88 吸血鬼の城 殲滅篇
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ヒュー、…
……大丈夫か?
[聖術をまともに受けた背後の男。
その安否を気遣うように声を送ってみる]
ああ、良くやった。
上出来だぞ、おまえたち。
[褒め言葉を紡ぐ声音は、裏のない、
ごく素直で嬉しげなもの。]
…どうやら。
[まだ目が眩んでよく見えないが、存在は消滅していないようだった。]
おまえも?
[クラリッサの死んだ後、愉悦を感じることなど終生ないと思っていた。
だが、今──]
……。
[彼らの声に、静かに微笑む。]
……ああ。
なんとかな。
[修道士の首筋に接吻ける直前、
苦笑と共に言葉を送る]
………アンタも、…飲んだほうがいい。
今でなくても。
[その言葉は酷く平坦な、感情を伺わせぬもの]
………。
[主の気配をうかがうように、
中空に目線を向ける]
………食事、したぜ。
たぶんちょっと残ってる。
な、……どうする?
[彼がムパムピスを眷属に変えたがっていたのは知っている。
此の侭彼を食い尽くしてよいものなのかと、
迷うように首を傾け]
……。
[上出来だ、という言葉に、
痛みを感じたように唇を噛む。]
(……そんな風に褒められんのは、慣れてんだよ。)
[人殺しで褒章をもぎ取る。
或いは、魔物の討伐で。
……寧ろそれが日常だった筈なのに。
じくじくとした胸の痛みは何故なのだろう、と
ぼんやりと、思う。
ヒトとして残る記憶の所為か。
……男の言葉に、
力の抜けるような安堵を感じた所為なのか ]
[どうする、と問われて考えたのは僅かな間。
良いことを思いついた、とばかりに頷く。]
そうだな。
おまえがやってみろ。
[修道士を眷属に変えろ、とごく簡単な調子で言う。]
子供というのも、可愛いもんだぞ?
[喉の奥に零れる笑いは、ドナルド自身のことも揶揄している。
だがなにより、元の仲間に闇の眷属へ変えられた聖職者、
それを、見てみたくもあった。]
変える、……って。
[戸惑い、揺らいだ声。]
どうやってだよ……?
俺、そんな遣り方知らねえぞ。
[己の拙い知識では、
レオナルドを蘇らせる事もできなかった。
続く言葉に含まれた揶揄には、険を露にした答え]
……っ、要らねえよ、おれは。
ガキなんざ、作りたくもねえ…!
おまえの血を、そいつの傷に注げ。
気前よくな。
傷がなけりゃ、作っちまえ。
[自身はそうしてきた。
他の眷属の中には違うことをしている者もいるが、
眷属にするという意識を持って血を与えるのは、同じだ。
いずれにせよ、相応しいやり方はいずれ本能が教えてくれる。]
しばらくオレは忙しい。
いいから適当にやっておけよ。
[噛みついてくる口調を笑いでいなしながら
ひらりと手を振る気配を送った。]
傷口から……。
[レオナルドの唇に塗りつけた時には、何も齎さなかった。
遣り方が間違っていたのか、と瞬きし]
……また適当に、かよ。
何に忙しいんだかな。
[続く言葉にはため息をつき、声を打ち切る。
――酷く苛立っている自分に気づき、舌打ちした]
辛くなったら、いつでも帰ってきていいぜ?
――― 魔物狩人に殺されんなよ。
[低い笑い声は、互いの姿が見えなくなっても響いていた。]
(――復讐じゃ、なかったのかよ)
(なら、なんで)
(なんで俺を)
[無意識に叩きつける。
それは聞こえない声であったかもしれないが。
……男は、己の血を
クレアに直接注いだわけではない。
獲物の血が必要なことなどは知らなかった。]
(俺を――殺さなかったんだ)
[復讐だった。
儀式で、単なる食餌でもあった。
娘を殺した相手を生かしてはおけない。
殺すだけでは飽き足らない。
最初は、それだけだったのだ。]
[胸の軋むような叫びの気配()に耳を傾け、
薄い、笑みのようなものを浮かべる。
言葉としては、なにも口にしなかった。]
[男の気配に、吸い寄せられる様に意識が向く。
伝わる薄い笑いの波動。
……頭の中を掻き混ぜられるような惑乱。
――自分への嫌悪感に、
くらりと眩暈のように視界が回った。]
(領主様はとてもお優しい方よ)
[鈴の鳴るように涼やかな、彼女の声。
微笑いかけてくれた。
薔薇の花を摘んでくれた。
綴られる幸福な思い出。
今頃、クレアは、あの男に笑いかけているのか。
――あの男はクレアを見て、微笑っているのだろうか]
本屋 ベネットは、メモを貼った。
enju02 2012/05/06(Sun) 12時半頃
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