191 忘却の箱
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なあ、オマエ────『フリーク・ショウ』って、知ってる、?
[どこか強張った表情で。 絞り出すような声で、言った。]*
(24) 2014/09/10(Wed) 00時半頃
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[手帳を元の、紫のブーケの下に置いて。 ゆらり。立ち上がった男の背中の花を、風が揺らす。 しかし花弁は落ちる事なく、そこに在る。
風は手帳の頁をも捲る。 再会の約束は、そこで–––––– 筆跡のある、最後のページに花弁が入り込む。 それは研究者であった花の花弁か。 少女であった花の花弁か。 彼等以外の、誰かの落とした記憶のひとひらか。 それとも元から花として生まれたものだったか。]
…僕はまだ、まだ、「ひと」みたいだから。 使わせて…もらいます、ね。蕾…の、かた。
[片方にだけ、スリッパを履いて。 代わりに脱いだ靴はどこか樹木か花かの影に置いたまま。 肌寒い中庭から、静かな夜のサナトリウム内へ。 ふと、備品室にその爪先を向けようとしたが…すぐに自室の方へ、回した。 ずっと持っていた半透明の花弁から手を離す。花弁は廊下の隅に転がり揺れる。]
(25) 2014/09/10(Wed) 00時半頃
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奏者 セシルは、メモを貼った。
2014/09/10(Wed) 00時半頃
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…ご機嫌よう、先生
[朝が来て、着替えてから いつものように、赤い頭巾を被り部屋を出る
スティーブンと会ったのはどこだったか 名は忘れたが、見知った顔に挨拶する
ふと、いつもと違う様子を覚えて問うてみる]
…先生、お疲れです? 少し顔色が悪いみたい…もしかして、誰かまた?
[そう、それもここではいつものこと この身に花を咲かす以上 明日は我が身もあり得る訳で
今、自分がこうしていられるのは 未だ順番が来ていないだけで いずれ訪れることは──予め決まっているのだから]
(26) 2014/09/10(Wed) 00時半頃
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[時刻はいつだっただろうか。 夜の廊下を歩く誰かに声をかけられれば、言葉を交わしたであろう。
だが既に彼の頭にはもう、覆い隠す様なタオルは無い。 顔を晒したまま、ゆったりとしたテンポで自室に向かった]*
(27) 2014/09/10(Wed) 01時頃
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[スティーブンから、昨日のことを告げられる
ギターが身近だった青年、書庫にも絵を残していた老人 「疑い」を失って幸せを感じながら眠った少女
さらに、紫のブーケと青い鳥を咲かした元研究者
彼らが立て続けに花で満ちて 根づいてしまったらしいと聞いて、ぽつりと]
…紫のブーケ?
[昨日のページにそんなことがあったような 机の上の瓶に活けたスイトピーの送り主だったはず]
(28) 2014/09/10(Wed) 01時頃
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[二人の様子を、再び背中から見守る。 広葉樹の下に歩み寄る、男の靴の音だけが響く。 いつもと異なる手品の呼び方に男は道化になりきって、節を付けながら唄い出した。]
Brutti ma buoni! そう、僕の『魔法』だ。 今日のは、12時になっても解けないとびきりの。 ……そのビスケットをもう一回叩けば、増えるのは明日の朝食の後だけどね。
[ベンチに腰掛ける二人>>21の姿。 その様子を見て、ようやく男はまともに微笑む。]
木の下のベンチに座ってもいいのは、男性と女性の二人だけ。 演者は舞台袖で互いの空気を繋いで––––…え?
[二人きりにさせようとしたところにビスケットの欠片を押し付けられる>>22。 戸惑っているうちに口の中に押し込めらられば、口を動かしながらおとなしくシーシャの隣に並んだだろう。
ビスケットって、こんな味だったっけ。 それは思ったよりも味がしなかった。]
(29) 2014/09/10(Wed) 01時頃
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[沈黙。 重苦しいとは感じない。 男も相手>>23>>24も前を見据えて、時折手持ち無沙汰に箱のベルトを弄っていた。
開いた口から出てくる言葉は、何処か重い。 心臓が拍を打つ準備をしている。
しかし、机の上に並べるような語り口から単に自分を見たかもしれないと言うだけで。 なんだ、そんなの何時でも言ってくれて良かったのに、なんて
『フリーク・ショー』
思った瞬間 の 一言。 長い沈黙。]
………知ってるよ。 でも、どうして突然?
(30) 2014/09/10(Wed) 01時頃
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[思い出そうとする。 覚えているのか、教えてもらったのか定かではない何かを。
左腕に、別れを告げる前のこと。 まだ僕が、自分をよく分かっていた頃。
拍手。 観客の笑顔。笑顔。笑顔。
笑顔………だっただろう?
だって、そのために、僕は、 歌を 歌 っ て ]
……………そろそろ、演奏しなきゃ…
[フラリ。立ち上がる。 空気のような声が漏れる。]
(31) 2014/09/10(Wed) 01時頃
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──『まだ』、あんのかな、って。…今でも。
[戸惑うようなヤニクの答え。サーカスの一団に居たのなら、なおさらソレ≠ノ好い響きは感じなかったかもしれない。
芸とは違う、浅ましい見世物小屋。 ひとかけらの自由も与えられず、泣き暮らしながら、それでも憧れた。外の世界に。]
あ──…悪ぃ、やっぱあんま面白いハナシじゃねぇな。そもそもあんま覚えてねえし。無し。いまのナシな。
[ゆるく首を振って、ヤニクを見る。 ふらふらと立ち上がった男の声は、どことなく夢の中をさまようようで。>>31 中庭を染めぬいた金色の夕日の中、その横顔に、いまより少し幼さの残る彼の姿が重なった。
雨の日曜日。サーカス。テント。きらきらと、眩しいくらいに煌びやかな照明と。アコーディオンの音。赤いフード。鮮烈な、一枚の記憶。 青年は目を細める。哀しげに、少し、いとおしそうに。]
ずっとな。オマエのシャツに名前書いたあの日から。ずっと。 ──オマエが、ここに、来なけりゃ良かったのにって。思ってたよ。
(32) 2014/09/10(Wed) 01時半頃
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[スティーブンから問いかけられ 少し考えながら]
…書庫でよく見た、先生かしら
[昨日、何について話したか 日記を見た限りでは、いつも通りに花の話題 それくらいしか記述はなかったのだが、そう答える]
花言葉に詳しくて… 確か、昨日はスイトピーを下さった けど…どうしてだったかしら?
[昨日、話した言葉は記憶の隙間から いとも容易く、こぼれ落ちていた故に その理由も、もちろん分かるはずもなく
ただ、首を傾げるだけであった]
(33) 2014/09/10(Wed) 01時半頃
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––何処かのファイルの隙間––
[カルテ添付資料/治療上の注意事項
花に向かって、怒鳴る。吼える。 逃げる気か、俺が俺という理由を奪う気か、等と叫び 誰彼構わず掴み掛かる為、他患者と隔離する事。 激昂し、奪い返そうと攻撃的反応を見せるため、 花弁の採取・掃除を行ってはならない。 感情が昂れば昂る程、花が多量に発生し それだけ人体が損傷する。 一定間隔で鎮静剤等を使用する。 耐性が早々と付かない様、量に注意。]
[––––施設に運ばれてきた時、その患者は。 名前を聞いても、答えられずに。 車のルームミラーに映る、自分の顔に怯えていたのだけれど。]
(34) 2014/09/10(Wed) 02時頃
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[片腕の垂れ下がったパーカーを見るたびに。 器用に片手で食事をする彼を見るたびに。憧れたサーカスの、その象徴のような、赤いフードを見るたびに。
サナトリウムに来る前の青年が憧れた、『外の世界』の、それ。なぜそれが、この箱の中にあるのだろうと。理不尽な怒りが、切なさが、どうにもぶり返して。 毛嫌いというわけでは無いけれど、男へのアタリはキツかった自覚がある。]
(八つ当たり。だよなぁ。…だっせぇ。)
[それでも。それでも、彼の演奏を聴くのは。低い声が、唄うのを聴くのは。]
なあ。 弾いてくれよ。唄っててくれ。オレは、前のオマエも今のオマエも──、
[忘れないから。
言って、願う。どうか彼の花が、今以上に咲かないように、と。今も鮮明に残るあのサーカスが、ずっと途切れないように、と──叶う筈のない願いを。]*
(35) 2014/09/10(Wed) 02時頃
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[『謎掛けをしよう。』 頭に響くのは自分の声。
ステージの上のスポットライトは橙色だったか? 溶け入りそうな橙色は夕日だったか? 聴いた気がしたギターの音色は 紫色の暗幕の向こう側は 濃紺の影に潜む青年は誰だったか?
……シーシャの声>>32は、少女から仄かに薫る花の匂いに紛れて消えた。 フラリと立ち上がる。 所在の無い左袖が 揺れて。
立ち去る際、相手の言葉>>35を背中で受け止める。
"来なけりゃ良かったのに、って" 僕もそう思うよ。 でも、もう此処に居ない未来なんて想像出来ない。 彼と出会わず、彼女の開花を見届けない、そんな時間が訪れない世界は、過去の何処かに置き去りにしてしまった。]
(36) 2014/09/10(Wed) 03時頃
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["弾いててくれ"
目を開いて、ゆっくりと振り返る。 陽光を挟んだ向こう側にいる彼らは、広葉樹が影になって顔がよく見えなかった。]
鳥が棲家に帰るまでの演奏は、ペラジー…君の為に。 その後の演奏は、…………、
[上手く言葉が出てこなかった。 口上だけは得意なつもりだったのに、可笑しいな。
言葉にしないまま、彼に向かって微笑んだ。 その顔が、診察室で見たシーシャのものと似ている事には気がつかない。
そうして踵を返すと、男は箱の中へと消えていった。*]
(37) 2014/09/10(Wed) 03時頃
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[送り主について 他に覚えていることはあっただろうか?
なけなしの記憶を 手繰り寄せようとしてみれば 左手首に痛みの警鐘が鳴り響く
それに驚き手首に視線を移すと 蔓は伸び、棘が肌に食い込み、花はより深く赤く 強い香りを放って、艶やかに咲き誇っていて
その姿に思わず顔を強張らせる スティーブンは何かをいったのならば]
(38) 2014/09/10(Wed) 04時半頃
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[意識。 終わりはなく始まりはなく未来はなく過去はない。 ただ 今 ここに 意識だけがある。
思考。 それは散って行く花びらのような儚いもの。
感覚。 今ここにあるもの。確かなもの。]
(+3) 2014/09/10(Wed) 04時半頃
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[明るさを感じる。 柔らかい 温かい明るさ。 花が光に笑う。少女も笑う。 笑った つもりで。
もう その笑顔は咲き誇る花が持って行った。
樹のにおい。なかま。 触れる何か。とりだされたなにか>>21
わからなかったけれど。 髪を撫でる手の感覚だけは、わかった。
花は咲いている。]
(+4) 2014/09/10(Wed) 04時半頃
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…大丈夫、すぐに治ります
[と、答えてしばらく痛みを堪えていたか
大丈夫、じきに忘れる 通り過ぎ行く嵐と同じようなもの 過ぎてしまえば、なかったことになるのだから
これも、きっと多分 いつも通りのことなのだろうから
そして、その通りになった後 スティーブンから問われてこう返してから どこかへふらりと向かって行く]
…ほら、なんともないでしょ?**
(39) 2014/09/10(Wed) 04時半頃
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―記憶・忘れられた場所―
[そこでは食べるものはなかった。 家族 は それは、多分鉛の弾に撃ち抜かれたり。 知らない場所に売られて行ったり。
そういう存在があるということはわからなかった。
暗い路地。 食事にありつけると聞いて。ついていった。 暴力があった。怒声があった。 千切れたパンのかけら。 身体中の痛みを耐えて食べた。
突きつけられたナイフ。 必死に逃げた。足がもつれた。
信じられるものは何もなかった。]
(+5) 2014/09/10(Wed) 04時半頃
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お針子 ジリヤは、メモを貼った。
2014/09/10(Wed) 04時半頃
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[死が直ぐ側にあった。どうやって生きるか。 狡猾さと疑心が必要だった。 嘘と言うナイフを人と人は突きつけ合っていた。
そんな頃。
花が 咲き始めた。]
(+6) 2014/09/10(Wed) 05時頃
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[花を咲かせる人間を蒐集する好事家。 そこに、少女は売られた。 疑いなく。売られたという自覚もなく。
狭い部屋。 静寂。 長い時間。
疑心がない事に気付いた主が、 花を愛でるように 何度も少女を騙した。 それは、時にはひどく ひどく少女を傷つけるもので]
(+7) 2014/09/10(Wed) 05時頃
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[……警官隊。怒号。喧噪。 医者を、という声。
保護されたとき 少女は泣いていた。**]
(+8) 2014/09/10(Wed) 05時頃
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[ヤニクが出て行った中庭に、暫しそのまま佇んでいた。 去り際の男の顔が、泣き笑いみたいで。>>37 押し付けに近い願いが叶うことが無いのは、彼も自分も百も承知だ。明日も、明後日も。そんな保証はひとつもないのに、いつもいつも、本当に言いたいことは上手く伝えられない。]
──…憧れてたんだ。 オマエは、俺にとって、外の風景だったから。
[今更落ちた言葉は、砂を噛むようで。 瞼の裏では、あの夜のサーカスが、今も躍る。]
(40) 2014/09/10(Wed) 08時半頃
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…ん。冷えるよな。部屋、戻るか。
[沈んだ日に少し身震いして。 もう一度、隣の少女を抱き上げた。ゆっくり中庭を一周まわり、それから彼女の部屋へと向かう。]
おやすみ。……チビ助。
[ベッドに寝かせたペラジーの頬を、名残り惜しげに一度撫でる。 纏い付くように咲いた彼女の花を、そうっと、一輪だけ摘んだ。 傍を離れて、また廊下を歩く。
途中、すれ違ったスタッフに、少女を頼むと医師への伝言をして。 ──何処かで唄は、楽器の音は、鳴っていただろうか。自室へと向かう青年の足取りは、まるで幽鬼のようだった。]**
(41) 2014/09/10(Wed) 08時半頃
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―中庭―
[しゃり、と齧ったリンゴの味を、忘れないうちに。 対価に失った記憶が、分からなくならない内に。 記録を、残さなくては。 そんな使命感に似た気持ちから、立ち上がり>>3:114。 誰かがやって来る足音>>12に、ぼんやりと視線を向ける。
何故だかそこに、いてはいけない気がして。 たっと駆けて、その場を後にする。 彼らが入ってくる別の扉から、中庭を出て、その扉を閉め。 預けた背中の向こう側、何かの気配を感じて。]
…おやすみ。
[誰にともなく呟いたのだった。
きっと、誰かが永眠りについたのだと、察して。]
(42) 2014/09/10(Wed) 10時半頃
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――… 涙流れて どこどこ行くの… 愛も流れて どこどこ行くの… そんな流れを この内に… 花として 花として 迎えてあげたい…――
[口をついて出た歌を、密やかに静かに、口ずさみ。 あの扉の向こうで、花となったのは誰だろうと、ぼんやりと思う。
廊下を進み、自室へと帰ると、まっすぐにコルクボードへと向かい、増やせない写真の代わりに、減らすことになるのだろう写真を眺めて。 ため息を一つ着く。]
(43) 2014/09/10(Wed) 10時半頃
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[人は、彼女を優しいというのかもしれない。 けれど実の所、あんな言葉は、あんなことは、誰にでもできるようなことだと、彼女自身は思っている。 性格故か、幼いころは敵を作りがちだった彼女の身に着けた、処世術。 ただ、それだけだった。
忘れたくない、失う記憶を手放したくないから。そんな言葉の裏腹で。 その処世術の一環として、共に生活する人たちの名前が呼べないと困るから作ったのがこのコルクボード。 本当に忘れたくないのか、と言われると、厳密には違うと思う。 そんな、純粋な、ものじゃない。
ただ、ここで、生きていくため。 必要だから、やることだった。]
…忘れられるのは、辛いもの…
(44) 2014/09/10(Wed) 10時半頃
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[枕元のノートを広げ、ぱらぱらとめくって行く。 赤の入っていないページは、あと僅か。 探すのも大分、楽になってしまった。
最初は、無くした記憶を探すのにも、苦労したものだけど。]
…あぁ。
[止まった先のページを眺め、彼女は目元を緩める。 あの人に、手料理をふるまった時の話だ。 それは何度目だったかはもう、分からないけれど。
一生懸命に料理本とにらめっこして、作ったのに、どうしても写真の通りにならなくて。 泣く泣くそれを出したけれど、一口食べたあの人は、見てくれの割に味はまともなんだよなぁ、と。 撫でてくれた指先の感触を、もう、思い出せない。]
(45) 2014/09/10(Wed) 10時半頃
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…ッ…!
[きゅう、と痛む胸を強く抑え、固く目をつぶる。 思い出せない。 それがどれだけ苦しい事か、もう十分に知っている。 今更、そう、今更よ。]
…分かってる…ッ
[忘れた分の思い出を、新たに継ぎ足せればどんなに良いか。 そう願っても、あの家を捨てた日に、そんなことはとうに覚悟していたはずで、 だって、あの人が、忘れられてしまった時にどんな顔をするか、容易に想像できてしまって、 そんな顔、させたくなくて、 だって、それは、とっても辛いから、 だから
あぁでももう思い出は、たったの2ページしかない…!]
(46) 2014/09/10(Wed) 10時半頃
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やだ、やだよ 私、あなたのこと忘れたくないよ 他の全部捨てても良い あなたのこと、あなたの事だけは まだ、まだ忘れたくない…!
[部屋の外へ聞こえないよう、押し殺された嗚咽は、彼女の胸を更に押しつぶす。 彼女の症状が割合軽いのは、病気の初期段階から真面目に治療を受けていたから。 それは、あの人との約束でもあったし、一日でも長くあの人を胸の内に残しておきたかったから。 けれど、それが、叶わないなら。]
…お花になったのは、誰かしら。 大切な記憶を失って尚、生き延びるくらいなら、いっそ…
(47) 2014/09/10(Wed) 11時頃
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