147 書架の鳥籠
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[ 皆と違う場所。
墜ちていく声は拾いづらく]
――…、また 逃げるのかい。
私の前からも消えて、誰の前からも消えて…
逃げる事で罪を背負うと、 いうのかい。
[疑問符のつけず語尾を上げない聲。]
シメオン君、
[説得する言葉はいくらでも出てくる。
敢えて自分の身の上話もしてこなかった。
あるはずのない命の天秤にいくつも命を乗せてきた。
同情を誘うつもりなど毛頭なくて
唯、思うままに言葉にするなら ―――]
…シメオン君。
君が逝ってしまっては、私は さみしいよ。
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[オズワルドの手を握りながら、シメオンの手に触れます。 すると、彼の黒さに引きずられるように、私の指先も黒く染まり始めました。]
!
[私は驚きましたが、染まったことよりも、突然シメオンに手をはじかれたことと、オズワルドがつないだ手に力を込めたことに驚きました。]
(86) es 2013/10/11(Fri) 21時半頃
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ど、どうして? ……私、黒くなったって構いやしないのに!
[私は再度シメオンに手を伸ばします。]
(87) es 2013/10/11(Fri) 21時半頃
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[シメオンは私と似ているんだって言いました。 その時、私は否定しましたが……
私は自分のことばかり考えていました。 何も分かろうとせず、ただこわいこわいと逃げたのです。 なんて身勝手だったのでしょう。
だから、どうしてシメオンだけがこんなに黒くなってしまったのか。 まるで彼だけが責められているようなありさまに、 そして受け入れようとしている彼に対し、 私は怒りを感じたのです。]
(88) es 2013/10/11(Fri) 22時頃
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わ、私は……汚いの、シメオン。 でも、汚くてもいいって、思えたの。
あなたは、汚い私のこと、嫌い?
[強引にシメオンの手を握りました。 私だって彼と似ていて、身勝手な子どもですから。
影で染まる私の体。 それがどうしたというのでしょう。 これは私の内側の色。 私の影なのですから!]
(89) es 2013/10/11(Fri) 22時頃
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私にも影はあるわ! だって、天使なんかじゃない!
でも、悪魔でもないわ! 私は私だもの!
だから、天国でも地獄でもないところに行くの! ……虹の向こう!
そう、虹の向こう、遠いとこに行くの!
(90) es 2013/10/11(Fri) 22時頃
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あなただって行けるわ、シメオン!
(91) es 2013/10/11(Fri) 22時頃
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――……。
[それは違う、けれどそうとしか見えないのだろう。
敢えて何も言わなかった、理解される必要は無いと、自分のことなど忘れればいいのだと。
やがて諦めるだろうと思っていたから]
……悪いね。
来世があるなら、こんな大人の言うことを聞かない子供は持たないようにね。
謝ることはないさ。
…、来世、か。
そのようなものを
考えてもいなかった。
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[シメオンは私の手を、再度離しました。 そして途切れ途切れの声で、私の名前をレの音を抜いて呼び、 拒絶を伝えてきたのです。]
(116) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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っなんで!なん……
――! んー、んー!!
[私はオズワルドに引き寄せられ、口をふさがれました。 それが悔しくて悔しくて、私の視界は再びぼやけました。 けれど、オズワルドもシメオンも、何かを理解しあっているようです。 私には分からない、何かを。
耳にざらつく音をまとったシメオンは、それでも先ほどの雰囲気よりも、ずっと穏やかで。 まるで、笑っているみたい。 私の知っている、あの笑顔。]
(117) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[まだ行けない。
曇天の合間にのぞく光のような言葉は、まっすぐ。]
(118) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[だけど、やっぱり私は悔しくて悔しくて。 涙をぼろぼろ流しながら、オズワルドとつないだ手に力を込めました。]
(119) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[でも、シメオンが決心したのなら。 オズワルドも、応援すると言っているなら。 大丈夫なのでしょう。
……大丈夫って、何が大丈夫なのかしら?]
(120) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[……私が彼らを信じているから、大丈夫だと思えるのです。]
(121) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[オズワルドの手から私のわがままな口が解放されます。 そしてオズワルドがあのポーズを取るのを傍らで見上げた後、左右対称になるようにポーズをまねてみました。 今度こそ、上手く出来ているといいのですが。]
また、ね。
(122) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[鎖でつながれたその姿は、見ていて胸が苦しくなります。 だけど、せめて精一杯の笑顔を浮かべて、やがて元の色を取り戻したシメオンに言いました。]
好きよ、シメオン。私のもう1人。
[さようなら。]
(123) es 2013/10/12(Sat) 00時半頃
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[とん、と肩を叩かれるような音に、私は振り向きました。 私の足下に、2冊の本が転がっています。
水の精の物語と、もう1冊は見たことの無い……
いえ、誰よりも知っています。 暗い森の木の葉の音が聞こえてきそうな装丁なので。 本の題名は、言わずもがなでしょう。 そういえば、私の名前は「喜び」の意を持つと両親に聞いたことがあります。 あの時は、なんて似合わない名なのだと肩を落としたものでしたが。]
(128) es 2013/10/12(Sat) 01時頃
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[オズワルドの手を離してしゃがみこんだ私は、私の本を開きました。 すると、本はたちまち青い鳥になって、どこかに飛んで行ってしまいました。
まるで、鳥籠から出て、自由に青空を目指すかのように。
魔女の呪いを解かずじまいに死んだ私ですが、どうか私の両親が嘆きませんように。 だって、私は今、とても喜ばしい思いでいっぱいなのですから。]
(130) es 2013/10/12(Sat) 01時頃
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[私は水の精の物語をそっと撫でてから立ち上がると、オズワルドの正面から彼の腰に両手を回して力いっぱい抱きつきました。 彼のお腹に顔を埋めて、それから彼のおひげを見上げて、
言葉にできないこの思いが、せめて笑顔で伝わりますように。]
(131) es 2013/10/12(Sat) 01時頃
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[もう私は、聖歌を歌って祈ることはしません。
そうではなくて、……そう、おとぎ話のような、子どもの思いつきのような歌を歌いながら行くの。
どこにだって行けるのだから。]
(132) es 2013/10/12(Sat) 01時頃
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[片手でポケットの中の宝石を取り出し、放り投げました。
虹の光をきらきら反射させながら、 空高く吸い込まれていくわ……。
虹の後を追い、その向こうへ*]
(146) es 2013/10/12(Sat) 01時半頃
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[子犬の目は道行く人間達に注がれている、誰かを探すように]
(迎えに来てよ、待ってるからさ――*)
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