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[アヴァロンの情報網は伊達では無かったようだ。
こうやって二体の魔物を集められたのだから。
魔物に堕ちる事は恥ずべき事。
狩られるのは当然の事。
知ってはいるが。
受け入れるつもりなどない]
俺を止めてくれる奴はもういない。
[右腕の中にさえも]
…?
何、これ。
[聞こえてきたのは、自分のものとは違う男の声。
その声は…殺せと言った。]
…そうだな。殺さなきゃ。
[この村から逃げられないのならば、仲間に追われるくらいなら、いっそ一思いに。]
/*
すみません、もう少し待っておけば…!
了解致しました。
同じ穴の狢の声も判らねえのか。
[戸惑う声に呆れたように返す。
堕ちた時から誰かと群れるのは避けて来たのに。
まさか魔物側にもまだ誰かいたとは思わなかった、
と言うのが本音だ]
[雨の中、自分を追う者はいただろうか。
水飛沫が上がるのも気にせずに駆ける。
ヴェスパタインの居場所は聞いていない。
けれど魔物の嗅覚をもってすれば、‘標的’の居場所は特定出来るだろう。
―雨の中ゆえ、少し時間はかかるかもしれないが。**]
癒す力…あの時それがあれば。
[ソフィアの能力を聞いて羨んだ。
その力を持ってしても叶わぬ願いなのに。
黒く染まった右手を見つめる。
喰らった中に癒しの力を持つ者はいなかった]
あの女を喰えば…叶うだろうか。
同じ穴の狢…。
[呆れたように返された言葉をおうむ返しに繰り返し、暫く沈黙する。
理解出来なかったわけではない。
魔物の声は時折自分の耳に届いていたから。
けれど、こんな風に意味を成す言葉を交わす事が出来たのは初めてだった。
自分も、まさかもう一人魔物が紛れていたとは思っていなかった為に。]
…じゃあ、あんたも追いかけられる側か。
ホレーショーさんで合ってる?
[この声はヴェラではない。
ヴェスパタインでも、ヤニクでもなければ。
残るのはまだ言葉をあまり交わしていないホレーショーだけ。]
―ソフィア?
癒す力を持ってるのは厄介だから、早めに潰しておいた方が良いと思うけど。
[耳に入ってきた言葉に何の気なしに割り込ませたのは、ヴェラの事で彼女に向けた感謝の感情を忘れたかのようなもの。
味方に回る分にはいいが、敵に回るのならば厄介だと。]
追い掛けられてる覚えは無い。
[聞こえる声に返すのは、他の魔法使いに掛けるものと同じ声色。
『聖杯』に導かれ魔物と化した連中は大体言葉は通じなかった。
確かにこうやって言葉を交わせるのは珍しい事だろうが]
間違っては無い。
[同じ狢でも、突き放す様に答えるのは近付けないため。
もう喪うものは無い筈だから。
わざわざ喪いそうなものを作る必要は無い]
― 回想・弟を糧にした日 ―
[2年前。
仲のよさそうな家族が何組も殺されるという猟奇事件があった。
それはどう見ても人の仕業ではなく、人型の魔物の仕業だという。
対処の為に、俺とヴェスパタインは派遣された。
初めて見たその時にはそれが弟だとは分からなかった。
分かりたくなかったのかもしれない。
弟が、魔物になってしまったなんて―…。]
[弟は、孤児院にいた時によく読んでやった童話の動物が融合したキメラの姿をしていた。
とうさん
かあさん
どこにいるの?
…どこにもいない。
僕の家族を返して!!
暴走して襲い掛かって来た‘魔物’をヴェスパタインと二人で対処した。
けれど戦っている内に分かった。
―これは俺の弟だと。
瀕死の状態となって人間に戻った弟を、ヴェスパタインは俺の糧にしろと言った。
普段から、率先して人型の魔物を生贄にしようとしない俺に譲ったのだと思う。
けれど。
生贄にするには、あまりに残酷な相手だった。]
[弟に向かって右手をかざす。
躊躇している俺に、ヴェスパタインが声を掛けてきた。
「―イアン。分かっているとは思うが、魔物の救済は重罪だぞ。」
びくり、と肩が揺れる。
頭をよぎった事を見透かされたような気がした。
「早くしろ。息絶えてしまう前に、お前の糧に。」
俺は目を固く閉じて、弟を生贄にした。
目を閉じる寸前、あいつは微かに笑っていた。
にいさん、と唇が動いた気が、した。
―その顔は、今も目に焼き付いて離れない。]
[頭では理解している。
魔物は死ななければ、絶える事のない渇きに襲われ続ける。
自分達に狩られる事が、彼にとっての‘救済’だったのだと。
それでも、弟を自分の糧にした事を正当化する事は出来なかった。
何故、弟を生贄にしなければならなかった。
何故、魔物だった人間を救済してはならない。
アヴァロンの掟を憎んだ。*]
― そして、魔性に ―
[アヴァロンの為に働く事に迷いを抱えたまま、一人で臨んだ任務に苦戦し。
普段は後れを取らない魔物に覆い被さられ。
無茶な戦い方をした所為で魔力の尽きた俺の前に‘それ’は現れた。
宙に浮かぶ白く輝く杯。
―頭に直接届く言葉。
『代償を捧げよ。さらば汝の望みを叶えてやろう。』
俺が望み、捧げたものは。]
[望んだものは、あんな不条理な掟をねじ伏せる事の出来る強い力。
捧げたものは、この身の成長。]
[気が付いた時には、狩る対象の魔物を自分の中に取り込んでいた。
生贄にするのとはまた違う、自分の身体と融合させるような感覚。
俺は、針のような毛と固い甲羅のような装甲を纏った魔物になっていた。*]
でも、今回の任務は俺達を殺す事なんだろ。
[それなら一緒ではないか、と告げる声は、廃屋で聞いたのと変わらぬ響きだっただろう。]
ふーん。そう。
何かあったら言ってよ。
取り敢えず俺、ヴェスさんのところに行ってくるんで。
[彼の事をまだよく知らない故、突き放した口調は彼の地なのだろうと。
返す言葉は仲間に対するものと変わらない。]
まったく…うるせえな。
[何処からか胸を締め付ける様な憎悪
堕ちた理由なんて聞く必要は無い。
聞いたところで何も出来ない事位よく判っている。
魔物が集う中、雨に掻き消されるほどの小さな声で呟いた]
何かあったら…さっさと逃げろ。
[俺もお前も仲間でないから。
互いに見捨てて生き延びろと。
憎悪に満ちた彼には届かないだろうからこそ呟いたのだ]
【人】 店番 ソフィア―回想・巨木の元でヴェラと― (141) 2013/06/15(Sat) 00時頃 |
【人】 店番 ソフィア[そこまで考えて。 (144) 2013/06/15(Sat) 00時頃 |
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