88 吸血鬼の城 殲滅篇
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[楽しそうな…晴れやかな、初めて見るジェフリーの表情に自然と視線が吸い寄せられる。 そうしてじっと見ていると、耳元で伝えたばかりの真名が囁かれた。]
え…それ、が、命令なのですか? ジェフリーさ……… [言われた直後に早速噛んだ。常に相手を様づけする習慣がついていた為、意外とこれが難しい。]
………はい、ジェフ。
……これから、そう、呼ばせて頂きます。
[返事をしたのと空中散歩が終了したのは、 ほぼ同時のことだった**]
(264) uyuki 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[指を伸ばそうとした。 ………凝る闇に。 濃密な薔薇の芳香のする場所に。]
(でもさ) (……アンタの、元に戻るなら)
(265) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[最後に感じたのは、小さな苦笑い。 酷く愛しいものに、向けるような。]
(――それでも、俺は……)
(266) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[薔薇色の闇を注がれて、 緩やかに灰は凝る。
生き物の様に始祖の血液は石床を這い回り、 さらさらとした砂を赤黒い泥に変えていった。 ――ゆるり、と、泥がその表面を震わせる。 紅色の泥は表面を泡立たせながら流れ、 混ざり、自らを攪拌していく。 ゆっくりと――ひとりの男のカタチへと。]
(267) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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………、――
[ばさりと、 ……羽ばたきのような音。 立ち尽くす男の姿は、 砂となる前と、殆ど変わらないように見えた。
左眼を覆う眼帯。 纏う実用的な軽装は色を漆黒に変じて、 蝙蝠の羽の様に長い裾を、 ゆるりと引いている。]
(268) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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………。
[わずかに頤が上げられ、 酷く無表情な、昏い紅が、 眼前の男の顔を見遣る。 ――隻眼の男は優雅に膝を付いた。 祈るように頭を垂れる]
我が君。 ――みたびの祝福に感謝いたします。
(269) tatsuru 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[血を介した交歓が呼び覚ましたクラリッサの揺らめき。 潤む瞳と甘い陶酔の表情を目にして、ヒューの裡に掻き立てられたのは、まだ官能を知らぬゆえに危険のない憧憬。
あえかなその放埒の一瞬を、ただ手の届かない美しさと思った。]
(270) enju 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[送られた優しい言葉と約束に、もう一度、クラリッサ前に膝をついて頭を垂れる。]
そのお言葉を胸に刻み、 夜の影、風の刃となって御身、お護りさせていただきます。
── 我が血と魂(ヒュー)にかけて。
(271) enju 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[ポケットの中で何か鳴った気がして、指を差し入れる。 取り出してみれば、紅玉の髪飾りであった。]
あぁ──これを。 ドナルド・ジャンニから託されました。
[彼は「アンタが持ってるべきだ」と渡してくれたのだけれど、それを本来の持ち主に返さないという選択肢は実直な騎士にあろうはずもなく、両手を添えてクラリッサに差し出す。]
(272) enju 2012/05/06(Sun) 22時頃
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先代から、お聞き及びでしょうか。 おれとドナルドは、いまや「血の兄弟」です。
[今、彼が彷徨う苦界は知らず。 結ばれた絆を、どこか喜ばしげに知らせる。]
(273) enju 2012/05/06(Sun) 22時頃
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どうか、彼にもお言葉を賜らんことを。
…照れてフテくされるかもしれませんが、彼の居場所は──きっと、
これから、ここに。 おれたちと 共に。
(274) enju 2012/05/06(Sun) 22時頃
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[血を吸い込み、赤黒く染まっていく灰。 始源の大地のように、命を産んだ海のように、 泡立ち、さざなみ、蠢いて渦を巻く。
その変化を全て焼き付けるように 鮮紅の瞳は、瞬きひとつ無く見開かれていた。
やがて泥は自ずから凝り、立ち上がり、 ゆっくりと形を成していき―――]
(275) nekomichi 2012/05/06(Sun) 22時半頃
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[殻砕くように闇を払って、一人の男が姿を現した。
纏う衣は闇の色。 変わらぬ隻眼に宿るのは昏い紅。
立ち居振る舞いも優雅に、 闇の貴族たるに相応しき所作。
跪いての言葉に頷き、 その頭上に、無傷なほうの手を翳す。]
(276) nekomichi 2012/05/06(Sun) 22時半頃
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良く戻ってきた。 ドナルド・ジャンニ。
[名を呼ぶのは絆を確認するため。 そして、]
――― 言ってみろ。 おまえにとっての、オレはなんだ?
[我が君と、その呼びかけを押して、さらに問う。 未だ感情見せぬその心の奥に、何が残り、何が芽生えたのか、 それを確かめるがために。]
(277) nekomichi 2012/05/06(Sun) 22時半頃
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>>272 ――…、…。
[紡がれた名前に伏せた瞼が震えた。 頭は更に深く垂れ、 翳された掌は信徒に祝福を与える聖者のものの様。]
――我が主。 我が父。 我が魂を泥より創りし者。
……して、――
[最後に、小さく唇が震える。
それは、きちんとした言葉にならず消え 薄い唇がゆっくりと引き締められた]
(278) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[問いに答える声は、平坦で硬質。 紡がれた言葉は、用意されたように整っている。
全ては儀式の続き。 命を与え、 命を創り出す、 闇の洗礼の一環。
最後の、ひとかけらを除いては。]
(279) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時頃
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―――― …上出来だ。
[ひとつ息をついて、手を下ろす。 それは溜息などではなく、 厳粛な空気を吹き飛ばす合図。
頭上に翳された手がそのまま黒衣の腕を掴み、 いささか強引に立ち上がらせる。
次の瞬間、 両腕の間に細身の身体を抱きしめていた。]
(280) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時頃
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良く、戻ってきた。
[最初に告げたものと同じ言葉が、 まるで違う色を以て口にされる。 感慨深く、安堵の色さえ滲ませて。
抱きしめていたのはほんの一瞬か、もうしばらくか。 ばしりと息子の背中を叩いて、解放した。]
おまえが戻ってきてくれりゃあ、 まずは満足だ。
[そんな言葉と、にやりとした笑みと共に。]
(281) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[女の身に生じた熱は 首筋に穿たれた跡が薄れゆくと同じ速度でひいてゆく。 其処に在る赤い雫だけが吸血という行為の名残。 女に傅き誓う騎士にゆると一つ頷いて]
――…私の、唯一の騎士・ヒュー 頼りにしています
[其の忠節に足る人物であろうと背筋を正した]
(282) helmut 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[ヒューが差し出すは物見塔の屋上で失くした髪飾り。 騎士の両の手に触れ紅玉輝く飾りを受け取り]
大事な、祖母の形見の品なの 届けてくれてありがとう、ヒュー
――…嗚呼 ドナルドにもお礼を言わなきゃ、ね
[自らの最期は覚えているが気にする素振りはなく “血の兄弟”知らせる騎士に不思議そうに瞬いた]
私が不在の間に何があったか 茶会の席ででもゆっくり聞かせて頂戴
(283) helmut 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[ヒューとドナルドが兄弟であるなら 本来ならば自分もまた同じ位置にあるはず。 けれど騎士と主というそれまでの関係を崩そうとは思わぬのか 其の点には言及せずにおく]
ドナルドに逢いにゆきましょうか 共に、在るならば、…… 新しき同胞に挨拶しなくては、ね
[騎士に立つよう促す仕草をみせ、彼のエスコートを待つ様子。 ふ、と思い出したように女は再び口を開き]
討伐隊にいたエリアスという娘を覚えていて? 彼女も此処で過ごすことになるから――… 仲良くしてくれると嬉しいわ
(284) helmut 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[腕を掴み、引き摺り上げる手に 僅かに跳ねる息。
――両腕が背に回り、 囲い込まれる様に抱きしめられる。 暫く身を硬くしていたが、 ……やがて委ねるように力を抜いた。]
…………。 光栄です。
[酷くのろのろと、そう答える。
ぎこちなく逸らされた視線。 抑えた声音。]
俺は、……貴方のお傍に。
(285) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[息子から返る反応に、 ふつ、と小さく心が泡立つ。
だがそれを表に出すことはしなかった。 望んだことだ。 自分が。]
―――どうした? なにか不満だって顔してるぞ?
[揶揄する口調で問いかける。 それでも、わずかに棘は滲み、]
蘇らせられるのがいやだったか?
[言いつのりかける口を、閉ざす。]
(286) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[男の腕が離されると、 まるで安堵したように息が漏れる。
触れられる事は、予想外だった。 鼓動が跳ねる事を知られては、ならなかった。
生まれ変わる前の自分が出した、 ――臆病な結論を、繰り返さない為に]
(287) tatsuru 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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― 数日後 ―
[ここはガストンの住処であり、 ジェフリーがハンターとしての修練を積んだ場所でもある。 彼は今、何かを探すように机の引き出しや本棚。 果ては本1冊に至るまで、丹念に調べていた]
全く……。 大体がヘクターが復活するかも知れないと危惧していたのなら、 あなたが永遠に封印する方法を、探して実行していれば、 私が奴の討伐に行く必要もなかったのだ。
無論、マティアスと逢えることも無かっただろうから、 悪いことばかりでもないが……。
[そう口にしたことに気づくと、罪悪感を覚える。 信仰心の篤い彼が、そのまま神の恩寵を受けられていたのなら それこそ喜ばしいことなのだから]
(288) el900m 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[頭を左右に振って、芽生えた物思いを消すと、 再び、探しものをはじめる。
実行はされていなくても、どこかにヘクターを倒す方法があれば、 と僅かな可能性に掛けたのだ]
……ん?
[パラパラと頁を捲っていた本から、ひらりと1枚の紙が落ちた。 拾い上げると、間違いなく師の筆跡のようだ。 何気なく目を走らせていくうちに顔色が変わってゆく]
(289) el900m 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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『ジェフリーへ
……俺は、吸血鬼に血を吸われてしまったことがある。
もちろん、俺が、そんじょそこらの吸血鬼に引けをとるはずがない。
といったらわかるだろう。 俺の血を吸った奴の名はヘクター・ロックウェル。 あの最強の吸血鬼様だ。
別に隠す必要もないのかもしれない。 だが……。ほんの少し吸われたというだけでも、 後ろめたいことは事実だ。
だから、こうして手紙という形で告白する。 これは賭けのようなものだ。
――俺はお前にこの告白をみつけて欲しいと思っている
ガストン・ワイルダー』
(290) el900m 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[クラリッサの唇をこぼれる礼の言葉、眼差しに触れる度に灯火のともる気がする。]
はい、話はいずれ。
[ゆったりとした時のあること、それが嬉しい。 討伐隊のエリアスという名にはすぐには反応できずにいたものの、容姿を聞けば頷く。 最後に見たときは亡骸だったが、優しい魔法が施されたのだろうと。]
承知しました。 その話も──お聞かせください。
(291) enju 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[ややあってくしゃりと手紙を丸めると、ランプの火に翳した。 みるみるうちに手紙は灰になって、後には何も残らない]
……くそっ。
[形見のペンダントを、服の中から取り出して握りしめる。
師がそれを告げられなかった理由はなんとなくわかる。 吸血鬼の牙が食い込んだだけで、神の恩寵を失ったと感じたのだ。 信心深いものなら大多数がそう思うだろう。
そうであれば、ますます負けられなかったのに―― 握り拳を作ると、机をがつんと叩き]
ヘクター……。 どうやらますますお前を倒す理由が出来たな。
[そうひとりごちた。 結局、師の住処ではそれ以上のものは見つからなかった**]
(292) el900m 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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では、参ります、姫。
[露払いするように、クラリッサの斜め前方に立って歩き出す。 これからの長い時の 第一歩を。***]
(293) enju 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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