147 書架の鳥籠
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[シメオンの術がレティーシャの姿形を変えていく。
それを 私は ――― 止める事はないまま、]
―――
[溢しかけた言葉は、喉の奥で止めた。]
シメオン君、ご苦労であったな。
[かわりに、しっかりと仕事を成し遂げた助手に労いの言葉を伝えた。]
願いを叶えて、
私は…戻らねばならない。
魔女を殺されては、
願いどころではないのだ。
[そもそも、魔女を殺すための条件は我々の死であって、]
―――… 私が死んでは 意味がないのだよ。
[死んだ妻と子に、もう一度、命をと。
そう魔女に願った男は、 強く意志を持った声を響かせる。]
[かくも魔女とは恐ろしく、人の心の弱い部分に入り込む。
それに吞まれてしまった男は、叶えられた願いに縋りつく。
叶えられてしまったからこそ、
もう、今度こそ ――― 失いたく、ないのだと。]
決めなければな。
[まだ魔女は満足していないのだ。
サイモンだけでは、
レティーシャだけでは、
――― 足りないのだ。]
[誰を人形にしていけば、より満足してくれるのだろうか。
正体を気付かれずに、犬に食われずに、
私は、――― また 人形にしなければ、ならない。]
……
[サロンを見回して、誰を、と 考える。]
[誰を。
そう、見る力、守る力、それらは邪魔なのだ。
だから、探偵気取りで人を惑わす。]
[よくやった、褒めてくれたのに泣いていた自分は何も返せなかった
それを気にするように、おずおずと掛ける声]
リア、占い師、とかなのかな?
……どうしよう?
――…、グロリア嬢だったか。
[静かに響く声に抑揚はない。
彼女がそうなら、自分には危険な存在である事には変わりなく]
さて、見つかってしまったな。
シメオン君。
…、我々は 生きねばならない。
殺されては、叶えられた願いごと消え去る。
ならば、――
[それなら、と。
シメオンの言葉が、こちら側の聲が聞こえれば]
白を切るよりは、
…対抗する方が 得策ではないかな。
ね、ねぇオズ…これでいい?
[また奪われる、その不安で怯えた幼子のようになっている]
やだな、やだ、怖いよ……
―― 良くできたな、シメオン君。
[いつもと変わらぬ口調でシメオンへと聲を届ける。]
頭を撫でて褒めてあげることも
抱きしめて落ち着かせてあげることも
今は叶わない。
それでも、私は ここにいる。
シメオン君は1人じゃない。
だから、恐がることなど何もないさ。
よ、良くできた……?
うれ、しい。
[掛けられ慣れない言葉に思わずオズワルドを見るが、丁度彼の"推理"が始まったところなので問題は無かったか。
ぎこちなく、素直な言葉を口にする。
そんな風に両親にも言ってもらいたかった。頭を撫でてもらいたかった――]
うん、うん、一人じゃない、よね……
ありがとう、ありがとう。
[一人じゃない、その言葉がどうして深く心に染みるのか
「弟に会いたい」言葉のまま願いを叶えられ、人形と化した弟に会い、それを無理矢理に幸せなのだと自分に思い込ませたシメオンには、分からなかった]
…、状況は傾いたまま、か。
厳しいな。
[ふむ、とひとつ唸る気配。
けれど、さほどそこに悲しさは滲まない。
このままでは、シメオンが――と、解っているのに。]
ひとりではない。
…違うな。
ひとりには、させないよ。
シメオン君。
……どうしよう
[シメオンは焦りの気配を漂わせ、おろおろと]
……オズ?
[しかし彼からはそういったものを感じない]
オズ、何か作戦があるの……?
[そんな様子で一人にさせないという彼を、そういった風にシメオンは取った]
策か。…シメオン君を援護はしても、
人の感情まで動かすには至らなければ、
ここで策は尽きて
君は、獣に喰われてしまうのだろうな。
ごめんね
ごめんね……
[意味も無い謝罪が声となり届けられる]
謝る事はない。
シメオン君は、頑張ったじゃないか。
…だから、謝らなくていい。
本当の占い師が解った。
…、それだけでも大手柄だよ。
[相変わらず抑揚が薄い声で、]
等価交換…、か。
それは手柄じゃない!リアが先に言い出したんだ!
[どうしてまだこの人は変わらないのか、役立たずと自分を罵らないのか分からなくて泣き叫ぶ]
僕のせいできっとオズも……
[その先は、口に出来なかった]
…、だから 言っただろう。
ひとりには させないと。
[それは既に決められていた覚悟の言葉。]
肉体を奪われた我々は、
こうなった時点で一連托生なのだよ。
私がそこまで推理できていないとでも思ったかい?
……そんな
[意味を理解すれば、何も言えなくなった。
レティーシャの父親のようだった彼は、15の自分が想像出来ない程に大人だったのだ]
さて、次は私の番――だったな。
[どんな状況であれ、魔女の願いを叶えなければならない。
それはまるで、呪い、のようだと自嘲気味な思考をする。]
大切な仲間を悲しませた罪は、
大きい。
[故に、術を使う相手はグロリア嬢と決めている。
結果はどちらでも構わない。
どちらでも――結果は、 ]
オズ……
[敵じゃないと言える唯一の大人
彼が何を思っているか知った後では、人形にする相手のことを口にする声も、痛ましく申し訳なくしか感じなくて]
……うん、頑張ってね!
[無理矢理元気な声を出した
これ以上謝ってもどうしようも無いのだ――]
…、シメオン君。
もしレティ嬢に会えたら 伝えてくれ。
[ぽつりと、願いを囁く。]
君は自分が思っているよりも強い子だと。
そして、君との記憶は…
私にとってかけがえのないものだったと。
私はね、無理に自分の感情を堪えるのは
大人になってからでいいと思っている。
故に、シメオン君。
君と、レティ嬢は似ている気がした。
そして、わたしは…そういう君達を放ってはおけない。
――― 酷く汚れた大人だと、いうわけさ。
……
……オズ
[悪足掻きをしていても、この人がそう言うなら]
……分かったよ、話を聞いてくれたらね
[もう意味はないのだろう、全て]
――― 追い掛けはしないよ。
[サロンに留まったまま、聲だけを仲間へと向けて]
けれど、最期の時まで忘れないで欲しい。
シメオン君。
君は1人ではない、と。
…、抱きしめて慰めてあげられなくて すまないね。**
……あはは、はは。
オズがお父さんだったら、良かったのになあ。
[それがオズワルドに届いたシメオンの最後の声]
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