299 さよならバイバイ、じゃあ明日。
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[葬儀屋の元へ向かおうとしたところで、不意に声がした。
ソランジュ、と上がった名前には、ひとりびくんと肩を揺らして。]
――ソランジュ、か。
見かけたとも。……見かけたとも。
[嘘は言っていない。これから狐がこちらにやってきたら粉屋に会えるなどとは言っていない。
しかし、声はずいぶんと震えてしまった。
喉から出す声より、ずっとこちらの声は平静を繕いにくい。]
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――自宅から葬儀屋へ――
モイスチュア。 戻っているかい。
[選んだ花を携えて、葬儀屋の元を訪れていた。 逝ってしまった3人に、別れを告げるため。
もし、もし、もしもだ。 葬儀屋の元に行く前に草屋に寄って花を買い求めていたなら――いいや、詮ない話だった。
すみれの花は、水に流れていくか。 アネモネは、機関車の動力となるか。 露草も、できれば水のあるところに供えたいと思ったが、葬儀屋は粉屋の欠片をどうしたろうか。 見送る間は頭の中が真っ白になって、ただじっと、彼らが昇っていくのを見つめていた**]
(4) 2019/10/12(Sat) 00時半頃
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[見送った3人のそれぞれの最期を思う。
彼らは死を良いものにできたろうか。
少なくともソランジュは、意図しないものだったのではなかろうか。
虚しさに少し、目を細めた。]
……どうだろうな。
[いずれ訪れる死をいいものに。
したいか、と自分に問えば、答えはなかった。
何がいいのか、良くないのか。
それすらもよく、わからない。]
[痛い、苦しい、自分の身体が自分の意志で動かない。
それは本当に怖かった。
せめてそんな時間がほんの一瞬であれば。
自分にとってのいい死に方はそれかもしれないと思ったが、どう死ねばそうなるのかもわからない。
死を迎えるための準備をするというのもどうも性に合わない。その間ずっと不安に震えてしまいそうだ。
怖がりの耳長は、ただその時が来るのを平然と待つばかり。]
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[いつの間にか、雨が降ってきていた。 涙雨だろうか。いや、だとしたらこの街は毎日雨だろう。
誰かと別れながら、日々はゆっくりと過ぎていく。 列車が行き過ぎるのを見つめ、街を見まわる。 ああ、今日は草屋に行かなくては。 花を。花を買い足さなくては。]
(17) 2019/10/13(Sun) 14時半頃
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[雨は止む気配なく、少しずつ強まっていた。 だというのに、どこからか祭り拍子が聞こえてくる。 時折はじまるこの『祭り』には、天気は関係ないらしい。]
ああ……
[異邦人。 つまり、この街の人間でない者が見つかると、こうして盛大に祝うのだ。理屈はよくわからないが、死の運命を抱いてはいない、ということを祝うのかもしれない。]
(22) 2019/10/13(Sun) 20時頃
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[草屋への用は至急のものではない。 一日二日ずれたとて、花たちの乾くのが少し遅れる程度だ。 なんなら生花を餞にして悪いことではない。
それらすべてが叶わぬことと知らぬまま、ふらり祭り囃子の聞こえる方へ。]
(23) 2019/10/13(Sun) 20時頃
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[途中、汽車が側を通った。 轟々と音立てて走り抜ける中心部には、今日も機関士の犬がいるんだろうか。 そこの炉に、白竜の命は燃えているんだろうか。
しばし列車が通り過ぎるまでの間、いつものようにそれを見送った。 歯をきつく噛み締めていたせいか、鎧はあまり鳴らなかった。]
(24) 2019/10/13(Sun) 20時頃
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[やがて、祝賀会の中心に辿り着く。 輪の中央にいたのは、ついこの間も話をした。]
……イナリ。
[普段以上に美しく着飾った起動時の狐を見て、ぽつりと名を呼んだ。 ああ異邦人だったのだ、と思う。 花冠は、誰かが草屋の花を冠に拵えたんだろうか。 似合いだと思いながら、少し複雑な気持ちで見ていた。]
(27) 2019/10/13(Sun) 20時半頃
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[異邦人というからには、ここに来た理由があったはずで。 例えば死の運命から外れたというだけで街から出してしまっていいのだろうか。 狐の本心を耳長は知らない。]
――――……
[ただ、もしもこれが自分だったら、あまり嬉しくはないかもしれないなと今更ながら思ってしまったのだった。]
(28) 2019/10/13(Sun) 20時半頃
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[とはいえ宴会には巻き込まれるもので、飲めや歌えやの飲めやが回ってくる。 食べ物については種で差はあれど、飲み物はたいてい差がない。 グラスを受け取って、ひと息に飲んだ。]
……見回りに戻るよ。 宴会騒ぎで何かが起きないとも、限らないから。
[言って、輪を離れようとする。 まあ、すぐにまた別の輪に巻き込まれて、なかなか離れられないのだけども**]
(29) 2019/10/13(Sun) 20時半頃
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[ぽんぽん跳ねた毛玉には軽く手を上げる程度。 ンゴティエクの声も聞こえた気がしたが、彼の小さい身体は、虹色をしていたとしてもなかなか人混みでは見つけづらい。
結局満足に話すようなこともないまま、街の見回りに戻った。]
(40) 2019/10/13(Sun) 23時頃
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[雨が降っている。 多少の水なら鎧が弾いてくれるから、耳長は雨を気にしない。 祝賀会に浮かれて人気の少ない街並みを、自警団員は歩いていた。]
……草屋は、どうしているかな。
[雨の日は、草にとっては恵みか、試練か。 買い物もあったので様子を見に行こう、と足を向ける。]
(41) 2019/10/13(Sun) 23時半頃
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[そうして。 生い茂る草花に囲まれた草屋の棲家と、息絶え尾を齧られた草屋を、見たのだ。]
ああ――――
[逝ってしまったのか、と呆然とした。 彼が最期の灯火を懸命に燃して生やしたらしき一面の草々には、チモシーやクローバー、とりどりの花をはじめ、街の人がいつも草屋に買い求めるすべてが揃っていた。 無論、いつかは枯れるか、使い尽くすか、不足することはあるだろう。 それでも、出来うる限りのすべてを――彼は、街の人々のために使ったのだ。]
(42) 2019/10/13(Sun) 23時半頃
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[いつも花を手向ける長耳も、今回ばかりは何を送っていいかわからなかった。 コーラの生やした花を送るのは、突き返しているみたいに思えたし、かといって玉ノ木の実はいつも渡している。
だからといっては何だが、長耳はひとり、草竜の傍に添うことを選んだ。 夜が更けるまで、彼の身体が葬儀屋か或いは別の住人の手によって、ここを離れるまで。 長耳は少し痩せたような気がする草竜の背を撫ぜた。 鱗が少し、かたかった。]
(43) 2019/10/13(Sun) 23時半頃
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[次第、祝賀会も終わり夜が更けるにつれて、雨脚が強まる。 垂れ込めた暗雲は分厚く、そら寒く。 雲の中の氷つぶてさえ、祭り囃子に踊っているような天気になってきた。 流石に帰らねばならぬか、それともこのまま草竜の傍、雨宿りも兼ねて夜を明かすかと悩んでいた最中のこと。
視界をカッと強い光が焼いて、すぐ真近くに雷が落ちた。]
(44) 2019/10/13(Sun) 23時半頃
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[それは、自警団員の職業病と言ってもよかったかもしれない。 街に異変が起きた、と頭が認識した瞬間、外に駆け出していたのだ。 そこには、恐怖も何もなく、ただ衝動だけがある。 自慢の健脚で鎧を鳴らし、鳴らし。]
――っ!!
[落雷の現場にまさに着こうとしたときだ。]
(45) 2019/10/13(Sun) 23時半頃
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[落雷は、一度だけでは終わらない。]
(46) 2019/10/13(Sun) 23時半頃
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[雲の中溜まりに溜まったエネルギーが、駆け出してきた金属の塊を狙い撃ちにする。 空を裂く稲光を、誰かが見たろうか。 その真下に、街を守る長耳がいたのを、誰かが見たろうか。
ほんの一瞬、一瞬のことだ。 苦しむ暇もないまま、長耳は全身を落雷に貫かれて、命を吹き飛ばした。]
(47) 2019/10/14(Mon) 00時頃
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[あとに残るのは、がらがらと崩れた金属鎧と、焼け爛れた獣**]
(48) 2019/10/14(Mon) 00時頃
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