255 【RP村】―汝、贖物を差し出し給え―
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― … ―
["住み慣れた"館の玄関をくぐったのは、ちいさな思い出を捨ててから、両手の指を曲げて伸ばすだけの数を数えた頃。 前髪を後ろに流し、いつだったかに誂えた服を纏って、ノッカーも鳴らさずに戸を開く。 突然現れた来訪者に目を白黒させた見慣れない使用人が何かを云うより先に、十五年近く音沙汰の無かった息子の帰還に素っ頓狂な声を上げて母親が階下へ駆けてくる。 ――彼女の慌てぶりも当然だろう。ちょっと一人暮らしする、だなんて簡素なメモ書きだけを残して最愛の息子が消えた上、"ちょっと"だなどと云えない時間、戻ってこなかったのだから。]
―― ただいま?
[淑女らしからぬ取り乱しようで抱きしめてくる母親は、見下ろす程小さくなってしまった。 彼女の腕の中に収まっていた頃の自分が、随分と遠い昔のように思える。]
(83) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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「ああ……、ああ、可愛い我が子。 見違えたわ、若い頃のお父さんにそっくりね。 いきなり出ていくんですもの、私がどれだけ心配したと思ってるの。」
ああ、まあ――悪かったよ。
「いいのよ、帰ってきてくれて嬉しいわ。 お腹はすいてない?具合は悪くない? よそで不憫な目にはあわなかった?苦労したでしょう」
[矢継ぎ早にあれやこれやとまくしたてるのを、黙って聞く。もう久しく顔を見ていなくても、ここで口をはさむと泣き出すことくらい覚えている。 宥めるように背を叩いて、解放の時を待つのが一番の近道だということも。]
(84) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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母さん、いつまでも玄関に居たんじゃお客さんみたいだろ。 そろそろ離してよ。
「いやだわ、かあさんだなんて、前みたいにママって呼んでよ。 もうすっかり大人みたいじゃない――」
はいはい、"ママ"。 俺もう31だよ。子供が居たっていいぐらいだ。
[腕の中の息子の背中がすっかりたくましくなってしまったことにか、あるいは変わってしまった呼び名にか、時間の経過を実感してしまったからか。 泣き始めてしまった母親に、苦笑して肩を竦める。やれやれ、こうなると長い。]
(85) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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[結局、元のまま残されていた自室に引き上げることが出来たのは、それから随分経ってからだった。 大の男が使うには小さい机、絵本や児童書ばかりの本棚、家族で見たサーカスのチラシ。 出て行く前そのままの状態で、何もかもが残っていた。
寸足らずになってしまったベッドに横たわり、子供の頃に使っていたスケッチブックを、眺める。]
…… さよなら、 "ブローリン・ロイエ"
[何もかもを、捨ててきた。 もうあの"偽名"は必要ない。
二度と、名字みたいな名前だろ?親の命名センスを疑うよ。なんて、くだらないジョークを飛ばすこともない。 変わった響きの"姓"を、聞き返されることも無い。
ロイエ・ブラウンだとか、ビリー・バーカーだとか、レイモンド・ブライスだとか、数え切れない偽名の数々の中で、一番長く耳に馴染んだブローリンの名を、呼ぶ声はもう、どこにもない。]
(86) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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……ああ、やっぱり。 最後まで嘘つきにはなってやれなかったな。
[スケッチブックの表紙には、子供のたどたどしい字で、名前が記されている。]
(87) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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[ ロイ・ブラウニング ]
(88) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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[青い目を緩やかに眇めて、いつもより開けた視界を閉ざす。 脳裏にちらついた懐かしい日々を総て、記憶の奥底にしまい込むように*]
(89) Noah 2016/10/14(Fri) 23時頃
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[郵便夫へ言葉を返した後。>>43 自らのことを司祭へ話し出す音は、密やかなものだっただろう。それでも、その音に淀みは一切なかった。>>19
ただ、僕が言葉を紡ぐその様子を。 顔色を一つ変えず、聞いている司祭を眼の端に留めて、ぽつり。ぽつりと声を零した。>>+5:43
消えることのない、僕の、記憶。]
(90) milkxxxx 2016/10/14(Fri) 23時頃
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― 現在 ―
[ふ……と瞼を持ち上げる。 そこにはブルーノが居て、小窓から覗く郵便夫の姿が見える。
郵便夫の言葉は、まさしく自らが与えられてきたもの。>>+7 膝の上で作った拳が強く握り締められる。 崩れそうになるポーカーフェイスを、唇を噛むことで堪えたら。]
……全く、愚かな人だ。
[震えた声で、せめて精一杯の、悪態を。 憎まれるべき役を。 そのために私は、この部屋へ来たのだから――。*]
"ショク"とっては、人間は餌でしかありません。 これ以上、私に食べられないように――、
ここから離れることだ。
(91) milkxxxx 2016/10/14(Fri) 23時頃
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―― 夕闇の中、日常へ ――
………。
[局へ戻った私を、同僚が目を丸くして迎えました。 有給休暇を取っていたのだと聞かされたそうです。 人の良い局長が、私を個室へと連れ出しました。
何故このようなことになったのか。 その説明も多少はあると思っていましたが。
見たこともないような険しい表情をした局長は個室に入り私を座らせるなり、深く、深く頭を下げました。一言もしゃべらないままで。]
…局長はご存知だったのですね そして、貴方が抗えない相手からも息が
頭を上げてください、分かりました。 もう聞きませんし、責めません。
ただ一つ、頼みが有ります
(92) はたけ 2016/10/14(Fri) 23時半頃
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有給をもう二日ほど頂けませんか
[見ての通り満身創痍なので、と続けると漸く局長は頭を上げて、分かったと頷いてくれました。 自分のデスクに溜まっている仕事から急ぎのものだけを手早く片付けて、家へと戻ることにしたのです。]
(93) はたけ 2016/10/14(Fri) 23時半頃
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―終わりの日―
[ガチャリ。とどこかで音がした。 少し騒がしいその様子から、どうやら。]
終わったか。
[そう呟く。昨晩のニコラスと郵便屋のやり取りから、 郵便屋は記憶を喰われたらしかった。喰われたものは、外に出れることを少々、安堵も覚える。]
人間は"餌"でしかない、か。
[昨晩>>91ニコラスが言っていた声を口にする。]
なら、私は餌となるのだろう。
[この館へと閉じ込めたものは、執拗に"ショク"を 欲しがっていた。ならば、"ショク"を殺すなどいうことも、ないだろう。]
(94) doron 2016/10/15(Sat) 09時頃
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[つ、と扉を見る。恐らくは、ここは開きはしないのだろう。と、誰もいなくなり静まり返ったはずの廊下から、靴音が響く。
やがて、>>>80昨晩と同じように小窓に顔が見える。]
私なら、いるが。
[こちらに気付いた、郵便屋が差し出してきたもの。 それは、]
………
[あの記憶に固執する歳でもない。しかし、彼の言うとおりであった。なぜ、それを口にしたのだろうか。
さぁどうぞと、彼の手の上にある"記憶"を見る。]
(95) doron 2016/10/15(Sat) 09時頃
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あぁ、そうか。 誰かに"記憶"を預けたかったのだろうな。
[記憶を失うことは恐ろしくはないのだ。 若きより年寄りから奪えと思うのも変わらない。
だが、忘れられてしまうことを、忘れられてしまったことを。それを寂しく思うのだ。]
さすが、郵便屋というものか。 届けずにはいられぬようだな。 [預ける相手を間違えたな、などと失礼なことを思う。 疑いが晴れることをという言葉に、 それが晴れたとして、出れることはないのではないかと思う。
"ショク"を手に入れたものたちにとって、餌も必要であろう。]
(96) doron 2016/10/15(Sat) 09時頃
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酒か。 久しく飲んでいない。
そうだな。楽しみにしていよう。
[再び戻った"記憶"を手に。 そして、背中を向けさるその姿を見送った。*]
(97) doron 2016/10/15(Sat) 09時頃
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[大家の爺さんに長いこと帰らなかった理由を尋ねられても、 適当にごまかしました。 仕事が立て込んでいて、職場に留まったとか。この所少し時間が緩やかになってきていた爺さんですから、さして気にする様子もなくそうかい、とだけ返してくれました。]
……私宛て、ですか
[そうして漸く、私はその手紙を受取るのです。 誰かが結婚するだとか、たまには帰ってこいだとかそんな手紙だろうかと思いながら封を切ります。]
(98) はたけ 2016/10/15(Sat) 21時半頃
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[その手紙を読み終える頃、私はコーヒーを啜って居ました。]
これ、ですか
[館に居た頃書き溜めた手記を開きます。 馬車の中で何度か読み返しました。そしてこれが、与えたものなのだろうということも察しがつきました。] ……、
[普段ほとんど何にも頓着がない事は自分が一番よく分かっています。その自分が、これほど大事にしていた筈のこと、けれど]
(99) はたけ 2016/10/15(Sat) 21時半頃
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わかりません
[その人をどういう風に思っていたのか、どんな顔で言葉を掛けたのか。 手記を読めば状況はつかめます。けれどその思い出には、色がなく、顔がなく、声もないのです。]
然し、時間がないとは 書いてあったように、体が弱くていらっしゃる、と
[さて、そんな断片的な記憶でも。 私は、私です。その根本の部分だけは、変わりようがありませんから。 会いに行くことを決めるまで、 そう時間はかかりませんでした――。]
(100) はたけ 2016/10/15(Sat) 21時半頃
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―― 小麦畑の逢瀬 ――
天気が良くてよかったです……、いいえ 良かったね
[そうじゃないでしょう、と責めるような目線を感じた気がしたのでそっと訂正しておきました。 折しも季節は秋です。抜けるような青空に、爽やかな風が気持ちよく肌を滑って行きます。]
君の好きな景色が見れて良かったで……良かったね ああ、いやさっきも言ったけれど覚えているわけじゃないんだ 僕の書いた手記にそう、書いてあった
…ごめんね、この喋り方はあまりにも懐かしくて少し慣れないよ
[僕は背中を向けていたので、君の表情はよくわかりませんでしたが風の音に似た声が、笑っていることを教えてくれました。]
不思議な気持ちだよ。 覚えていたらよかったとも思うし、そうでないからこうして話せているような気もする
(101) はたけ 2016/10/15(Sat) 21時半頃
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僕は、君と話すとき、どういう顔をしていた――?
[はじめて、いいや久しぶりに会った君は少女のような笑顔で僕を出迎えてくれて。 僕はこんなに素敵な人に、恋をしていたんだと思うととてもドキドキしたんだよ。]
そう急かさないでくれ、僕もとても緊張しているんだ。
[背を押すようにされれば、大きく息を吸い込んで吐く。 そわそわと落ち着かない君の手を取って、さぁ、踊ろうか。]
(102) はたけ 2016/10/15(Sat) 22時頃
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一曲、お相手願えますか
[恭しい礼は、できなかった。 すこしのぎこちなさが、緊張を弾き飛ばして微笑みを呼び込んできます。 持ち込んだ蓄音機はかなり古いものだったので、時々調子外れな音符を飛ばしました。]
あまり上手ではないから 笑わないでくれよ
[調子外れな音に触って、もし君が僕の足を踏んでしまっても。怒りはしないから。 だから]
いいや、やっぱり笑って欲しいな 君はその顔が、一番素敵だから。
[恥ずかしいけど、そういうことにするよ。 だって言葉に出さなければ、伝わらないんだ。 ぎこちない三拍子は、愛おしく音を刻み、ゆるやかなリズムが、黄金の中で二人を溶かしました。 やがて、空が暮れなずむ頃、蓄音機は静かに動きを止めます。]
(103) はたけ 2016/10/15(Sat) 22時頃
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おかしいね、涙がこぼれてくるんだ。
『心は忘れていても、体は覚えているものよ』
そう、そうだねきっとそうなんだよ
[もし記憶が僕にあったとしても、 きっとこうなったんだろうと思う。]
すまない、もう一曲だけいいかな 今夜のことを、刻みつけておきたいんだ。
[黄金が茜色へと姿を変えても、 蓄音機が三拍子を刻む事をやめても、 今夜だけは、終わりたくない。きっと僕が君が、夢にまでみた、時間だった筈なんだ。]
(104) はたけ 2016/10/15(Sat) 22時頃
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[――彼女のカゾクは、嫌な顔をせず彼女を送り出してくれた。 貴方が言うのなら、大事なそれもお預けしますと。]
結局僕は、君のきらいな僕のままだけど きっと僕は、…いや。
僕は君が、好きだったよ――。
ああ、恥ずかしい、 さぁ、もう一曲だけ付き合っておくれ。 最後の一曲、大事に踊るよ。
(105) はたけ 2016/10/15(Sat) 22時頃
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キミ [ 屍 と ワ ル ツ を ]
ワタシ 『遺影 と ワ ル ツ を 』**
(106) はたけ 2016/10/15(Sat) 22時頃
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ニコラスは、ショコラにお辞儀をした。
milkxxxx 2016/10/15(Sat) 23時頃
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―皆既月食の夜―
[司祭がいなくなった教会。 男が地下へと堕ちたその夜。
館に飾られた一輪と同時刻、 教会で同時に花が咲き乱れる。
そこで、誰かの誓いは交わされることは、 誰かに幸福が訪れることはあっただろうか。
誰かの記憶に。 残ることはできただろうか。]
(107) doron 2016/10/15(Sat) 23時頃
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―それから―
[町に1つ教会がある。 そこには、皆既月食の夜に花開く薔薇の庭園となっているという。
誰からも世話をされずとも、茨を伸ばし、あらゆる場所に絡みついたそれは、 整っていたときよりも、より一層生き生きとしているようにも見えるだろう。
その場所には2つ噂があった。 1つは、その薔薇が開くとき、その薔薇の前で誓いを交わした者達には幸福が訪れるという噂。
そして、もう1つ。
その薔薇が咲き誇るとき、記憶がなくなるものがいるという。
この教会にいた司祭も、その薔薇に記憶を喰われてしまったのではないか。 そう、噂されるようになって、どのくらいだろう。
今夜、また。 この教会は、咲き誇る薔薇に満たされる。*]
(108) doron 2016/10/15(Sat) 23時頃
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―――……と、まぁ。 創り話だがな。
誰の?勿論、私だ。
[グラスを持ち上げ、口をつける。赤い液体が揺れ、香りが運ばれる。
あの事件の後、開放されたのはいつだったか。あの後も、他にも"ショク"が囚われてきたか。
そして、幾度となく記憶を喰われ、いや、自ら差し出したと言ったほうが良いか。
若者から奪うより、年寄りから奪えと。 そこにニコラスの姿はあっただろうか。
記憶が消えたことを自覚したのは、 薔薇の咲き誇る姿を思い出せなかったときだった。]
(109) doron 2016/10/15(Sat) 23時半頃
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[その姿を思い出せなくとも、後悔はなかったが、 やはり、寂しいと思う心もあった。
開放されたのは、いつのことだったか。 恐らくは、餌として役立たぬ。そう判断されたからだろうか。
二口目の葡萄酒に口をつけたとき、 カランと髪飾りが落ちる。
随分と古いそれを見る。 ずっと持ち続けていたそれは、どんな"記憶"を持っていたのだろうか。もはや、何故、これを持っていたのかは分からない。]
(110) doron 2016/10/15(Sat) 23時半頃
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「――…落としましたよ」
[ふ、と顔を上げる。 拾い上げたその手は、自身と同じように。
皺だらけだった。*]
(111) doron 2016/10/15(Sat) 23時半頃
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