112 燐火硝子に人狼の影.
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[杖は鍵掛けたその時、ドアノブに掛け置いた。
踊り手なればこそのしなやかな肢体。 返る声はないが、彼女の腕が背にまわされるを感じる。 彼女の求める相手は己ではないだろう。 何処かでそう囁く声がした気がするが打ち消す。 妹にするかのように優しげな抱擁をフランシスカに返した]
同じであればどれほど良いか。 ――…フランシスカ。
[これまで呼ばなかった彼女の名を呼んで]
(114) 2013/02/07(Thu) 01時半頃
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[細い首筋に引き寄せられるように獣は口を寄せる。 男はいつしか物語に出てくる挿絵の人狼の姿を模していた。 もう一人、見極める力もつ彼女に見せたと同じ姿。 金色の毛並みを持つ、人狼は赤く裂けた口を大きく開いて 柔らかな女の肌に鋭い牙を宛がう]
―――…、
[謝罪も感謝も声にはしない。 思いは抱きとめるその腕で伝えようとするのみ]
キミは私がこれまで出会った中で最上の舞姫だったよ。
[それが別れの言葉。 フランシスカの喉を一息に喰いちぎる]
(115) 2013/02/07(Thu) 01時半頃
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[ゴリ、と。 鈍く何かを噛み砕く音がする。 痛みを長引かせぬ為か、神経にまで至る牙。 フランシスカの命の色が、鮮やかな花を夜闇に咲かせた]
――…ン。
[口腔に流れ込むあたたかな体液。 それを舌で受け止め喉の奥へと流しこむ。 喉骨が上下して、甘く酔うような吐息が漏れた]
フランシスカ。
[獣は舞姫の名を再び口にする。 既に事切れているだろうと知りながらも 名残惜しむように力失うその肢体を抱きしめていた]
(118) 2013/02/07(Thu) 01時半頃
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――嗚呼。 理由を、聞きそびれた。
[フランシスカが挑発めいた言葉を向けた理由。 獣であれば、と、男に言った訳。 彼女がアイリスと同じ力を持つと知らぬまま 手を掛けた獣の翡翠の眼は蕩けるような愉悦を滲ませる]
私はキミとは同じになれない。 人を喰らわねば生きられぬ獣が 人と同じになれるはず、ない。
[双子の妹でさえ、この獣と同じにはなれない。 得られぬと思うからこそ渇望する。 そろと腕の力をゆるめ、フランシスカを寝台へと横たえた]
(120) 2013/02/07(Thu) 02時頃
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[調理場からそう離れていない空き部屋。 その寝台に寝かせたフランシスカの傍らに片膝をのせる。 眠る女に迫るかのような形となるがそれを見る者は居ない]
有り難く頂こうか。
[独り言ちて金色の獣は女の柔らかな血肉を喰らう。 顔や腕、脚に手をつけぬのは彼女が踊りを生業としていたから。 臓腑を抉り咀嚼すれば、ぴちゃぴちゃと水音が静かな部屋に響く。 仲間を呼ぶのも忘れ、貪る様は獣そのもの。 ただ、喰い散らかすような無作法が無い事が、野獣との違い]
――…、嗚呼。 美味いな。
[満足げに呟いて、立ち上がる。 白いシーツを彼女の身体に掛ければじわりと色が移る]
(123) 2013/02/07(Thu) 02時頃
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[朝陽が顔を覗かせる頃には獣の姿は何処にも無い。 調理場に近い空き部屋に残るのは 床に散る血の跡と寝台に横たわるフランシスカの遺体。 被されたシーツを捲れば大きな獣に喰われたような痕がみえる。
拳一つ分、開かれた空き部屋の扉。 ドアノブには何も残らぬ代わりに その部屋の前の廊下に、何かあると示すような矢印が 赤い血で描かれて、鉄錆を思わせる匂いが辺りに漂っている**]
(124) 2013/02/07(Thu) 02時半頃
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