182 【身内】白粉花の村
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、…、
[好意からの甘ったるい行為でもない。間違ってるのも分かってる。 だからいつまで経っても生理的な嫌悪感は拭えない。 それでも拒絶をしない自分が滑稽で仕方がない。
だからって訳じゃないけど、薄く開いた唇の隙間から割り込む舌に歯を立てた。ましたや、噛み千切って欲しいなんて相手の考えを読み取れた訳でもないけど。 それによって引っ込められようが、そうでなかろうが。 口内にじわりと薄く広がる鉄の味に双眸を細めながら、一度唇を離して。再度ふさぎ直した。]
(56) 2014/07/05(Sat) 02時半頃
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ガーディは、セシルに話の続きを促した。
2014/07/05(Sat) 02時半頃
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そんな事まで、…僕に聞くのか。
[間近でかち合った視線>>55と、思考を放棄したかのような問い掛けに、疲れた声音で問い返す。 誰が悪いのかなんて、そんな判断まで預けておいて。そうして決めてやったとしたら、それに従って素直に自分を責めるとでもいうのか。 そんなの、余りに惨めで、――遣る瀬無い。
――憎まれたい訳じゃあないのに、と。 虫が良すぎるとは知りながら、そんな今更な思考を低く呟いて、それから僅かに首を横に降った。]
自分で決めろよ、……それくらい。
[それでも弟の中ではとっくに答えが出ているはずだと、突き放すような言葉を、滲んだ声で告げる。 選択権を投げ返すその行為に含まれた、先の傲慢な願いは、自分でも自覚することはなかったけれど。]
(57) 2014/07/05(Sat) 03時半頃
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…ッつ、!
[容易く侵入した舌にすぐに歯を立てられて>>56、その鋭い痛みに顔を顰めた。ぶつりと切れる音を、耳の内側から聞いて。 噛み切るには至らない緩い暴力に、それでも反射的に身を引き掛ける。
自衛なのか、悪意なのか。吐き出される言葉を含めて"口の悪い"弟に傷を付けられるのは、きっと初めてではなかった。 ――些細な傷を残して抉ってゆくのが、この子供は妙に上手い。]
……、いい加減にしろよ、
[それに素直に痛みを感じながら、けれど未だ反抗されることには、僅かに安堵も覚えながら。 元よりそれ以上傷付ける意思はなかったのか、自分と同じように一度退がった顔に向けて、咄嗟に叱責を吐く。 今度は相手から塞がれた口に、最後まで言い切る事はなかったけれど。]
(58) 2014/07/05(Sat) 03時半頃
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[僅かな動揺を越えて、凝りもせずに乾いた口腔を探ろうとするのは、もはや条件反射に近い。 再び拒否されるか否か、今では予想すらできなかったけれど。
――それでもせめて、受け入れられたとしたら、多少は報われるかもしれないのに、と。 道徳的とは言い難い行為を仕掛けながら、救いを求めるような心地で目を伏せた。
どのみち応えられたのならば、その後自分がどうするか、そんなことだけは理解りきっている。 せめて表面上だけでも優位に立とうと、追い詰めるように身を寄せて、後頭部に回した腕に力を込めて。
――思考だけは嫌に冷え切っていて、別にそれを望んでいる訳でもないのだけれど。 それでも他の手段なんて、なにひとつ浮かばなかった。]
(59) 2014/07/05(Sat) 03時半頃
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[答えを聞いて何が悪い。どんな答えを出したって、いつも違うと否定をしてくるのは他ならぬ目の前の相手だ。 そんな不毛な遣り取りに終止符を打てるなら。 いっそ一方的に決めつけてくれさえすれば。 例え理不尽な責任転嫁でも、構わないとすら思ったのに。]
――…、どっちでもいいよ。
[放棄された解答を受け止める程にはもう思考に余力がない。 薄まりつつある酸素の中で、曖昧で投げやりな答えに行き着く。 これまで散々続けてきた惰性だ、少し長引いた所で支障はない。
無防備な柔らかい舌に歯を突き立てる事なんて簡単で、 あっさりと切れた皮に、それはそれで気持ち悪いと感じる。 噛み癖なんて今に始まった事ではないけど。 口の中に残る後味は不快で、今すぐ吐き出したくはある。]
(60) 2014/07/05(Sat) 04時半頃
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[低く漏らされた非難めいた声>>58に、薄らと細めた双眸は悪びれた様子がないのは、目にすればすぐに分かるだろうけど。 受け入れてみれば困惑じみた顔をする、全てが"可哀想"で"出来の悪い弟"のせいだと言い包めて抑え付ける事もしない、かと思えば反抗も嫌がる。何を演じてやれば、満足するというのか。 塞いでしまった口のせいでそれを問う事も、聞く事も出来ないけど。]
…は、
[距離の開いた間に、小さく零した吐息はすぐに消える。 再度割り込んだ舌が口内を辿る動きとより広がる血の味だけがやけに鮮明で、他の事に頭が回らない。 押し遣るような距離の詰め方>>59に、再びシンクに背が当たる。 僅かにバランスを崩した片足が、かくりと身を傾がせて、 そこで不意に気付く頭の揺れ。
――ああ、やばい。
そう思ってからの波は畳みかけるようで、頭を殴られでもするような眠気に視界がぐらぐら、容赦なく揺れた。 相手の後ろ髪を掴んでいた両手はずるりと力無く下がって、 支えも無ければその場に崩れ落ちる。 めちゃくちゃに気分が悪い。脳味噌がひっくり返りそうだ。]
(61) 2014/07/05(Sat) 04時半頃
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……は、 おまえが、それで良いのなら。
[結局投げ出された結論>>60に、わざと呆れたように溜息を吐いてみせながら、――断言されない答えには、確かに安堵した。 おまえが悪い訳ではない、と。 そう弁護してやりたい衝動は、弟からの憎悪を忌避する思考に掻き消される。 全てを弟に押しやって、自分ひとりが悦に浸ることもできたのだと、そこでようやく思い至ったけれど。 気付いた後でも、その選択をする気にはならなかった。
反省の色を見せない瞳>>61を見ながら、首をゆるく傾けて口付けを深める。 結局定まることなく巡る思考は、意識を弟にすり替えることで、無理やり振り払おうとしながら。]
…っ、ガーディ、
[僅かに空けた唇との隙間に、名前を呼ぶ声を落として。自分よりも短い髪に、指を差し込んで緩く撫でて。 恋人の真似事のような、それよりも性質の悪いこの行為に、けれどありきたりな衝動は伴わない。 自己顕示欲だとか、承認欲求だとか。そんな自分だけの願望達が、弟との会話で揺らぎ掛けた自身の存在意義が、――僅かでも満たされる、はずだったのだけれど。]
(62) 2014/07/05(Sat) 06時頃
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……っな、
[手応えを感じられなかったのは、突然傾いだ弟の身体のせいか、それとも自分の精神状態のせいか。 どちらにせよ、頭を伝って落ちた腕に気付けば、咄嗟に手を伸ばして、崩れる身体を支えた。小柄な身体に腕を回して、蒼白な顔色を認める。]
………、悪い、…辛いか。
[今の弟が、とうてい健全とは言えない状態なのは承知の上での行為だったけれど。 それでも確かに感じる罪悪感に、今更とは知りつつ謝罪を落とす。 抱えるようにして引き上げながら、静まり返った室内に視線を巡らせた。
一角にだけ奇妙な空気を残したこの場所に、これ以上留まるのは気が引ける。 何より常の発作ならば、そのまま部屋に戻して休ませてやるのが一番だと。 どうせ話などろくに頭に入らないだろうと、そう自己完結させれば、当事者へと再び目を戻した。
歩けるのならば手を貸して、無理ならば背に負って。そうして移動する旨を、抑えた声で告げる。 肯定されれば、もしくはめぼしい否定が無ければ。そのまま弟を連れて部屋を離れるだろう。
にわかに医者として回り始めた思考の中で。 ――いつかは置いていかれる、と。そんな仄暗い不安が、再び顔を覗かせはしたけれど。]
(63) 2014/07/05(Sat) 06時頃
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セシルは、ガーディに話の続きを促した。
2014/07/05(Sat) 06時半頃
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[曖昧に濁した決断のせいで責任の所在は宙ぶらりん。 どちらかが悪いなんて言えない事は、お互いどうせ解りきってるのに、それすら口にしない。臆病なだけとは、気付きたくはないし、追及もしない。
何度か離れては近づく唇の合間で呼ばれた名前に、 応えでもするかのように、また噛み付いてやろうかとも思ったけど。
唐突にがくんと下がった視点が、今度は唐突に留まる。 転がったのではなく支えられた>>63のだとは後から気付いた。 無様にひっくり返るのがよかったのか、 情けなく抱えられるのがよかったのか。 判断もつかない程度には、意識が薄い。]
(64) 2014/07/05(Sat) 07時頃
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――…、だ、…い、じょぶ、 ――……じゃない、
[別に大したことではないと。切れ切れに口にしてはみたけど。 引き上げられた身体の重たさに気付いて、付け足すように否定した。 抱えられる腕に体重の殆どが乗っているに違いなくて、 シンクに片手をついて支えにでもしようと思ったけど、 そんな力すら入らなくてずる、と掌が滑って腕が落ちた。 足はまったく言う事を聞いてくれないし。
自分の身すら支えていられない歯痒さは感じたけれど、 視界がぐるぐる回って眩暈に頭がどうにかなりそうだ。
歩けるもんなら歩きたいけど。 脳味噌が伝達能力を失ってるのが四肢がぐんにゃりして自分の物じゃないみたいに弛緩してどうしようもない。 唇を動かすのも億劫で、背負われた所で否定も肯定もしない侭。
部屋には処方された薬がまだ多分あると思うから。 飲みたくないなんて言ってもいられなくて。 あのわけのわからない物たちが、またチラつき始めるのが怖い。]
(65) 2014/07/05(Sat) 07時頃
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ガーディは、セシルに話の続きを促した。
2014/07/05(Sat) 07時頃
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