だから、なんで…?]
――貴方の友達も死にましたね。
…………っ!!!
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