126 生贄と救済の果てに〜雨尽きぬ廃村・ノア〜
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…あ。
[ヴェラの気配を感じれば、褐色を僅かに見開く。
―彼の魂があるのも当然、感じていた。]
…いい、けど。
[彼と殺しあった事。
彼らを裏切った事。
どちらつかずの自分。
それらを鑑みれば、どう接したらいいか目は泳ぐが。]
…狼なのに兎みたい。
[言い訳のような言葉には、ぽつりと呟く。
ツェツィーリヤの姿があれば、大丈夫か、と聞いただろう。]
[イアンの返答に、感謝する、とばかりに狼の頭を垂れる。
そして、仮にツェツィーリヤがいたとしても、彼女の返答の前にふてぶてしく座り込んだ]
遠慮はしないぞ。
もっとも、邪魔になったら尻を叩いて追い払えばいい。
[目を泳がすイアンのことを、ちらりと狼の目で見やり]
……どっちも生き物だ。
たいして変わらん。
[尻を叩かれたら飛び起きるだろうが。
ともあれ、今はそう言って両前足の間に顎を置き、外の世界へと感覚を澄ました]
[頬に触れた手]
……俺が生かされたことに。
貰った命に、意味があるんなら…
[翳された右手へと、魂は手を伸ばす]
…使い切ってくれ!
派手に使って、ぶっ倒そうぜ!!
なんも出来ねえで、このまま終わるなんて嫌なんだ!!
[肉体に残った、なけなしの生命力]
[体に囚われたままだった、魂の意思]
[力へと変換され、魔法へと昇華する!!]
[狼姿の彼を見て、何処か懐かしく思う。
廃屋の中、人の姿で狼の姿の彼と話していた時から、そう経っていない筈なのに。
座り込んだその姿を拒む事はしない。]
この状況で、邪魔とかないでしょ。
[野犬を追い払うみたいに、彼に接したりはしない。
狼と兎。大して変わらないと言われれば。]
…そうかなぁ。
[肉食獣と草食動物。結構変わると思うけど、と思いつつ。
けれど、コリーンがヤニクの魂を使って生贄魔法を発動させる気配を感じれば、顔を強張らせる。]
[追い払われないことをこれ幸いと、その場にべったりと座り込む]
似たようなもんだ。
どっちも食って生きて……。
[コリーンの手が、ヤニクに触れる。生贄の力が発動する。
両手と体を覆う、無数の有刺鉄線。
力強い青年の決意が聞こえてきた気がするのは……彼の魂が近づいたから、なのだろうか]
いつか死ぬ。
[イアンの心中は分からない。ただ、ヴェラはかつての群の仲間に。
声と共に、身に纏った生贄魔法を放つ魔法使いの、青年の魂を帯びた一撃に。
ぶちかませ、と心の中で呟いた]
[―その括りで言うなら、魔物も人間もそう変わらないんじゃないのか。
けれどそれは口には出さない。]
…っ…。
[魂を使って発動させる生贄魔法の力の強大さは、喰らった自分が一番よく分かっている。
茨の雨を喰らう同族を見つめながら、唇をきつく噛み締めた。
…げ、て。
―生きて。
そう願うのは、彼にとって重荷だろうか。
―それでも、願う事をやめられない。]
[茨の鉄線が降り注ぐ。その威力の絶大さは、右手の中にいても感じとれる。
唇を噛み締めるイアンの表情をちらりと見つつ]
…………。
[声をかけることはしなかった。
食い込み、突き刺さり、鉄線により傷つく魔物の体。
多くの魔物との戦いで聞きなれているはずなのに、その悲鳴に、思わず軽く目を細める。
無数の茨を纏ったまま、こちらに近づこうとする魔物の体は。
円月輪に舌を断たれても、止まらない。
振り上げられる、かつて一度止められた鉤爪の行方を、見守る意思に任せて、瞳に焼きつけようとした]
[会えたのかというイアンからの質問に、ふわり、笑う。
まだ会えては居ないが、いずれ会えると信じている、と。
そんな意味を含んだ笑み。]
壁……そうですか?
……そうかもしれませんね。
[壁を作り。
ツェツィーリヤはは、もう二度と
あのような思いを、したくなかったのだから。]
[−例え出会ったばかりとはいえ、少なからず言葉を交わした。
正体を暴かれる身となっても、
戦友を手に掛ける事になっても、自分は孤独ではなかった。
だから。
彼が何と言おうが、
自分にとって彼は、‘他人’ではない。
間近に届く彼の苦痛の声を遮らず。
茨の鉄線に、円月輪に、
その身が深く傷付けられても尚、コリーンに立ち向かおうとする氷蜥蜴の姿をじっと見つめる。**]
……皆さんにも、そういうものがあったのでしょうか?
[ツェツィーリヤは小さく呟いた。
何かを失ったこと。
再び会いたいと思った存在。
魔法使いを長く続ければ続ける程、
失うモノは多くなる。
それは、きっと
魔法使いの悲しい宿命。]
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