73 ─深夜、薔薇の木の下で。
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──廊下──
[平気な振りをしてどのくらい歩いただろう。気づけば校舎へと続く渡り廊下のあたりまで来ていた。]
……。
[ひと気のない廊下の壁にもたれ、ずるずると座り込む。そのまま横向きに倒れれば、涙が頬を伝い、冷たくなって床に落ちた。
床が冷たい。骨まで凍りそうで。それでも良かった。風邪をひいてしまいたかった。このまま消えてしまいたかった。……何も、わからなくなってしまいたかった。]
……、
[唇が震える。もう彼の名は呼べない。 失ってしまうのが怖くて、欲しいものをくれていた人を傷つけた愚かさに、与えるべき罰はこんなものではない。]
(31) 2011/12/27(Tue) 07時頃
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[かけられた声は、夕飯のときに聞いたもの。のろのろと視線だけ向ける。死んだ魚のような瞳は金色を捉えて少しだけ笑った。 迎えに来てくれることを期待していた馬鹿な自分に気づいてしまって。]
……やァ、ロバート。意外とお人よしな行動じゃないか。
[声は思ったよりも出ない。声を殺して泣くうちに、涙でふやけてしまったのか。]
……帰れないよ。合わせる顔なんて、ないもの。 最初から間違ってたんだ。誰でもいいって、思いたいなら、全部拒絶するべきだったよ。
[落ちる言葉は譫言に似ている。]
(41) 2011/12/27(Tue) 12時頃
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……ごめんね。
[あまり迷惑はかけたくない。部屋が見つかるならばそこへ、見つからないようなら、ふらりと外へ、薔薇の花でも見に行こうか。**]
(44) 2011/12/27(Tue) 12時頃
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……薔薇は、俺たちの望んでることをさ、露わにするだけ、なんだって。
[言っていたのは誰だろう。思い出せないのに鮮烈に残る言葉。]
気をつけるもなにも、ないんじゃない?
[唇の端だけ上にあげて。ロバートに背を向ける。 誰でもいいと身体は言うのに。薔薇が暴いた脆い心には、きっとそれは酷すぎる痛みになる。**]
(50) 2011/12/27(Tue) 17時半頃
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──中庭──
[中庭に近づくにつれ、香りは目に見えそうなほど濃密になりゆく。 ロバートが言っていた、倒れる人が出たと言うのもさもありなん。むせ返るほどの香りの中を、泳ぐように薔薇を求める。
中庭の薔薇のことを、最初に知ったのは何年の頃だったろう。その香りが好きで。怪しげな逸話が好きで。花の咲くころには遠回りしてでもその季節を楽しんだ。 月の夜、その下で先輩にいざなわれ、秘密倶楽部の扉をくぐり。 背徳の色を纏いながらも薔薇は美しく、同室者を散歩に誘ったこともあったかもしれない。]
(91) 2011/12/27(Tue) 23時頃
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……いつから、だったんだろうね。
[エリアスに、辛い思いをさせていたのは。 どのくらいの絶望を降り積もらせてしまったのだろう。薔薇の香りをきっかけに、忘れようとモリスに縋るような選択をさせてしまうまで。
誰を求める勇気もなくて、博愛の名の下に、代わりの効く関係を求め続けた、こんな自分はエリアスに相応しいわけもないから。
消えてしまおう。誰かに抱かれる汚い姿を見せつけて。エリアスが早く自分を忘れられるように。]
(93) 2011/12/27(Tue) 23時頃
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[涙は枯れることなく、ひび割れた蛇口のようにほろほろと溢れ続ける。夜に一滴だけ太陽を落とした空は薄暗く。もう一つの鮮やかな赤を抱えた姿には気づけない。]
……エリアスを救う勇気を頂戴。
[冬と言うのに凛と咲く紅薔薇の一輪を手元に引き寄せ、手が傷つくのも構わず口付けた。]
(94) 2011/12/27(Tue) 23時頃
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セレストは、人影を探して、どこへ行こうか。
2011/12/28(Wed) 00時頃
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──食堂──
[誰かがいる場所と考えれば、ここが自然に浮かんだ。音楽室からも綺麗な音色は聞こえたけれど、バイオリンの後輩──確か名前はセシルと言ったか──にこんなこと頼むわけにはいかないから。
寮母さんが飾ったのか、小さなツリーが可愛らしく輝いている。そこだけ平和な光を灯して、けれど薔薇の前ではあまりに弱い。]
(109) 2011/12/28(Wed) 00時頃
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モリス。
[名前を呼ぶ。唇の端に笑みを浮かべた。]
さっきはごめんよ、怪我はない?
[くすりと笑う。その頬に手を伸ばして。]
ねェ、続きをしようか。
[どんな顔を、されたんだろう。囁く唇からは、薔薇の香り。**]
(118) 2011/12/28(Wed) 01時頃
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──廊下──
……さっきはびっくりしただけだよ。あんないきなり触れるなんて、物事には順番ってものがあるんじゃない?
[利用しようとしているのはわかっている。けれど先ほどはあちらから誘ってきたのだから……と。後輩を見くびったまま。]
つれないなァ。 別にさ、俺は『好き』なんていらないよ。誰かの名前で呼んでも構わない。
[首に手をかけ引き寄せるように、甘く囁く。そのまま顔を寄せる動きは、ぴたり、止まった。]
(159) 2011/12/28(Wed) 08時半頃
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薔薇……?
[あの花は好きだけれど、それを燃やしてエリアスに影響が出るなんて、荒唐無稽な話だ。理性ではそう思うのに、ひどく不安。胸騒ぎがして、背筋が寒い。]
なぁに、それ……。
[手はとられる、望んでいた筈なのに、指を絡めることができない。心臓が痛いくらいにキュっとして。]
!!
[足音も耳に入らなかった。モリスが突如サイラスの名を呼ぶ。驚き、咄嗟に手を離した。]
(160) 2011/12/28(Wed) 08時半頃
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なに、を、聞いたの。
[甘い吐息に、膝が砕けそうになった。強く強く情欲を煽る麻薬のよう。先ほどまで溺れたかったそれに抗い言葉を紡ぐ。とられた手を掴む力は、強く。]
エリアスじゃないエリアス? ……ねェ、何を知っているの。 ……なにが、起こってるの。
[問い詰めながらも、吐息の熱さは移るよう。]
(164) 2011/12/28(Wed) 09時頃
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[手をなぞられているだけなのに、背筋までぞくぞくする。ぁ、と小さな声が漏れた。 抱き寄せられた腕が、冷え切った身体に熱いほど。溺れる心地よさを知っている身体はすでに期待を示している、けれど。]
まっ、て……。
[弱い力で、かろうじて肩を押す。]
その人だけ、止めるから……。 そしたら、何だってする……!!
[あまりに身勝手に、懇願した。]
(171) 2011/12/28(Wed) 13時頃
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あ痛たたたっ!?
[どこか夢のうちのように薔薇にふやけていた精神が、一気にさめた。]
モリスっ、なに……、
[抗議の声は、しりすぼみに消える。]
……甘えすぎたね。ごめん。
[モリスの顔は笑顔だけれど、その瞳は笑っていない。当たり前だ、自分は彼をエリアスを傷つける道具にしようとして、そのくせエリアスを選ぶのだから。 同時に気づく。やっぱり全員を同じように好きでいるなんて無理で──エリアスと自分のためなら、誰だって傷つけることができてしまう。あまりに醜い身勝手さ。]
そうだね、どこか行ってしまうことにするよ。 薔薇をまもってからね。
[以前なら、好きと言う言葉で表した感謝の言葉。口からは出てこなかった。**]
(181) 2011/12/28(Wed) 18時半頃
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──廊下──
[掃除用具入れからバケツを取り出す。水道の蛇口を全開にあけ、かじかむ指で水を溜めた。 生木に火はつきにくい。それが濡れていればなおさらだ。これが対策の一つめ。]
教室……鍵開けられないかな。
[その次は机を運び出してバリケードを築いてしまおうか。寝ずの番をしたっていい。失うなんて考えたくもない、何だってやってやろう。
水の溜まったバケツを持ち上げる、飛沫が舞った。走りゆくのは中庭へ。そして……]
エリー!!
[中庭に降りれば、エリアスの手が、オスカーの首にかかっているのが見えた。なにも考える暇などなく、あげたのは制止の声。]
(198) 2011/12/28(Wed) 21時半頃
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──中庭──
[咄嗟に感じたのは、オスカーへの嫉妬だった。
怒りの視線にずきりと胸は痛む。いや、忘れて欲しいのだから、むしろこの反応は喜ぶべき、なんだろう。 そして、それ以上に自分を苛むのは。息苦しささえ覚えるほどの薔薇の香り。けほ、と小さく咳をして、笑顔を作る。]
……薔薇を燃やそうとしてる子が居るって通報をうけてさ。風紀委員として放っておけないじゃないか。
[地面に置いたバケツを足で軽く小突く。ちゃぽんと水面に波紋がうまれた。]
……君は?
[オスカーの身体、叶うなら受け取ろうと。]
(208) 2011/12/28(Wed) 22時頃
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[オスカーは倒れぬように受け止めて、横たえあとは手放した。 拭い去られた記憶が、泡のように断片的に浮かぶ。そのせいか。薔薇の精がエリアスをこの子と呼んでも、取り乱しはせずに。]
……君はこの薔薇? エリアスは身体が弱いんだから、無茶をさせないでよ。 なにが欲しいの。なにをすればエリアスを解放するの。
[吸血鬼譚や妖精譚、妖しげな物語は好きだった。けれど巻き込まれてわかる──大事な人の身体を勝手に使われるなんて、冗談じゃない。]
……エリアスにつたえてよ。 俺はきっとエリーが思うよりずいぶん酷い人間だから。俺のことなんて忘れてしまって。
[涙はもう枯れたのだろうか。声は詰まらず口にできた。表情だけは、泣き笑い。]
(214) 2011/12/28(Wed) 22時半頃
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考えてるよ!!
[叫びは悲鳴に似る。]
傷つけたくないんだ、あァそうさ、でも隠してることが多すぎるんだ!!
[直接なんてきっと言えない。話せば決意は揺らいでしまう。 けれど、場所を変えようと言う薔薇から、逃げ出すほどに、クズにはなれなかった。唇を噛み締めながら頷いて。
横たえたオスカーは意識の外。 彼の持つ火口箱も、また。]
(229) 2011/12/28(Wed) 23時頃
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[薔薇の言葉は鋭く刺さる。うつむいて、小さく自嘲気味に嗤った。 オスカーを支えるのは、一人でも間に合うと薔薇の手を断り、屋内に運ぶ。通りがかりの部屋のソファに座らせて。]
……エリアスは、戻ってくるの。
[長くは無理という言葉に、不安になって問いかけた。
二人で居慣れたはずの自室が寒い。]
(240) 2011/12/28(Wed) 23時半頃
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セレストは、一人で運ぶと言う意見はエリアスに却下されたかもしれない
2011/12/28(Wed) 23時半頃
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──自室──
関係ないわけないよ。助けたいんだ。
[自分の側に居なくても、幸せならそれでいい。繰り返す別れの中で自分に言い聞かせた言葉はいつしかこびり付き固まってしまった。]
帰らなかったら、許さない。
[言葉を紡いだ時にはもう、エリアスの身体は崩れ落ちる。 慌てて手を出して支え。ゆっくりと開く瞳を、泣きそうな顔で見守る。]
……エリー。ごめんね。
[伸ばされた手をはらわなければいけないのに。今だけ、今だけ抱きしめることは赦されるだろうか。 伸ばされた手をとり、頬にあてる。長いこと離れていた気がして、虚勢はいまにも壊れそう。]
(253) 2011/12/29(Thu) 00時頃
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……だめだよ、エリー、……俺のことなんて、好きにならないで。
[何度も首を振る。背中に回された腕が温かい。こわい。]
……エリーに話してないことがたくさんあるんだ。嘘をついてたこともあるんだ。俺じゃエリーのこと、幸せになんてきっと出来ない。
[好きだと、何度も言いたいのにわ言えない。あぁ、胸が裂けてしまいそう。]
(266) 2011/12/29(Thu) 00時半頃
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