299 さよならバイバイ、じゃあ明日。
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─ モイの家 ─
[イナリの祝賀会の後、毛玉は再び花を手に葬儀屋の家に向かった。 葬儀屋の家は、今はギロの帰る場所でもある。 あの人と住んでいた家は、あの人が居なくなった時に引き払ってしまった。 毛玉だけで住むにはあまりにも広くて、とても寂しくなってしまったからだ。 その後、勝手に葬儀屋の手伝いを始めたのだが、その際にかくかくしかじかで葬儀屋であるモイの家の一角に居候させてもらうこととなった。 だから、家についての第一声はこう。]
た。 ただいま…。 モイ、いる?
[ドアを開けて、そぉっと呼びかけるが返事はない。 それに、もう夜になるというのに灯りもついていない。 まだ帰っていないのかもしれないと毛玉は思ったが、その考えはすぐに否定された。 再び降り出した雨に濡れた毛をよく絞って(前に怒られたので)薄暗い家の中に入ると、俯せになった葬儀屋の姿があった。]
(22) 2019/10/15(Tue) 02時頃
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モイ? モイ?どうしたの。
[毛玉はてってけとモイに近寄り、身体を揺するが返事はない。 それから、触れた腕もいつもより冷たい気がする。 毛玉は首を傾げて、少し考えて。 モイの身体にそっと耳を近づけてみた。]
…? おとが、しない。
[生ける者であれば心音が聴こえるはずだが、モイの身体はとても静かだった。]
モイ、しんじゃった? …モイ〜。
[何をしても返らぬ反応、冷たい身体。 毛玉はそれを、死と認識した。 元々濡れてしんなりしていた毛玉の毛が、より一層しんなりする。]
(23) 2019/10/15(Tue) 02時頃
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[毛玉は途方に暮れたようにしんなりしていたが、手に持っていた花の事を思い出すと、それをモイの傍へと置いた。]
これ、コーラからのおはな。 モイに、わたしてって。 ギロ、たのまれた。
…とても、きれい。 モイ、うれしいかな。
[コーラから預かった約束の花が、まさかモイへの手向けの花になるとは思いもしていなかった。]
(24) 2019/10/15(Tue) 02時頃
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ギロ、モイはこべない。 どうしよう。
[この事を誰に相談しようと毛玉は考えて、一番に思い浮かんだのはイナリであったが、そのイナリは先程見送ったばかりだ。 次に思い浮かんだのは、ソルフリッツィ。 自警団の役割を担うソルフリッツィなら、相談に乗ってくれるかもしれない。 雨はさっきよりずっと強くなっているが、それでもすぐに相談するべきだと毛玉は判断した。]
───!
[突然、眩い光が薄暗い家の中を照らして、その直後にドォン!という大きな音が耳を貫いていく。 毛玉はびゃっと飛び跳ねると、とても大きく毛を膨らませ目を見開いてフリーズしてしまった。 毛玉は雷がそれはそれはものすごく苦手なのだ。 そして毛玉は固まったままモイの亡骸と夜を過ごす事になる。 この大きな音の元凶である落雷が相談しに行く相手を焼いた事を知るのは、もっと後の事。*]
(25) 2019/10/15(Tue) 02時頃
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─ 次の朝 ─
[葬儀屋の家の窓から、優しい陽光が差し込む。 昨夜の雷雨が嘘のような、穏やかな朝の訪れ。 固まっていた緊張はほぐれて、床にへちゃりと毛玉は潰れた。]
…ん!
[毛も耳もへたれてしんなりしていたが、傍らのモイを見て毛玉の毛と耳はピンと立った。 そうだ、モイをなんとかしなければ。 毛玉は己の使命を思い出す。]
モイ。 ギロ、いってくる。
[いってきますを告げて、もう一度確かめるように黒くて細い腕でモイに触れたが、”それ”は昨日よりもずっと冷たくなっていて。 完全に死んでいる事を、毛玉は理解した。]
(40) 2019/10/15(Tue) 23時半頃
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[とってけてけとてちたたたた。 いつもより奇妙な音と共に、毛玉は走る。 毛玉なりにとても急いでいるようだ。 探し人であるソルフリッツィはいつも街を見回っている。 だからきっと、街の中を走り回っていればいつかは会えるはずだと毛玉は思っていた。]
あ。
[てってけと走っていると、運が良かったのか程なくしてお目当ての鎧姿は見つかった。 が、しかし、何処か様子がおかしい。 鎧は地面に対して垂直ではなく、平行になっていた。 そして、きっちりした鎧も無残に弾け飛んでいる。]
(41) 2019/10/16(Wed) 00時頃
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わー。 おはよう、ンゴティ。
[近くに寄ると、ンゴティエクの姿があった。>>21 どうやら、食事中のようだ。]
………ソルも、しんじゃった?
[訊かなくとも、ンゴティエクが食事中という事はそういう事なのだろうが、毛玉は思わず尋ねた。]
あのね、モイも。 モイも、しんじゃった。
[葬儀屋の死を告げて、毛玉はしゅんとする。]
(42) 2019/10/16(Wed) 00時頃
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ギロ、モイはこべない。 だから、ソルにそうだんしようと、おもってた。 でも、ソルもしんじゃった。 どうしよう。
おそうしきまち、いっぱい。 モイいない、おそうしきもどうしよう。
[毛玉の小さな頭で考えられる量をとっくに越えてしまって、毛玉はその場にへちゃーと平たくなってしまった。 そう、モイとソルだけではない。 コーラも、それから耳にした話ではロゴスとソランジュも死んでしまったという。 順番にお葬式をしなくては。 それが意思や言葉を交わせなかった者との、最後のお別れの場になるだろうから。
さよならバイバイ、じゃあ明日。 明日が叶わぬならば、いつかの来世で。 そんな願いを込めて、別れの言葉を告げるのだ。*]
(44) 2019/10/16(Wed) 00時頃
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