64 色取月の神隠し
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稲荷山の……ああ。
お名前だけは。
[親戚の友の親戚の、そんな狐付き合いを通じて、遠い主とも言える神の御名は、伝わっていた]
へええ。会ったことがあるんだ、ねえ。
[感心したような、羨ましそうな声が漏れた]
……あぁ、名前かい?
己は、今は藤之助って名乗ってんだ。
芙蓉ね、なかなか佳い名じゃないか。
藤に芙蓉に……夕顔。何とも雅な名が揃ったもんだ。
[狐の女――芙蓉に答え、ふと、夕顔のことを思い出した]
……清涼殿でのことは、何て言うのかなぁ。
絵巻物でも見るような感じなんだよなぁ。
[大妖の欠片でしかない今の男にとって
かつての立ち回りなど、どこか他人事のような記憶でしかない]
まぁ、昔の俺のしくじりだ。
あんたが気に病む必要はないさ。
[しゅんとする筝の女を慰めるように、軽い調子で]
[芙蓉に、そして箏の女にも
続けざまに雉の礼を言われれば]
……確かに世の中ってェのは
思ったよりも狭いのかも知れないね。
[意外な繋がりを知って、くつくつ笑った*]
普段、今みたいに自分で自分
持って歩くようなことしませんからねぇ。
なまじ付喪になるくらいの箏やから
神様の奉納やらで、雅曲を弾かれるやろ?
せやから縁が深いんよ。
むしろここみたいなお祭りの方が
うちは新鮮やなぁ。
沙耶も…ああヒトの娘な。
ええ子なんよ。
連れて行ってくれる言うてたから
楽しみにしてるんよ。
|
―前日夜・秋月邸― ……やぁやぁ、お世話になりますよ。
[出迎えた秋月家の使用人に 人好きのする笑顔を浮かべながら手土産の野兎を渡して 跛足の男は軽い調子でひょこり、邸に上がり込む。
如何にも怪しげな風体の男を、使用人が咎め立てなかったのは 事前に主に言い含められていたからか、或いは彼らがあやかしに誑かされていた為か、果たして――]
(121) 2011/09/14(Wed) 00時半頃
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藤之助――
[黒烟を纏う男の名を聞けば、渋い顔になった]
なんとかのすけだの、なんとかえもんだのは、覚えにくいんだよ。
藤でいいかい。いやなら雉。
夕顔……そうだね、花の名ってのは、綺麗なもんさ。
自分の名前も、気に入ってるよ。
藤、あんたはさあ、人間に――
――誰が何をしに来たか、何したいのか、邪魔はしないつもりだけどさ。
今は、雷門に目をつけられるような真似、しちゃだめだよ。
おとなしく、人の祭りを楽しんでるのが一番さ。
今は、まだ、ね。
[藤之助だけではなく、囁きの届く皆へ釘を刺し。
社に宿る神の気を、そうっと窺った*]
おまつり、賑やか。
[響きあう、いくつもの気配。
まつりの喧騒に紛れる、あやかしどもの気配]
|
―祭りの日・秋月邸書斎―
……朝も早くから随分、精が出ますな。
[邸の客となった男は勝手知ったる他人の家とばかりに 書斎の入り口から不躾に中を覗き込み 行儀悪く畳みに寝転がる秋月>>116に声を掛けた] ちょいと失礼。
[ふと、一番近くに投げ出された書籍を拾い上げ、ぱらり頁を捲る]
何が何やら。ちんぷんかんぷんだ。 こんなのを好んで集めるなんて、旦那も面白い人だなぁ。
[外の国の文献など、男には全く分かりようもないが その持ち主の好奇心の有り様はなかなか興味深い]
(140) 2011/09/14(Wed) 01時頃
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呼びたいように呼んだら良いさ。
……だが、雉はなァ。んな名前だと、皆に喰われちまいそうだな。
[どうせ適当に付けた名だ。きちんと呼ばれる必要も無い]
己が、人間に?――その続きはなんだろうね。
[男へ何か言いかけた芙蓉に言葉を促すが
答えがなくても気にした素振りは見せない]
……まぁ、いいさ。
己も下手打って、雷門さんの罰を当てられる心算はないしね。
忠告通り、大人しくしておくさ。
[今はただ、時が満ちるのを待つのみ]
おなかへったなぁ
おしろいたべたいなぁ
[人の姿じゃ呟けない言葉は、囁きとして漂う。]
飴も、餡菓子も、
綺麗だけど 食べられない……
賑やかでええなぁ。
えらい可愛らしい気やけど、童子さんやろか?
ああ、挨拶まだやったな。
琴古主の志乃言いますんよ。
まだ会うてないけど、よろしく
|
……この書物で学問をすりゃあ、 何でも分かるようになるのかねェ。
[だとすれば仁右衛門の道楽も捨てたものではないな、 などと勝手なことを思いつつ、目を眇めて本を眺めた**]
(148) 2011/09/14(Wed) 01時頃
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人間に――罰を、当てにきたのかなって。
[刀傷持つ鵺の思惑、世間知らずの狐は*そんな風に*]
会うてへん言うたら
奴延鳥さんとも未だやったねぇ。
出会うたら藤之助さんと
呼ばせて貰うたらええんよね?
もう皆さんお会いしてますん?
うち、昨日はヒトの子と遊ばせて貰ぅたからなぁ
けど、時間はありますやろうから
またいずれやろうね。
……?おしろい?
おしろい好きなの?おいしいの?
[目前の青年から漂う囁きに、首を傾いだ]
うん。わたしは夕顔。
一つ目の童子なの。お祭りだから、きたの。
琴古主の志乃…さん。
[見えないまま、気配にこくと頷いた。
ぺこりとお辞儀するような気配のみ、向こうの方へと届こうか]
丁寧にありがとな。夕顔さん
うちも、お祭り聞いて来たんよ。
ヒトの祭りを楽しめるんは
そうそうないからねぇ
楽しみましょうな。
[それだけがここに来た理由というわけではなかったのだけど…それは語る時でもなくて──
お辞儀の気配に応えるように柔らかく包むような音色を奏でる]
おしろい、おいしいよ。
おいしくて、大きくなれるし、増えるよ。
[好物のことを楽しそうに話した。]
……たつはたべないけど。
たべものじゃない、っていってた。
――――どうだろうねェ。
ま、雷門さんが目を光らせている限り、
己が悪戯をしたくても、結局何もできないだろうしなぁ。
[芙蓉の言葉に思惑を問われれば、核心は伏せたまま]
……あぁ、好きに呼んで呉れれば良いよ。
そうだな、己は志乃の他の面々とは挨拶は済ませているよ。
あんたの綺麗な声を、直に聞かせて貰うのを楽しみにするかな。
[時間があるから、またいずれ、などと言われれば
調子の良い言葉を向けた**]
くれぐれも、今は食うなよ…
[遠く聞こえてきた声に、釘を刺す声が囁きに乗った。]
まあ、おじょうず
[あやかしの世にもある社交辞令という物なのは百も承知だったのだけれど、妖にして幼き頃に見た大妖の言葉とあっては、妙に心も躍ったのだろう]
……ん
[嬉しさを音色にしないことに大変な労力を割く羽目になった]**
志乃もお祭り、好きなんだ…?
[辰次も藤之助も好きなのだろう。
勝手にそう理解をして、志乃もそうなのかと納得をする。
続いて響く、柔らかな音色には大きな瞳を瞬いて、]
…きれい。
[素直な感想が零れた]
[釘を刺す囁きに]
うん、がまん、する。
が ま ん
だいじょうぶ。
[答える囁きは、今はしっかりとした意志を持っている。今は。]
おいしくて、大きくなれて……増える?
……????
[楽しそうに話されても、良く分からない
分からない。と、満面表すことになってしまった。
貰った飴を舐めながら、首を傾げる]
おしろいでおなかいっぱいだったの?
飴よりおいしい?あまいの?
……??辰のお兄ちゃんはきらいなの?
[さっぱり分からない]
おだんごとおなじぐらい、おいしいよ。おしろい。
おだんごは、もう たべれなくなっちゃったけど。
[人であった頃、団子が好きだった。
まだ残っている記憶。時折いまでも食べられるか試してみることもある。……食べられない、が。]
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