213 舞鶴草の村
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……赤い着物、か…。…………元気そうだったなあ。
[赤い着物を着たその女性は、僕の記憶の中の母にとてもよく似ていた。…尤もあんなに心から笑った顔を見たことはなかったが。 (廓詞抜けてたなあ。…あと、は) その人の後をとてて、と追いかける可愛らしい女の子。母上、と呼ぶその子の言葉。……理解するのにさほど時間はいらなかった。
母は自分に本気で惚れ込んでいた幼馴染の武士に貰われた。…没落した武家の生まれだったという母は、その幼馴染を待ち続けていたという。全て酔った楼主から聞いた話だが、恐らく事実なのだろう。
一目、見るだけのつもりだった。…そこから先の行動を僕は酷く後悔している。]
(7) purin3 2015/01/29(Thu) 10時頃
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………はあ…。
[僕の右手にはあの懐かしい守り袋。気付いた時には袂に戻っていた。この不思議な現象は、鼠小僧の行動なのだろう。相変わらずよく分からない人だ。この守り袋の思い出の中の母の笑顔は壊れていない。それでいい、と思い出せた"宝物"をそっと握りしめて大切に大切に袂にしまった。 『亀吉の髪は綺麗な色やねぇ。この色なら何処からでも見つけられるから、安心やわぁ。』 母は散々な目に逢い泣き続ける僕に、綺麗な色と言ってくれた。この髪の色があればきっとどこでも母は見つけられるのだ、と子供心に少し自慢だった。
碌に周りも見ずに歩いていたら、いつの間にかあの薬師の店の前へと来ていた。これといった用もなかったが、ふと彼の盗まれたものがどうなったか気になった。…陰鬱な気分を払うかのように薬屋の戸を叩いたが、彼は居るだろうか…。]
(8) purin3 2015/01/29(Thu) 10時頃
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[戸の先にいた薬師>>15を見れば、彼は何やら出かけるようだった。…暫くお休みを…という言葉を聞き、彼にも何かしらの変化があったのだと察する。 奥へと導かれれば、以前と同じように勧められるまま椅子に腰掛けた。紅茶ですよねという言葉に、ああそんな話をしたのだっけ、とぼんやりと考える。]
…そうですか。寂しくなりますね。
[いつもなら社交辞令で出る言葉が、今はすんなりと出て来た。ここ数日で彼とは何回話しただろうか、なんて少し思い浮かべながら、小さく微笑んだ。 盆に置かれた道具をちらりと見れば、やはり話題になるのは鼠小僧のこと。]
……"宝物"思い出しましたよ。そして宝物ついでに見たかったものも見てきました。
[脳裏に母のあの眼差しを浮かべながらも悟られないように微笑み、守り袋を袂から取り出して見せる。そして、貴方は?と問うてみればどんな反応が返って来ただろうか。]
(20) purin3 2015/01/29(Thu) 16時頃
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[彼の流れるような茶を淹れる手捌きを興味深く見ながらも、ここに居る理由、という言葉が気になった。理由を伺っても良いですか?なんて聞いてみれば、何て答えただろうか。]
…母にあって来たんです。幸せそうな笑顔を浮かべていました。……その笑顔を壊してしまったんですけどね。
[憂いを押し殺すように、にこりと一つ微笑んで言う。母に言われた言葉は彼には言わない方が良いだろう。聞いて気持ちのいい言葉ではなかった。そう考え、残りの言葉も全て押し殺す。
目の前に綺麗な赤い茶が出てくれば、へぇと口の端を上げる。辺りに広がる甘い香りに、なるほど茶の香りから違うのか、と少し心を踊らせながら、茶器を見て少し考え込む。湯呑みについたこの丸い取っ手のようなものはなんだろうか。考え考え、考え抜いた結果取っ手は無視して飲むことに決める。]
ありがとうございます。随分と香りの良い茶ですね。
[一口含むと口いっぱいに広がる酸味と甘味に少しびっくりしながら、美味しい、と呟く。このような茶は生まれて初めて飲んだ。菓子ほど甘くはない、その絶妙な甘さに頬が緩むのを感じた。]
素晴らしい茶ですね。見た目の美しさだけでなく、味まで上品だ。
(24) purin3 2015/01/29(Thu) 22時半頃
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[内緒です、と言われれば>>30少し残念そうに、そうですかと返す。聞いてみたい気もあったが、そこまで気にしていたわけではなかった。
ぱちり、と一瞬瞬いてから気まずそうに返事をする彼に、ああと息を漏らす。どうやら勘違いさせてしまったようで、落ち着いた声音で訂正をする。]
ああ、いえ。母のことはそこまで残念でもないんです。蔑んだ目でも、僕を見てくれたわけですし。…それよりも、今の母に思い入れがなかった自分を嘆いてたので。
[昔のように何も無い、知らないという目で見られるよりは確実に意識を向けられたという喜びがあった。だから、会えたことはそこまで残念では無いのだ、と微笑みと共に言葉にした。]
(50) purin3 2015/01/30(Fri) 18時半頃
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[彼が苦笑を零した様子をちらっと見て、そして彼の湯呑みの持ち方を見て気恥ずかしさを覚え、少し頬を染め目を逸らす。…なるほど取っ手をああやって持つのか、なんて思いながら湯呑みを持ち直す。 …と、そこで聞こえた彼の言葉にふっと顔をあげた。 普段なら、いや今のような状況でも恐らくこういった誘いには乗らないはずだった。仕事が全て、と。そう育ったから。 …しかし今は自然と、それもいいかもな、なんてぼんやりと考えていた。どのみちもう江戸にいる気は無かった。…江戸にいれば、思い出の中の母がどんどん汚れてしまうような気がして居たから。 僕は彼をじっと見つめると、不束者ですが、と微笑んだ。…彼がこの答えにどんな思いを抱くのか、と好奇心に揺られながら。]
(51) purin3 2015/01/30(Fri) 18時半頃
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